SEA - ADVENTURE ☆73☆
☆ 73 ☆
突然のマガの出現……
久しぶりに海陸界に来て、2つの世界はこんなにも時間の流れが違うのかと実感した。
野分達が元の世界にいたのはせいぜい2週間程度…
その間に、海陸界で1ヶ月経とうとしていた。
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『グルルルッ………』
ジョラルロが部屋の隅からゆっくりとシェスカに近付き顔を擦り寄せ、喉をならす。
シェスカはジョラルロの目線までしゃがむと頭を優しく撫でて笑い掛けた。
「ここにいる兵士と女の子を部屋に連れて来たのはそのライオンだ…俺は結界で手いっぱいだった…」
カズミがシェスカとジョラルロの様子を見て話し、ジョラルロの刺さるような視線からようやく解放され緊張を緩めた。
「っ…ありがとう…ジョラルロっ!」
「ありがとう!お前がいて良かったっ…」
シェスカはぎゅうっとジョラルロを抱き締め、野分も頭を撫でる。
ジョラルロはゴロゴロと喉を鳴らしながら擦り寄り嬉しさを表現する。
ジョラルロもようやく緊張から解放され、安心したようだった。
「さて本題だけど…お前らが突然消えて、どうするか考えて、とりあえず海の王の城に行こうという話しになったんだ…向かってる途中だったのに…気付いたら…城内にいてーーー」
カズミは話しながら、微かな甘い匂いがして異変に気付き、それにカリスもアロスも気付き自ら口を覆う。
気付いた時には遅く、意識が朦朧とする。
「っ…マミロっ…」
気を失い倒れるマミロをハブが受け止めるがそのままズルズルと崩れ落ちる。
皆、立っていられなくなりバタバタと倒れ、動けなくなる。
「っ…何がっ……」
「よい…しょっ……!」
朦朧とする意識の中、声が聞こえて皆の間をゆっくり歩く足音がした。
ーーー「………ごめんな」
「っ…岳っ……?」
部屋内にいた皆は意識を失い、朦朧とする意識の中、岳の姿を見て野分も意識を手放した。
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ーーーーーー
ーーー
『勝者っ、ーーー!』
『気に入った!私と一緒に来てくれ!』
『っ…はいっ!』
ーーー楽しそうな…嬉しそうな声……
『今日兄様が来るんだ!お前にも紹介するな!』
『楽しみですね…!』
ーーー女の子と…男の子が笑ってる……
『はははははっ!!やったあっ!これで俺がっ!俺が海の王だ!!』
『…さ…ないっ…許さないっ!!!』
『ぅわあぁああっ!!鬼だっ…青鬼だっ!!』
ーーー悲しいっ…憎いっ…憎い憎い憎いっ…………
ーーーーーーーー悲しいっ………!!
ーーーーーー
ーーー
ーーーーーーーーピチャンッ……
「はっ……」
水の音にふと目を覚ます。
野分は辺りを見渡し、薄暗くさっきの城内の地下室を思い出す。
体はまだ痺れていて動けない、そのまま顔だけ動かすとすぐ傍でアロスがぐったりとしていた。
「つっ…アロスッ…!」
「っ…………」
アロスは野分が声を掛けても目を覚まさず、ぐったりとしていた。
良く見ると、アロスは身動きがとれないように拘束されていた。
ーーー「そんな心配しなくても、すぐ目を覚ますさ…」
すぐに岳の声が聞こえて、顔を上げる。
薄暗い中で良く見えないが目を凝らしてみると岳の横にもう一人いる。
その他にも後数人、部屋内に気配を感じ囲まれてるのが解る。
岳の行動の理由が解らず、考えているが岳の隣にいる人物に驚き固まってしまう。
「つっ……ーーー父…さんっ……?」
「よぉ!久しぶりだな!」
野分が驚くと、父さんは無邪気な笑顔で笑っていた。
野分が固まっていると父さんはすぐ前まで来てしゃがみアロスを見下ろした。
「この子があの青鬼、アロス=ミナス…本当、人は見掛けによらないんだなー……」
父さんはぐったりとしているアロスの髪をかきあげ顔をまじまじと見る。
「…記憶は消えてますが、間違いないです」
「そうかー…あの時の、青鬼の魔力が引き出せればなー…」
岳が父さんに話し、2人で何やら考えているようだったが野分には理解出来ず、動けないままただ2人の会話を聞いていた。
「あれ?もしかして野分知らないのか?」
「あー…多分、話してませんね…このことを知っているのもあの2人くらいでしょう…」
ーーーなんだ…?
ーーーーーいったいなんの話しをしているんだ…
「うっ……野…分っ…?」
2人の話しを聞き考えていると、アロスがふと目を覚ます。
まだ意識が朦朧としているのかぼーっとしながらも、ぐぐっと体を起こす。
「さすが護衛に選ばれるだけあるなー…もう動けるなんて…悪いな?お前には後から皆よりちょっと強いのを吸ってもらったんだ…」
アロスは顔を上げて話す父さん達を警戒して野分を守るように手を伸ばし睨んだ。
その瞬間、周りにいた気配が動いたと思った時には、目の前に1人の少年がいてアロスの髪を乱暴に掴み引き上げる。
「つっ…!」
「アロスッ…!やめろっ…父さんも岳も何考えてんだよっ!!」
痛みに顔をしかめるアロスに野分は2人を睨む。
「ロン、手は出さなくて良い…」
「大丈夫だ…」
父さんが言い、もう1人の男が声を掛けると少年は手を離した。
「つ…目的はっ…何ですか…?」
アロスは朦朧としながら頭を整理し、父さん達を睨みながら問い掛ける。
野分も不安気に目の前の人物を睨んだ。
その様子を見て、父さんは溜め息をつき片手を上げると人差し指を横になぞるように動かす。
すると薄暗い中、一冊の本が野分とアロスの前にふわふわと飛んできてあるページが開かれる。
「昔良く読んだだろ?海の王関係の本だ…初代海の王からのことが書かれている。ここだ…何故…5代目、6代目の名前が空欄だと思う…?」
「……5代目も、6代目も……短命だったと聞いてっーーーーー
"アロスっ!"
ふと、優しく名前を呼ばれる。
「アロス…?」
話している途中で止まってしまったアロスを心配して野分が声を掛けるが固まったまま動かず、父さんがアロスの額に人差し指を突き立てなぞるように動かした。
"アロス!今日は兄様が来るんだ!"
ーーーーー楽しそうに話す…女の子……誰…?
「さあ、思い出せ………
ーーーーーーーー青鬼、アロス=ミナス」
「つっ!?ぅ…ぁあああぁあーーっ!!!」
父さんがアロスの額から指を離し、パチンッと指を鳴らした。
その瞬間バチンッと何かが弾けアロスが叫ぶ。
「アロスっ!!」
それと同時に地下室の扉が勢い良く開いてカリス達が入ってくる。
皆の声が聞こえてすぐ、目の前が真っ暗になった。
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ーーーーー
"勝者っ、アロス=ミナス!"
"気に入った!私と一緒に来てくれ!"
これは…アロスの記憶……?
ーーー嬉しい…楽しいっ…!
ずっと…あなたの傍で………
"アロスッ!大好きだぞ!!"
ーーーーー…エ…ル………様………?