初夢を見た、みたいな?
「お正月ったら、やっぱお餅を食べないとな~」
「お正月って?」
「お餅って?」
コリンとフェリシュカが同時に訊く。
息が合っていながら、聞き所が異なる辺り、いい感じの凸凹コンビだと思う。ま、言えば確実に反論が来るのが予想出来るから、敢えては言わない訳だが。
「俺の住んでた所では、新年の最初の七日間をお正月って言うんだ」
コリンにそう答えてから、フェリシュカの方に向き直って答える。
「お餅って言うのは、お米っていう穀物を~蒸してぇ~ついてぇ~柔らかくして、こねて~きな粉つけて~あ、きな粉って言うのは、大豆の粉ね。お砂糖と混ぜて甘くしてあってだな~~あぁ、砂糖醤油もウマイんだよな~あと、海苔まいて磯辺巻きとかな~」
「おい、おっさん、自分ばっか美味しい妄想してんじゃないぞ」
コリンがどこかソワソワとした感じで、ノートと羽ペンを差し出す。
「だからさ~こういう感じのね~」
俺は差し出されたノートの上に、餅の絵の落書きする。
「白くてな~、出来立てはモチモチでな~置いとくと固くなっちゃうんだけど、加熱すればまた柔らかくなるから、煮たり焼いたりしても、またウマイんだよな~あ、お雑煮って~のがあってさぁ、こう、出汁で餅を軽く煮てやるんだけど、これがまた……」
「……ごたくはいいから、さっさとそのノート寄越せよ」
コリンは餅の絵が書かれたノートをひったくると、人指し指で絵を軽くなぞる。と、絵がムクムクと盛り上がって実体化した。なんと、俺たちの目の前に、餅が現れたではないか。
「お~魔法使いさまさまだな~さすがだわ~」
そう率直な感想を言うと、コリンは何でもないという風を装いながら、そこには隠しきれない照れが、そこはかとな~く見え隠れする。
――フフフ、こいつおもしろい。
「流石に鰹だしはないだろうから、まぁ、鶏ガラで、洋風な雑煮とかかなぁ……あ、その辺の野菜とかも一緒に煮ると多分ウマイ」
そんな俺のリクエストで、フェリシュカが調理を開始する。程なく小屋の中に、いい匂いが漂い始めた。すると傍らで、コリンのお腹が、ぐぅと鳴った。
「フェリは料理上手だよな~いいお嫁さんになりそう」
そう言うと、フェリシュカがこちらを振り返って、少し照れた様にえへへと笑う。コリンと違って、フェリシュカは喜怒哀楽が分かりやすい。素直な子なんだなと思う。
「メイドなんだから、料理ぐらい出来て当然だろっ」
「当然にも、レベルってもんがある訳。まぁ、世間知らずのお子様には、フェリのありがたみなんか、分かんないんだろうけどな~」
「……」
コリンが何か言い返したそうに、口をパクパクしたところに、
「出来ましたよぉ~」
というフェリシュカの明るい声がした。
ふうふうと、湯気をたてる器に息を吹きかけながら、フェリシュカが注意深く、餅にその小さな口を付ける。
「熱いから気をつけろよ~」
「あっち」
言ったそばから、空腹だったらしいコリンが勢い込んで餅にかぶり付いて、顔をしかめる。それでも、スープの染み込んだ餅の味に、すぐに恍惚とした表情になった。
「……ウマ」
「んん~ふむむ~ん~~ん~~」
フェリシュカがびよ~んと伸びていく餅を、どうしていいのか分からずに、困った顔をして、目で訴えてくる。
「んん~ん~」
「何やってんの」
コリンが苦笑しながら、指を小さくひと振りすると、無事に餅が切れてフェリシュカがふぅ、と溜め息を付いた。
「……おいし」
そう呟いて、また餅にかぶり付く。
「よく噛んで食べろよ~喉に引っかかりやすいからな。あと、やけどに注意な」
「おっさん、注意が遅いんだけど」
すでにヤケドしたらしいコリンから、抗議の声が上がる。
「悪い悪い」
「でもま、ウマイから許す」
「だろ~?お餅さいこ~だろう?えへへ……」
「……おっさん……起きろよ、おっさん……」
「ん~ウマイだろ……えへへ……」
「おっさんっっ!」
「ふぁっ?」
気がつけば目の前に、いつもの不機嫌なコリンの顔。
――あ、あ。夢かぁ……
「つーか、餅、食い損ねたわ~も~ぅ、もう少し起こすの待ってくれればいいのにぃ」
「何だよ餅って」
「餅って言うのはね、…………」
(以下、もう一周……?エンドレス……?)