TS妖精さんだって恋がしたい!
かごのとり(@kagono_tori2)さんのイラストを元に、思い付いた内容の短編小説です。
妖精さんの設定をTS娘にしたいという、無茶な要求を許可してくださったかごのとりさんに深く感謝申し上げます。
イラスト転載元URL(許可を得ています): https://twitter.com/kagono_tori2/status/872423978668744705
※元イラストでは同級生に告白、という設定ですが「告白先は先輩」という設定にさせていただいてます。
「好きです! 付き合ってください!」
僕という生が潰え、私という生を貰い受け早数年。
男の性から女の性へと移り、変容してしまった心。
赤みを帯びた日差しを浴びた想い人に、想いを伝える。
俯いた僕の目に映るのは、自分と同じ大きさの想い人の手のひら。
僕はそこにゆっくりと近づいて、想い人の答えを待った。
▽
「おはよー、リズちゃん」
「おはよう、スゥ」
空中をふよふよと漂い、教室へとやってきた僕。
席へ着いて、隣席の女の子と挨拶を交わす。
リズ、私という生を受けてからの名前だ。
隣席に座っているスゥの背中には、光を浴びてキラキラと煌めく四枚の羽。僕の背中にも同じものがある。
僕たちは妖精族と呼ばれる。
本来は物語の中にしか居ないはずの生物。でも、僕がそれになってしまっていた。
ある日目が覚めたら天井が高いな、と思ってたら自分の体が小さくなっていた。
そして女の子になっていた。しかも背中には謎の羽があった。
さらには年齢まで退行していた。今年二十歳になったはずの僕は、十歳へと。
身に起こった状況の理解に苦しむ僕は、小さなベッドの上で立ち尽くしていた。
この世界は、ヒト以外の色んな種族が協同して生活する世界。妖精族も、その種族に含まれている。
記憶が正しければ、僕の居た世界とは違う世界。元の僕はどうなってしまったのか分からない。僕という存在を知っているのは僕しかいないのだ。
そして、このリズという子もリズという人格があったはず。
しかし僕はそのリズとなってしまい、私としてこうして居る。
大いに混乱したけど、受け入れざるを得なかった。
そうしてなんだかんだあったものの、なんとか高校まで進学することができた。
僕の居たはずの世界とは、種族の違う生物が居るというだけで、その他は概ね同じである。魔法だとか、そういった異質なものもあるにはあるけど。よくある物語で魔法があると科学が発達しない、なんてことはこの世界にはない。
こうして学校に通い、授業を受けるというのも同じだ。同じクラス内にはヒトはもちろんのこと、猫耳の生えた子や耳の尖った子、はたまた二メートルを超えたごつい体格の子もいる。
僕たち妖精族は、その中でもとくに身長が低く十五センチほどしかない。羽で空が飛べたりだとかいう特徴がある以外は、ヒトと同じ。
身長が低いため、目に映る景色がすべて巨大に見える。人形にでもなってしまったかのような気分だった。
妖精族用に作られたもの――例えば教室の机椅子――はあるにはあるけど、建物などはヒト基準なのだ。
それと、女しか居ないという特徴がある。従って父親は居ない。
何やら妖精族の子どもは、この神聖な木から産まれるらしい。
生殖器官はあれど、生殖能力はない。故に父親が必要ないのだ。少し寂しい気がするけど、妖精族ではそれが常識になっているので問題にはならない。
ただ、種族を跨いだ結婚は自由にすることができる。スゥにはヒトの父親がいるのだ。
まあそんな特徴があれど、年頃の女の子である。クラスメイトの女子と、男女のあれこれな話はする。彼氏持ちのたれ犬耳の女の子から、生々しい話を聞いたりして――。
キャーキャー言いながら聞く他の子を余所に、僕は相槌を打ちながら適当に聞き流す。
元々男として二十年生きてきたはずだから、性知識はそれなりにある。残念ながら、性交渉の経験はなかったけど。それはさておき、年頃の子には刺激の強い話も軽く受け流せるぐらいには余裕があった。
ただまあ女の子になって数年経つとはいえ、記憶が正しければ僕は元々男だったはずである。彼氏を持つなんてことはまず起こり得ないだろう、そう思っていた。
だけど、そんな考えは脆くも崩れ去ることになる。
☆
とある授業の帰り道。移動教室にて不運が重なり、僕は教室内に閉じ込められてしまった。
べつに鍵を掛けられてしまったわけではなく、扉が重くて自分で開けられなくなってしまったのだ。他の教室には体の小さい妖精族でも開けられる戸が設置されているけど、運悪くこの教室にはなかったのだ。
途方に暮れていた中、小さい体で懸命にドアをノックし助けを求めていたらたまたま通りがかったヒトの男の子に開けてもらえたのだ。
お礼を言うもその男の子は気にしないでと言い、立ち去って行ったのだった。
スゥやクラスメイトの情報から、一学年上のヒトだと言うのが分かった。つまるところセンパイだ。
そんなセンパイに関して、おかしなことが起きる。寝ても覚めてもそのセンパイのことが頭から離れないのだ。
ドアを開けてもらった、ただそれだけなのにまるでその場面が目に焼き付いているかのようだった。
授業も上の空で聞いていると、ついにスゥから心配されてしまったのだった。
僕はその理由を説明したのだけど。
「リズちゃん、それは恋してるんだよ!」
スゥの言葉に、雷に打たれたかのような衝撃を受けた。僕が、恋? 相手は男なのに? 元男である僕が?
しかしスゥの言葉を意識してしまうと、ポッと顔に熱が帯び始めた。
スゥはそれを見るなり、
「落ち着いてるリズちゃんがこうなっちゃうなんて、びっくりだね」
そう指摘されるけど、何も言い返せなかった。
男として二十年、女として五年余り。精神年齢は二十五歳以上にもなる。多少のことで感情が揺らぐことはない。
そう思っていたのに。本当におかしいことだ。
そのあと、こっそりそのセンパイの部活中の姿を見に行ったりなどしてしまっている。こういうとき小さい体は便利だ。気付かれずに様子を伺えるからだ。
ちなみにそのセンパイはバスケ部のエースで、ファンの子もいるらしい。
その情報を聞くと、胸がチクリと痛んだ。
「あのセンパイ人気あるし、ボーッとしてたら他の子に取られちゃうよ! 告白しちゃいなよ!」
「いや、でも……」
「もー、こんなときに落ち着かなくていいの! 後悔してもいいの?」
「……」
スゥにこの気持ちを相談すると、そんな事を言われてしまった。
そして、スゥに半ば押し切られる形でセンパイに告白することになってしまった。
スゥは仲の良いクラスメイトを集め、何かを話し合っている。それを僕は遠巻きに見守りつつ、どうすればよいのだろうか考えていたのだった。
そして放課後。トイレの鏡で百面相をしている僕が居た。
かのセンパイは、クラスメイトを通して屋上に呼び出してもらっている。どういう伝手があったのか知らない。
ここまで御膳立てをしてもらった手前、もう後には引けない。もはや、想いを伝えるだけである。
ただセンパイに会いに行くその前に、身なりを整えようと思ったのだ。
光を浴びてキラキラとしている、銀色のミディアムヘア。染めたワケではなく地毛なので、学校から注意を受けることはない。母親から教えてもらった、三つ編みカチューシャがトレードマークだ。
年齢に比べて幼い顔付きで、たまに中学生かと間違われることもある。ブレザーの制服に身を包み、胸には赤いリボンを結んでいる。
クラスメイトの子と比べても、かわいい部類には入れるはず。少なくとも容姿の上では。
ただこの身長のため、恋愛対象として見てくる相手はいないと思っている。どちらかというと、マスコット的な扱いを受けているような気がする。まあその役は、僕よりスゥの方が圧倒的に多いんだけど。
覚悟を決めた僕はパタパタと羽根をはためかせて、屋上へと向かう。
大丈夫、冷静に好きだということを伝えて、答えを聞くだけだ。
▽
そしてそのセンパイは先ほど言い放った僕の言葉に驚き、難しい顔をしていた。
なんと返事が来るのか、ドキドキする。冷静にと思っていたのに、センパイを前にすると胸の鼓動が早くなってしまっている。
しかしながら沈黙が続き、なんとも気まずいような気分になる。
どうしてこんな顔をしているんだろうか。ここで考えていた、予想のしていた悪い結末を予想してしまう。
だけど、このままではいけない。恐る恐る尋ねる。
「……えっと、種族とか、その……気にする?」
体面的に他種族と付き合うのを嫌がる、という子は存在する。
それはヒトに限ったことではない。そもそも妖精族にだって、そう思っている子はいる。
ここでそうだと言われたら、もう諦めるしかなかった。
けれどセンパイは即座に首を横に振った。
違ったことに安堵するけれど、それじゃあ一体なにに対して躊躇しているのだろう。
ほんの少し考え、僕はハッとする。
「あああ、あの、その……エッチな事とか……?」
告白のときにこんなことを聞くなんてとは思ったけれど。
この体で一番問題なのが体格差という問題だ。
当然ながら、ヒトと妖精族では身長は雲泥の差である。体がヒトの手のひらサイズしかない僕は、他種族とのエッチは困難を極めるのを理解していた。
今さっき告白されたセンパイが、そんなところまで考えているのかは定かではない。
だけど、付き合ったあとにこの問題にぶち当たる可能性は高いのだ。
要らぬ心配はさせない方がいいかと思った僕は――。
「そそその!! フェア……妖精族の身体はその、あの……柔軟? に出来てるらしくて!!」
「結構大丈夫って言うか!!」
妖精族の身体は、かなり柔らかい。相当無理な体勢を取っても、ほとんど苦しく案じない。
――その、他種族とのエッチでそういうことをされても問題はない。それは母親からも知識として教えられていたし、妖精族の中では常識として扱われている情報だ。
なんだか、さっきからとんでもないことを言ってる気がしてきた。
だけど――。
「その……あの……大きくなかったら……」
「えっと……全部は無理かもしれないけど……」
「あのあのあの!! 私頑張るから!!」
自分でももう何を言っているか分からないけど、何とかしてセンパイを繋ぎ止めたい。
そんな思いでセンパイの人差し指を両手に抱え、僕は矢継ぎ早にそんなことを口走ってしまう。
だけど、ここまで来たら言うしかない。僕は覚悟を決め改めて――。
「その……よかったら……付き合って……」
振り絞って出した言葉に、センパイは何かを決めたような表情を見せて。
そして、ゆっくり口を開く。
僕の告白に対する返事は――。
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