SEA - ADVENTURE ☆8☆
☆ 8 ☆
深い深い森の奥。
薄暗く、そこは霧がかかり人を寄せつけなかった。
「イット!いい加減にしなさいよ!!」
そんな場所から女の子の大声が響いた。
「もうっ!目離すとすぐさぼるんだからっ!」
「はい……」
そこには仁王立ちして怒っている女の子と、その前で正座している少年がいた。
少年は「イット=ハブ」
女の子は「マミロ=ランス」
「しょうがないよ~…イットはさぼりの名人だもん…」
「悪い癖だよな~…あ、癖じゃなくて特技だっけ?」
後ろからまた2人イットの背中にのし掛かる。
1人は少年で「シン=マスカ」
もう1人は女の子「リラ=ガロラル」
2人ともイットやマミロより少し幼かった。
「つ~…お前らな~……」
2人に後ろから潰され前屈みになる。
身体を起こそうとすると部屋内にノック音が響いた。
「お~い、お前らちょっとハブかしてくれ…」
扉の所にいたのは「カズミ=マグナロ」
イット逹の良き先輩である。
「カズミさん!どうしたんですか?」
イットはリラとシンに降りてもらうと嬉しそうにカズミのもとへ走り寄る。
「隊長が呼んでる……海の王が見つかったらしい…」
カズミはイットを見て話すと、その後マミロ逹にも聞こえるように話した。
一瞬にしてその場の空気が静まる。
「……ちょっと行って来るな?」
イットは振り返るとにっと笑いカズミと部屋を出て行った。
その後ろ姿を3人は不安そうに見つめていた。
「隊長、失礼します。カズミです」
「イットです」
2人は大きな扉の前に立ち、名前を名乗るとギギィ…と重い音をさせてゆっくり開き中へ入って行く。
「………やぁ、良く来たね!」
暫くすると真っ暗な部屋に声が聞こえ振り返る。
人の気配は全くなかったがいつの間にか2人の後ろに隊長と呼ばれる人物がいた。
「急に呼び出してごめんね~…いやね~海の王が見つかったんだ~!神崎野分って言うんだって!」
「……野分?」
隊長は変わらずおちゃらけた口調で話す。
なんとなく覚えのある名前にイットが首を傾げた。
「あ~…これ写真ね~!」
「つっ…あいつが、海の王っ…」
モニターにうつる野分の写真にイットは驚き固まる。
昨日の夜、見た顔に驚き、思わず声に出てしまい拳を力強く握り締めた。
隊長とカズミはイットを見つめていた。
隊長が前へ来ると真剣に見つめた。
「……イット…ついにこの時が来た…海の王を倒して自分を取り戻せ…」
隊長はイットに静かに、だが力強く言うと真っ暗な部屋に姿を消した。
「……大丈夫か?」
部屋を出てから無言のイットにカズミが声を掛ける。
「はい…大丈夫です」
返事をしたイットは真剣な苦しそうな顔をしていて、カズミはため息をつくとぐしゃぐしゃっと乱暴にイットの頭をかき回した。
「ちょっ…カズミさん!」
「あんま無理すんなよ?…俺達がついてる!」
カズミは後ろ向きのまま手を振り歩いて行った。
イットは握り締めていた右手を開きじっと見つめた。
「つ…ありがとうございますっ…」
そのまま柔らかく笑い、顔を上げると真っ直ぐ前を見て歩いて行った。
「なー…ジョラルロってシェスカといつから一緒にいるんだ?」
歩きながら野分がシェスカに問い掛ける。
旅のため城を離れる時、ジョラルロがなかなかシェスカから離れず、見送りも姿が見えなくなるまで座っているのが気になった。
「ん~…小さい頃かな…5歳になってなかったかな…?」
シェスカは考えながら話し、苦笑すると歩いて行った。
「そんな前から!?そりゃ簡単には離れられないはずだ…」
野分は納得し、また歩き始めるとそこにアロスが横に移動してくる。
「可愛そうですが、連れて行けませんし…」
「…それに、ジョラルロはシェスカの命の恩人でもあり、裏切りでもあるんだよ…」
「え……」
「ほらっ!早く行くよ!」
アロスからカリスの言葉に驚き、立ち止まり聞こうとするとシェスカに呼ばれ聞くタイミングを逃した。
今日は街に着かず野宿になりカリスとアロスは見回りへ行きシェスカと2人になる。
「シェスカとジョラルロってどうやって出会ったんだ?」
野分が気になる事を問い出す。
急な問い掛けにシェスカは少し驚くが話し始める。
「ジョラルロはまだ城に来る前…森で出会ったの……赤ちゃんだったけどライオンだからすっごい驚かれたけど」
「当たり前だ!!」
野分が思わずツッコミを入れてしまうとシェスカはくつくつと笑っていた。
「初めは噛まれたり引っ掛かれたりして大変だったけど、段々慣れてきていつも一緒に遊んだんだ!……私もジョラルロに助けられて…今ここにいる…」
「助けられた…?」
野分が首を傾げているとガサガサガサッと音がして振り向く。
「野分っ!!!」
カリスとアロスが慌てた様子で帰って来ると同時に真っ黒な陰のようなものが周りをユラユラと揺れていた。
「なっなんだ!!」
野分も立ち上がり構える、その前後を3人で囲み構える。
「……お前が海の王とはなっ…神崎野分…」
すると暗闇からイットが現れて真っ直ぐ野分を睨んだ。
『うわぁあっ!どいてどいて!!』
『本当ごめん!』
カリスと内緒で出掛けた時、上から降ってきた少年だと解り思い出した。
「俺はイット、今日は戦うつもりはない…」
イットは大きな杖を降り下ろし野分を睨んだ。
その表情は、辛く、苦しく、悲しい表情だった。
『早く捕まえろ!!』
「えっ…」
野分はイットの顔を見ると頭に声が聞こえた。
『両方だ!』
3人には聞こえていない、俺にだけ聞こえる声。
『いやー!!返して!!』
「つっ!?」
急に女の人の悲痛な叫び声に頭が痛く、重くなり頭を抑える。
「野分…?」
頭を抑える野分に気づきカリスが支え、アロスとシェスカも心配する。
『本物よ!信じて!!』
頭に聞こえる女の人の悲痛な叫びは続き、頭に響き、立っていられなくなりしゃがみ込む。
「野分!!」
シェスカが同じようにしゃがみ声を掛ける。
野分は真っ青な顔で顔をしかめる。
「海の王、神崎野分…」
イットが杖を降ろすと名前を呼ぶ。
4人は顔を上げイットを見る。
「俺はっ…お前が憎いっ!何もかも奪ったお前が憎い!!お前を倒して…自分を取り戻す!!」
イットは悲痛な顔でそう叫ぶと姿を消した。
陰もいなくなっていて、静まりかえる。
『早く!この子だけでもっ!』
野分の頭には悲痛な声が響き続ける。
頭が重いっ…頭がわれそうだっ…。
『つっ…さよならっ…』
「っ…………」
「野分っ!!」
目の前で何かが弾けて、視界が回る…。
体に力が入らない…。
"野分っ…野分!"
………父…さん…?
「ん………」
ふと目が覚めると、真っ白な天井が目に入った。
起き上がるとアロスがちょうど部屋へ入って来た。
「野分!大丈夫ですか?」
アロスが心配して走り寄る。
「ん…大丈夫…ごめん」
野分の様子に安心したように笑い胸を撫で下ろした。
「おー…起きたか野分」
そこへカリスも入ってきて、そばに座る。
「ここにはあんま寄りたくなかったんだけど、一大事だったからな…1番寄りたくないと思ってた奴が行くって言ったんだ…」
カリスが話しため息をつく。
「もしかして、シェスカが…?」
『野分!早く休ませないと!近くにガツガルがあるはず!!』
『ガツガルってお前大丈夫か!?』
『今は野分が1番!!』
シェスカの真剣で必死な顔…。
野分を抱えガツガルへ向かった。
「ここは…シェスカが過ごし、育った所…そして、シェスカが1番幸せをもらったところでもあり、1番悲しみをうんだところでもあるんです…」
アロスは静かに、ゆっくり話した。