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第一話 「いきなり始まる新生活」


「着いたぞ……此処がお前が王より賜った役目を果たす場所だ」


 中世の騎士を思わせる銀色の鎧に身を包んだ若い男は、振り返り自身の後ろに付いて来ていた少年へとそう声をかけた。


 少年は白のワイシャツの上に紺色のブレザー、乳白色のズボンと言った所謂『学生服』を身に着けており、騎士風の青年と並ぶと実にミスマッチだ。

 癖のない少し長めの黒髪に黒目、顔立ちも悪い方ではないが『美少年』と呼ぶには程遠く、これといった特徴もない正に純日本人。

 身長や体型等は同年代と比べても平均値、学力の方もテストでは毎回の様に平均点を取る。

 スポーツも得意分野はないがどれであろうと()()()()の動きは出来る方。

 偏に言ってしまえば――――『まぁ普通』、と便利な言葉で評価されるくらいの少年だった。


 声をかけられたそんな少年――――『神野かみの 瀧哉たきや』は目の前にある建物へと視線を向け、下から上へと眺めた。

 主な材料は煉瓦の様な物であり、造形は欧州にある教会みたいだと瀧哉は思う。

 全体的に灰色なのは元々なのか、それとも時の流れでくすんだのかは建築や建造物の知識に乏しい彼には分からない。

 ただ一つ、そんな瀧哉にも言える事があった。

 それは――――


「……これが……孤児院……って言うか――――――――

 どう見てもじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ‼」


 瀧哉の叫びが建物の周囲にある木々の間を奔り抜ける。

 目の前にある建物は彼の叫び通りどう優しく見積もっても『廃墟』という言葉以外の価値を見出さない状況だった。


 壁の所々は剥がれ落ち数えるのも嫌な程にひび、いや亀裂が奔り回っており逆に斬新なデザインなのでは?と疑ってしまうレベル。

 窓に至っては割れていないガラス戸を探す方がずっと早く、入り口であろう扉も蝶番が壊れているのか閉まらずにズレていた。

 建物の周囲に目を向ければ、そこそこ広い庭部分には雑草が生い茂り自然そのままの庭園と化している。

 幸いにも雑草の背丈が高くないので鬱蒼とはしていないが。


 瀧哉の叫びを聞き騎士の青年も建物へと再び視線を向けしばしの間黙考。

 そして振り返り瀧哉と向き合うと、(瀧哉)の肩を優しく、本当に優しく叩き――――


「がんばれ♪」


 と、親指を力強く立てながら爽やかな笑顔を浮かべた。

 そして瀧哉の返答を待つ事もなく来た道を戻る為に歩を進めて行く。


「…………しかし……こんな所に孤児院、ってかあんな建物があったんだな……」


 そんな独り言を呟きながら――――





□   ■   □   ■   □   ■   □   ■   □   ■




 去っていく騎士の背を恨めしく見つめていた瀧哉であったが、その背中が見えなくなると一気に脱力しその場にへたり込んだ。

 彼の頭の中では『どうしてこんな事に?』と嘆き節が延々と鳴り響いている。






 事の始まりは学校行事の一つである臨海学習に参加した事だった。

 瀧哉が通う学校では毎年恒例になっている行事であり、行く場所も毎年同じで、在り来たりな怪談話がある以外は然程変わった話を聞いた事は無い。

 そして自由時間の折、クラスメート数人とそこに作られていた公園と呼べそうな広場で他愛のない会話をしていると、何の前触れもなく視界が歪み意識は闇へと落ちた。

 そして目覚めると全く見覚えのない場所に居たのだ。


 目覚めた場所は確りとした石作りの部屋であり、壁に設けられた無数の松明が光源となり窓の無いその空間を十分に光で満たしていた。

 瀧哉が周囲を見渡せば一緒にいたクラスメートの他、見知った顔やよく知らない同級生等およそ20人ほどが直径50mはあろうかと思う魔法陣の様なモノの上で座り込み、(瀧哉)と同じく状況の変化に困惑の表情を浮かべている。

 更に周囲へと目を向けると、その魔法陣を取り囲むかの様に装飾を施された紫色のフードとマントに身を包んだ怪しげな集団が居たのだ。


「……もしかして……これって……異世界召喚……とか?」


 誰かの困惑と歓喜が入り乱れた様なそんな呟きが聞こえると同時に――――


「混乱している所すまないが、一人ずつ此方に来てもらおうか。

 ――――まずは、……そこの貴様だ」


 入り口と思われる扉の前で金色の鎧に身を包んだ騎士がそう言いながら瀧哉を指さし、『来い』とジェスチャーをする。

 クラスメート達の視線が自分に集まるのを感じながら瀧哉はゆっくりとその扉へ向かう。

 騎士は無言で扉を開けると、


「くれぐれも粗相の無いようにな」


 と、声をかけ瀧哉を先へと促すとゆっくりと扉を閉めた。

 瀧哉は少しの間、閉じた扉を見つめていたが諦めた様に恐る恐る一本道になっている通路を進みその奥にあった扉を開ける。

 扉を開けた先には先程の空間とは打って変わり、煌びやかな装飾が施された床や壁、美術品の価値など分からない瀧哉でさえ『高価である』と思わせる調度品の数々。

 そんな空間を彼方此方に置かれた花達が更に彩っていた。


 空間の荘厳さに圧倒され惚けていた瀧哉であったが……


「何をしている!早くこちらに来んか!」


 突然響いた失跡で我に返り周囲を見渡した。

 そこには先程の騎士と同じ出立の者が数人、そして質の良い生地で造られていると一目でわかる衣装に身を包んだ白髪の壮年の男が立っていた。

 先程の声は恐らくその白髪の男性なのであろう、目で『早く来い!』と無言のプレッシャーをかけてくる。

 瀧哉が早歩きで男性の近くまでくると、周りの騎士達が一斉に姿勢を正し鎧独特の音を響かせる。

 男性もある方向を向き頭を下げ礼をとっている。


 瀧哉が男性の視線を辿ると其処には――――


 10段ほどの階段に装飾された赤い絨毯が轢かれ、その先にはまさに『王座』と呼んで差し支えない椅子に座る壮年の男性が一人。

 身に纏っている深紅の王衣、金色の王冠だけでも十分に伝わるがそれ以上にその男性自身が放つオーラとでも呼ぶべきモノが如実に彼の立場を物語っていた。


「クライアス王国の現国王でいらっしゃる『ボーデルド・フォン・クライアス』陛下だ」


 瀧哉の隣に移動していた白髪の男性がそう言うと、


「貴様が召喚者の一人か……で、どうなのだ?」


 王は瀧哉を鋭く見つめながらそう言葉を放つが、その問いは瀧哉に向けられたものではなく……


「…………ふむ、彼は――――要りませんな」


 何時から居たのか、王の隣に黒一色で統一されたフードを身に纏った人物が立っており王の問いに答えている。

 フードで顔が隠れている為、年齢は読み取れないが声からして相当な高齢である事だけは解った。

 しかし瀧哉にとってそこは割とどうでもいい問題であり、重要なのは先程の発言の内容だ。


「要らない、……って……何?……もしかしてこれって……死亡フラグってやつですか?」


 瀧哉のそんな呟きが聞こえたのか、そうでないのかは分からないが王の視線が変わった事だけは良く伝わっていた。

 良く分からない状況で、良く分からい場所で、良く分からない理由で……死ぬかもしれないと思うと瀧哉は大量の冷や汗を流し、『走って逃げよう』と無謀な事すら思考していた。


 だが――――


 何か言葉を発しようとした王を、フードの男が遮り耳元で何やら呟いている。

 王はその内容に眉を顰めるが、余程フードの男を信用しているのか息を吐くと……


「クライアス国王の名において命じる――――貴様は『孤児院』の運営をせよ」


 王が発した言葉が空間に響き渡る中、誰一人声を発さず身動き一つしない。

 命を下された瀧哉もそうだが、隣の男性も騎士達もあまりにも突拍子も無い展開に、


 『……………………はい?』


 と、声を漏らしていた。








 そして今に至る訳ではあるが――――


「……と、いうか……何にも状況の説明をされてねぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!

 何がどうなってどうしてどれがどうなんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!

 説明をッ!説明をプリィィィィィィィィィズゥゥッ!!」


 頭を抱えて悶えながらそんな悲痛な叫びを上げる瀧哉だったが、無情にもその問いに返る言葉は無かった。

 暫しの間嘆きの声を上げていた瀧哉であったが、状況が変化しない事を悟ると弱弱しく上体を起し先程の騎士に渡されていた鞄の中身を物色し始める。

 とりあえずやれる事はやろう、と少々投げやりな覚悟を決めたのだ。


 然程大きくない布製だと思われる鞄の中には様々な――――よく分からない物が詰め込まれていた。

 最初に手に取ったのは巾着袋の様な物で、中には五百円玉より少し大きめのコインが十数枚入っている。

 銀色・白色・茶色の三色があり、恐らく貨幣だという事は分かるのだが――――


「どれがどの位の価値なんだよぉ~……」


 貨幣価値も物価すら分からない為どうしようもなかった。


 次に手に取ったのは大きめの二つの石。

 瀧哉は『何で石なんか入れてるんだよ』と内心で突っ込むが、ふとテレビで見た光景を思い出し石を両手に持ってぶつけ合った。

 硬い石特有の高い音と共に一瞬だけ飛び散る火花を見て、


「あぁこれが『火打石』かぁ、初めて実物見たわぁ~」


 瀧哉は初めて使う火打石を何度もぶつけ合い飛び散る火花を楽しんでいたが――――


「…………虚しいぃぃ」


 暫しの現実逃避から急激に現実へと返りあまりの虚しさに絶望した。


「……とりあえず……入るか……」


 何とか立ち直り、瀧哉は建物の扉の前まで移動するが――――


「メッチャ怖いんですけど……」


 扉を開く事を躊躇してしまう。

 まだ日は高く、建物の周囲の木々も背は高くない為薄暗い所か十分に光が満ちてはいるのだが、建物自体はまるで心霊スポットでも通用しそうな雰囲気を醸し出していた。

 加えて瀧哉は相当なビビりである。

 しかし本人は気付いていない事なのだが、『霊感が無い』所か所謂『0感体質』であり友人達と肝試しをすると友人達には見えるモノも彼には一切見えないし感じない。

 逆を言えば霊側からも感じ取れない為実害や霊障に遭う事は無く、この先も無いだろう。

 だが実害が無い事と怖くない事は(イコール)ではなく、怖いものは怖いのだ。


 だが何時までもそうしていられる訳でも無い。

 瀧哉は深呼吸をすると腹を括り、勢い良く扉を開け放つ。


「幽霊が何ぼのもんじゃぁいッ!矢でも鉄砲でもフォイヤァァァァァァッ!!」


 そんな頓珍漢(とんちんかん)な言葉を吐き建物へと足を踏み入れる瀧哉だったが――――


「どぉっせぇいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!」


 力強い掛け声と共に何かが瀧哉の腹部を強打し、(瀧哉)は扉の外へと――――振り出しへと「ぐへぇぇっ」と言う言葉と一緒に転げ戻ってゆく。

とある作品に触発され、どうしても書きたくなったのです。

不定期ですが、もしよろしければお暇つぶしにでもどうぞ( ^-^)_旦~。


それでは次回で!

パイナポォ(「・ω・)「

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