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99話 ルーティは頬を赤く染める


 午後。


「そろそろ帰るか」


 俺は傾き始めた太陽を見て言った。


「うーん……そうだね、そろそろ時間かな」

「えー、まだいいじゃん!」

「でも、移動時間を考えたら、今帰らないと途中で日が落ちちゃうよ」

「……分かったよ。でもまた来ようね」

「ええ、またみんなで来ましょう」


 残念そうにするタンタを、リットが慰める。


「ルーティもそれでいいか?」

「うん、楽しかった。また来たい」


 結局、釣りだとルーティは子供のタンタより釣果ちょうかは少なかった。

 だが道具を片付け始めたルーティの顔は、とても名残惜しそうで、今日という一日を楽しんでもらえたことが俺にも伝わる。

 今日は釣りに来て良かった。


☆☆


「お疲れ様。明日、今日釣れた魚を使って料理するから、良かったら俺の店に来てくれ」

「うん絶対行くよ」


 タンタが真っ先に声を上げた。俺はタンタの髪をくしゃくしゃと撫でる。


「冬の海の魚は脂が乗っていて格別だ。楽しみにしておいてくれ」

「わーい」


 ルーティが両手をあげて喜んでいる。普通の人にはわかりにくい表情だろうが、俺にはあれが満面の笑みだと理解できた。


「それじゃあ、今日はここで解散だが。タンタの釣った分をミドやナオやゴンズに見せてやれ。きっと驚くぞ」

「うん! レッド兄ちゃん、今日はありがと!」

「ん、じゃまた明日な」


 こうして俺達は今日という休日を楽しく終えたのだった……かに見えた。


「ねぇお兄ちゃん」


 それぞれの家に帰ろうとした時、ルーティが俺とリットを呼び止めた。


「どうした?」

「リットの左手の指輪って、お兄ちゃんが贈ったの?」


 ピシリと空気が凍ったような気がした。

 ティセ、タンタは動きを止め、みんなが俺とリットに視線を向ける。

 ルーティは澄んだ瞳で俺の目を真っ直ぐに見た。そこにはまた、『勇者』のような相手を畏怖させるオーラがあった。

 俺は一度深呼吸してから、ゆっくりと口を開く。


「ああそうだよ。昨晩プロポーズした」


 ティセが息を呑む音がした。リットは緊張した様子で、両手の拳をぎゅっと握っている。タンタは不安そうに俺とルーティを交互に見ていた。


「お兄ちゃん」


 俺より背の低いルーティは、見上げるようにじっと俺の目を見つめる。

 そして、


「おめでとう、良かったね」


 そう言って嬉しそうに笑った。


☆☆


「いやぁ、緊張した」


 みんなと別れたあと、リットは笑いながらも両腕を脱力させ言った。


「でも意外だったな。ルーティはレッドのこと大好きだし、お兄ちゃんを取られるって不機嫌になるかと思ったんだけど」

「そうだなぁ。でも、ルーティが俺以外の人間に愛情を向けられなかったのは、加護のせいだ。それが無くなったから、もしかすると他にも良いなって思う人ができたのかもしれないな」


 ルーティは『勇者』の加護による精神耐性により、人間的な愛情を他人に抱けない状態だった。精神耐性が充実する前、つまりレベルが上る前に一緒だった俺に対する愛情の思い出だけが、ルーティが持ち得る愛情だったのだ。

 だがそれもルーティの『シン』によって、自由に耐性をつけたり外したりできるようになった。

 今のルーティは、誰とでも愛情を育むことができるのだ。


「なんか、お兄ちゃん離れするようで、俺ちょっと寂しい」

「レッドもたいがいシスコンだものね」

「むぅ……否定はしない」

「どうする、あの竜騎士オットーみたいなやつがルーティの相手だったら」

「闇討ちする」

「ま、真顔で言わないでよ。冗談に聞こえないから」


 冗談のつもりだったのだが……いざその時が来たら、果たして俺は冷静でいられるだろうか?

 相手がアレなら本当に闇討ちしかねない。


「もぅ、レッドったら」


 そんな俺の思考が伝わったのか、リットは苦笑していた。


☆☆


(という会話を、レッドさん達がしていることは手に取るように分かるのですが)


 私はティセ・ガーランド。暗殺者にして恋する勇者様の親友だ。

 先程、ルーティ様がレッドさんとリットさんの婚約をお祝いした。

 一見すると、ルーティ様がレッドさんを諦め、2人の未来を祝福したように見えただろう。

 ルーティ様の恋愛問題が解決したと、レッドさん達は思ったかもしれない。

 だが違う。いつも一緒にいる私には分かる。


「ルーティ様。良かったんですか?」

「何が?」

「レッドさんとリットさんです」

「ああ」


 コクリとルーティ様はうなずいた。


「リットは良い人だし、お兄ちゃんのことを大切にしてくれる。お兄ちゃんの奥さんになるならあんな人がいいなって、最近思ってたんだ」

「そうなんですか。それは良かった……けど、レッドさんが結婚してしまうのは寂しくないんですか?」

「寂しい? どうして?」

「ええっと……」


 ルーティ様は澄んだ顔で笑う。そこに悪意はなにもない。


「私は妹だからお兄ちゃんとは結婚できない。だから奥さんになるのはリットさんに譲る」

「え、ええっと?」

「結婚しなくても恋人にはなれるから」


 やっぱり全然問題解消されてなかった!

 ルーティ様は今日のレッドさんとの記憶を思い出しているようだ。表情の乏しい人形のような整った顔を少し赤くしている。


「お兄ちゃんは包容力あるから、2人くらい余裕。一番の奥さんはリットになって、一番の恋人は私になればいい」

「…………」


 レッドさん、あなたは大きな勘違いをしている。

 ルーティ様は確かに新しい恋をできるようになった。だが、恋愛感情とは等速で上がっていくものじゃない。好感度が高い人はより高く、より集中して上がっていくものなのだ。

 新しい恋ができるようになり、ルーティ様は毎日毎日、レッドさんへの好感度を天井知らずに高めていた。

 というか、もはや取り返しのつかない域まで来ているのでは?


 私と肩のうげうげさんは、どうしたものかと2人して首を傾げていた。

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