SEA - ADVENTURE ☆71☆
☆ 71 ☆
「やっと降りてきたー!早く早く!」
「皆、待ちくたびれてるぞー」
リビングに顔を出すと、空腹を皆で訴えていた。
「ごめんごめんっ…」
野分は笑いながらいつもの場所に座り、目の前に並ぶ朝食を見つめる。
湯気が出ているもの、出てないもの…
無意識に確認するようになった…。
気付かれないように…皆と同じように朝食を食べた。
ーーーーーーーーーー
「そういえば岳は?」
「昨夜遅くに海陸界に行ってくると出掛けたままです」
朝食の後、のんびりしながら岳がいないことを皆に聞き、アロスか答える。
「あいつは…ちょっとコンビニ行ってくるみたいなノリになってるな…」
野分は呆れるように笑っていたが、ふと疑問に思ったハブが話す。
「…その大賢者の力で海陸界に皆戻れないのか?今まで移動はあいつがしてたんだろ?」
「確かに………」
初めて海陸界へ行った時も、その後も、岳がコントロールしてるようだった。
「複数は出来ないとか…?」
「いや…初めて南月と岳が海陸界に来た時も3人一緒にだったし、人数制限有りとか?」
「そしたら今回のは…?」
皆で考えるが納得のいく答えが出ない。
「"そろそろ帰ってくると思ってた"…自分がコントロールしてるのに、そんなこと言うか…?」
「それに私達が来ても驚いた感じもなかったよね…」
皆で不思議に思うことを話しながら考えるが、誰も納得のいく答えが見つからず、謎が深まる。
「本人に聞いてみるか…」
「それが一番手っ取り早いな…」
野分とハブがそう言うと皆で頷いた。
「でも、いつ帰ってくるでしょーーー
ーーー「ぅわぁあっ!!」
そう話していると急に岳が現れて野分の上に落ちてくる。
……いうまでもなく、野分は潰されていた。
「っ…いってぇー…ハブっ…野分っ…野分は!?」
岳が頭を擦りながら目の前にいたハブに問い掛けるとハブは下を指差し目で追うとようやく野分を潰していることに気が付いた。
「野分っ!大変だ!!伸びてる場合じゃない!」
岳は野分の上から降りるとガクガクと揺らした。
………物凄く見覚えのある光景にハブとマミロが苦笑いをしていた。
「つ~…お前が落ちてきたからだろっ!!」
「それどころじゃないんだって!海陸界がっ、マガが復活したんだ!!」
岳の話しにビリっと緊張感が伝わる。
キッチンにいた母さんや鈴にもビリビリとした緊張感が伝わりぎゅっと手を握った。
良く見ると岳はびしょ濡れで怪我をしているのに気付く。
「げほっ…なんとか城は結界はってきたからミナタちゃん達も無事っ…大丈夫だと思うけど、時間の問題かもっ…」
「岳、手当てしないとっ…」
岳が話しながら南月が救急箱を持って来て手当てし始める。
「マガはどんな姿だった?」
「マガは本来、姿、形がないものです。見たもの、感じたもので姿を変えます…」
「その様子だと水関係か…海の王の力か…」
「隊長の見たイットの力っ…?」
皆が岳と話しているのを見ながら野分は決心するようにぎゅうっと手を握り締めた。
「つっ…行こうっ、海陸界に!!」
野分皆と顔を合わせ力強く頷いた。
「………野分っ…皆っ……」
声を掛けられ後ろを振り返ると母さんと鈴が海陸界の服を用意していた。
「母さん…ごめんっ……」
野分とハブが服を受け取る瞬間、そのまま2人一緒に母さんに抱き締められる。
「謝るのなしっ…ずるいっ…」
母さんは2人の間に顔を埋めて弱々しく呟く。
それを野分もハブもゆっくりと受け止め、暫くして母さんは顔を上げるとハブを見つめた。
「イット君、あなたに会えて幸せだった!産んだのも育てたのも私じゃないけど…私達は家族!いつでも帰ってきてね!」
「つっーーはいっ…!」
母さんはハブに真っ直ぐ思いを伝えると、ふわりと優しく笑った。
ハブは母さんの言葉に隊長を思い出し、泣きそうになりながらも笑って返事をした。
「母さん…約束するっ…父さんは必ず何があっても連れ戻すからっ…待っーーー」
野分が下を俯きながら話すと、母さんに両手で顔を挟まれ急に頭突きをされる。
「つ~~…!?」
「馬鹿野分!…あなたも一緒に帰って来るのよ!…あまり無理しないように!あなたの帰る場所はここだからね!」
頭突きの痛みに顔を上げると再びぎゅうっと2人で抱き締められる。
「っ…扱い、おかしくないっ…?」
「良いの!野分は野分!イット君はイット君!」
「ありがとうっ…」
3人で顔を見合わせるとおかしくなって笑っていた。
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「皆も気を付けてね!また会えるのを楽しみにしてるから!」
皆で海まで来て、母さんは皆に優しく笑って話し真っ直ぐ見つめていた。
「鈴も南月も、母さんのこと頼んだ…」
「お兄っ……!」
鈴に声を掛けるとぐいっと引っ張られる。
「次…帰ってきたら本当は誰が彼女か教えてよー?」
「だからそれは違うんだって!」
寂しい思いをしているのかと思ったがそんなことを話す鈴を小突く。
解っている…隠されている思いに……
「じゃ、行ってくるな!!」
野分は鈴の頭をくしゃくしゃと撫で、南月にも笑い掛けると皆の所へ走って行った。
「皆の魔力を集中させて…行くぞ…?」
皆、ゆっくりと目を閉じて集中する。
そのまま皆で海に飛び込んだ。
「………………………………」
バシャーンッと飛び込んだ音の後は、何も聞こえなくなり、静かに浪の音がしていた。
「っ…行ってらっしゃいっ……」
母さんは南月と鈴を後ろからぎゅうっと抱き締めた。
3人で暫く静かに浪の音だけが聞こえる海を見つめていた。