同窓会
昔の友人と飲んでいます。
「いや、明。久しぶり。と言っても1年前にあったけどな。」
豪快に酒を飲んで笑う。
「そうだな、和彦。お前も1年前とそんな変わらんな。」
俺も負けないようにあおってみたが、和彦にはかなわなかった。
「むりだよ。明君。和彦はここらでは有名な酒豪だもん。」
そういう割に全くペースが落ちないと思うのは気のせいだろうか?
「なあ、和美。俺にはおまえの方が弟よりも飲んでるように見えるけどな。」
何となくだが、そう思えていた。
「失礼だな。明君。私は和彦みたいに勢いで飲まないの。こう、ゆっくり味わってるだけだから。」
だれも、飲み方を言ってるんじゃない。
というか、量に関しては否定しなかった。
「いや、明。お前の目は正しい。姉貴は俺より飲んでる。なにせ、ここに来る前も飲んでた。お前が来るって聞いて・・・ぐはぁ。」
言い終わる前にビール瓶が和彦の腹に刺さっていた。
俺の目の前で繰り広げられた、壮絶な姉弟げんかに、俺は一気に酔いがさめる気分だった。
「おしゃべりな男はもてんよぉ。」
和美は相変わらず、ゆっくりと飲んでいた。
「ねぇ。今回はどうして帰ってきたの?成田さんところの1周忌にはまだはやいよ?仕事、クビになった?」
期待するような視線を感じた。
「縁起でもないこと言わないでくれ。それより、和彦は大丈夫か?」
目の前でのびている和彦をテーブル越しに覗き見た。
「まあ、死んではないと思うよ。」
全く衰えを見せない飲み方だった。
「で。なんで?」
唇を舌ですこしなめて、渇きを潤すしぐさが、とても妖艶に映っていた。
同級生とは思えない色気がそこにあった。
「ああ、仕事だよ。今度廃園になった遊園地ってのを扱うことになってその取材。」
俺は建前の理由を和美に告げていた。
「なぁんだ。てっきり私に会いに来たのかと思った。」
残念そうな表情は、それもまた魅力的に映る表情だった。
「まあ、会いに来たのもあるけどね。いろいろ俺のおぼえてないこともあるし。みんなのことも知りたかったしさ。」
笑顔でそう告げると、和美のペースが一瞬だけ落ちていた。
「え?ああ。みんなね。みんな・・・。」
そう言いながら、またハイペースになっていた。
「ここに帰って来て思ったよ。最近なんか葬式多くないか?徳田さんところだろ、新田さんとこ、そして木曽さんに長尾さんだっけ?去年は町長の大場さんと田所さん。街のえらいさんがみんな死んでるよな。ウチの親も香典代を俺にまで借りてたよ。」
俺は何となく自分で言いながら、変な感覚があった。なんだか知っているような・・。
突如頭痛が襲ってきた。
「ああ、頭が割れそうに痛い。早くも二日酔いが来た・・・。」
和美に水を用意してもらい、少し横になっていた。
まだ頭痛はとれない。
「そうね、変なことはあるのよね。長尾さんは最後、殺されるって言ってたらしいから。しかも、発見されたのはドリームランドの観覧車の中だって。内側からガムテープで室内を目張りしてたらしく、最後は熱中症でなくなったらしいわ。」
壮絶な死に方だ。まるで何かに怯えてそこに閉じこもったような・・・。
「やはりドリームランドには何かあるな。行って調べないと。」
そうつぶやくと、さらに頭痛が襲ってきた。
もう我慢も限界だ。このままここで寝かせてもらおう、勝手知ったる店だ。
俺はそう思って、意識を手放そうとしたときに、何となく気になったことがあったので尋ねることにした。
「なあ。和美。」
俺は眠い目をこすりながら、3人に見える和美の真ん中を見ていた
「誠の事ちゃんと見ていてくれよ?アイツお前の事好きだからさ。おれも応援・・・」
激しい頭痛とともに、俺の意識はなくなっていた。
あれ?最後は殴られたような・・・?
割れるような痛みをおぼえ、俺は頭を押さえつつ、体を起こそうとしていた。
そばには和彦と、なぜか俺の隣には和美が寝ていた。
店にはもう客はおらず、というか最初から俺たちしかいなかったが、明かりを落として店じまいしているようだった。
「いたたた・・・。」
とりあえず、隣で寝ている和美を起こそう。
俺は和美の枕になっている右手をあきらめ、左手で和美の肩をゆすっていた。
「おい、和美。おきろ。おまえ、こんなの見せられたら俺の理性が持たん。」
和美の胸元は大きく広げられ、豊かな双丘が目の前に広がっていた。
いくら酔っていても、無防備すぎだ。
「おい、和美・・・。」
その時俺のポケットの携帯が大きな音を出していた。
「ん。明君、おはよう・・・。」
全くいい気なもんだ。そんな笑顔見せられたらたまらん。
そう思いながら、携帯画面をみて、おれは酔いがいっぺんに覚めた。
(も ウ そ つ と し て お け)
メールで送られた文面はあの文字だった。
そして、俺の携帯はいきなり火を噴いていた。
「あつっ!」
思わずほり投げた先は、座布団だった。
「やばい。起きろ、和美。和彦。」
俺の必死の叫びで、二人とも起きた。
「火を消す。二人とも手伝え。」
酸素を断てばこれくらいはたやすい。俺は自分の座布団でその炎を抑えにかかった。
「和美。水。それは酒だ。やめろ!」
一升瓶を持ってきた和美を必死にとどめ、まだ寝ている和彦に叫ぶ。
「和彦、おきないと和美を襲うぞ!」
俺の叫びは和彦に届いたが、何を勘違いしたか、俺にくみかかってきた。
「いや、うそ。冗談。だから水もってこい、和美。」
もうわけがわからなくなっていたが、何とか火は消せていた。
「明。言っていい冗談と悪い冗談がある。さっきのは悪い方だ。」
改まって明がそう文句をつけていた。
明の後ろで和美がおとなしくしていた。
「ああ、すまん。はずみだ。さっき隣で寝てたから。」
思わず余計なことをしゃべったと後悔した。
さっきの繰り返しのように、和彦は俺にくみかかってきた。
「いや、だから、たまたまだ。お前も隣で寝てただろ。」
もう、やけだった。
「ん。そう言えばそうか。まあ、いい。で、明。何で火事になった?」
和彦は俺の燃えた携帯を持ってそう尋ねていた。
「それは俺も知りたい。」
そう答えるしかなかった。
何故だか、それ以上言わない方がいい気がしていた。
この姉弟を巻き込まない方がいいように思えていた。
「とりあえず、おばさんに何て言うか・・・・。」
俺は、無理やりそっちに話題を持っていった。
法螺要素満載です。