帰省
第2話です。よろしくお願いします。
「で、もっとましな嘘はつけないのか?」
ジト目でみられた。
「いや、本当なんですって、亨先輩。昨日のことははっきり思い出せないんです。なにせ、いきなりPCが稼働しだして、ボン。ですよ。どうおもいます?」
我ながら説明ベタだ。
「わかんねーよ。というよりも、おまえ、俺がバックアップ持ってなかったらクビだぜ。クビ。そのあたりのことわかって言ってる?」
頬杖をつきながら、タバコで俺を指さしている。
その姿は、呆れ果てていると言ったところか・・・・。
「本当にすみません。二度とこのようなことは・・・。」
頭を下げた途端、ファイルで殴られた。
「おまえな、安っぽく頭下げんな。人に頼むときの価値が下がる。するんなら土下座しろ。」
無茶を言う。
けど、正直助かったのは事実。ならば・・・。
片膝をついた時に、肩をつかまれた。
「もういいよ。それより、さっきの話のつづきだが。裏野ドリームランドってあの裏野市か?」
亨先輩は、タバコに火をつけながら、聞いていた。
態度こそあれだが、目は真剣だった。
「ええ、俺の生まれ故郷でもありますが、それがなにか?」
その目の力にのまれそうになったが、かろうじてそこはこらえていた。
「いや、俺の先輩がな、そこで事故にあってな。その時のことを思い出してたんだ。」
意外な情報がもたらされた。
「へー。そんなことあったんですね。いったい何十年前のことですか?」
町は小さなものだ、そんな事故があったなら、俺が小学生でも知っている話だろう。だから、何気にそう聞いていた。
しかし、また頭をぶたれた。
「おまえな。俺を何歳だと思ってる?何十年も前のはずないだろうが、大体10年前だよ。いや、12年?まあ、そのくらいだ。ばかやろう。」
また殴られた。何かひっかかるが、何かわからない。
「12年前だとしても、おれ、小学4年ですよ、そんなこと聞いたことないなー。小さい町だから、事件や事故ってあっという間に広がるけど・・・。」
その当時で、大きな事件というか、話題になったのは、誠の件だ。
遊園地ができてすぐ、なぜかそれまで引きこもっていた誠を、学校で連れ出そうという試みがあった。
おれは、それまでかかわってこなかったが、小学校3年の終わりから5年まで登校してこなかったのに、いきなり6年になってそんな話になるのが不思議でしょうがなかったので覚えている。
クラスが違うから知らなかったが、誠はおとなしいやつらしかった。
しかし、あの遊園地。特にミラーハウスから出てきた誠は別人だった。
入る前はうとうとした感じだったが、出てきた後は全く様子が変わっていた。
記憶があいまいなことはあるが、以前と違った感じを受けた。
何よりもそれ以降は学校に来ていた。
勉強も休んでいた割にすんなりと追いついていた。
誰もが不思議に思っていた。
そして、ミラーハウスのなかで何かと入れ替わったのだとささやかれたものだった。
その時、俺の頭の中で何かがしきりに叫んだ気がしたが、頭痛のせいと割り切っていた。
「まあ、その当時話題になったのは、ミラーハウスの件ですかね。」
一応情報は伝えておく。これは先輩後輩の記者同士で必要なことだと教わっていた。
「ああ、それは知ってる。俺も気になったから当時の遊園地に関することは大体知っているさ。」
そう言って亨先輩は遊園地にまつわる噂を話していた。
ジェットコースターの謎の事故。
アクアツアーの不思議な生物。
そして廃園になった理由として噂されているたびたび子供がいなくなるという噂。
どれも俺が当時聞いていたものばかりだった。
「正直あのジェットコースターに乗ったことがないんです。というか、いつも点検中でしたよ。それにアクアツアーもその噂が流れてから、誰も近づかなくなりました。そして6か月で閉園になったのは子供が行方不明になるってやつ。俺たちの間ではだれもいなくなってないんですよね。不思議な噂です。」
妙なことがたびたび起こるから入ってはいけないと大人たちは言っていた記憶がある。
遠方から来た客も、結局なかで地味なメリーゴーラウンドとか、しか乗ってなかった。
そう言えば、昨日メリーゴーラウンドを見たような・・・・。
思い出すたびに何かが引き留めるように、俺は頭痛をおぼえていた。
「そうか・・・・。やっぱり何かあそこにはあるな、あの先輩の言葉はまんざら嘘でもないかもしれないな。」
亨先輩はそこで考え込んでいた。
「よし、お前ちょっと帰省しろ。そこで何でもいい、遊園地に関すること調べてこい。なんだったら、ボツになるけど、閉園した遊園地特集みたいな記事をでっち上げて聞きこめ。」
無茶苦茶なことを言っていた。
そう言いながらも、誠のオヤジさんの1周忌もあるし、ちょうどいいかもしれないと思っていた。
「わかりました。取材、経費おちますよね?」
俺は一応確認しておいた。
「ああ、お前の記事次第だがな。俺も掛け合ってやる。行って来い。」
落ちない可能性もあるのか・・・・・。
まあいい。
その時は有給分儲かったと思っておこう。
おれは、1年ぶりの帰省についてそう考えていた。
そう言えば、あれから誠にあってないな。どうしたんだっけ・・・・。
再び頭痛がおそってきた。
何かが俺の記憶を閉じ込めている。
そんな感じに思えていた。
誠と最後にあったのは、誠のオヤジさんの葬儀のあとだったな。あの時誠はなんていったっけ・・・・。
納骨も済み、手伝いを終えて帰る前、俺も電車に間に合わないかもしれないという中で、アイツはなんていったか・・・。
不思議と痛みはなかった。
どうやら、記憶の中でも。痛みを覚えるものとそうでないものがあるようだ。
「ドリームキャッスルの拷問部屋だ。」
俺は、小さく叫んでいた。
そうだ、誠はそこに行くと言って別れたんだった。
別れた後、誠と会ったか?
なんだかはっきりしない記憶は、やはり痛みを伴っていた。
その時。
「おい・・・・・・。」
亨先輩が青い顔で俺を見ていた。
(も ウ そ つ と し て お け)
俺の机のノートPCのスクリーンセーバーの文字がそう切り替わっていた。
そしてやはり煙を上げていた。
「ちくしょう。おい、明、ぼさっとすんな。燃えちまうだろうが!」
亨先輩の怒号で、俺は判断を取り戻していた。
何をそっとしておいてほしいのか・・・・。
不可思議な現象は昨日のことを断片的に思い起こしていた。
俺は何かを見たはずだ。
何かはわからない。
ただ、手掛かりはやはりあの遊園地なのだろう。
何とかPCだけの被害に抑えて、俺はそう思っていた。
噂は一応出てきました。