SEA - ADVENTURE ☆69☆
☆ 69 ☆
「………………」
シェスカと野分の話しを廊下で岳が聞いていた。
「…じゃあ、おやすみ」
話し終わって野分が近付いて来る、廊下にいる岳に予想通り野分が驚く。
「つっ…びっくりした…!!」
「………野分、ちょっと…」
誰もいないと思って驚く野分の腕を掴んで強引に外へ連れ出した。
その様子をシェスカが見送り、二階からカリスとアロスも見つめていた。
ーーーーーーーー
「おいっ…痛いって!岳、なんなんだよっ…!」
「っ……」
何も話さずグイグイと腕を引っ張り前を歩いて行く岳の腕を野分が振り払ってようやく止まる。
「っ…どうしたんだよ…?」
いつもと違う様子の岳に野分が問い掛けた。
岳は下を俯きながらゆっくりと野分を振り返った。
「…お前…解ってないだろっ……」
「何…?」
岳は震える手をぎゅうっと握り締めた。
「"海の王"今その力を持つのは野分だ…だけど生まれながらに持っていたのはハブ…こんなこと言いたくないけど…自分が作られた存在、人形だって…偽者だって解ってるだろ…?」
「つっ…人形なんてっ…そんなの解ってるよっ…!なんで今更そんなことっーーー」
岳や南月には言われたくなかった言葉を聞き、傷ついた野分は悲しい顔をして叫ぶ、だが岳がもっと悲しそうな顔をしていることに気が付き何も言えなくなる。
「偽者は…どうなると思う……?」
岳はそのままゆっくりと野分に近付き目の前に立った。
「ーーーーー気付いてないと思ったか……?」
岳の言葉にゾクッと寒気がして動けなくなった。
ぐいっと腕を掴まれ痛みが走る。
「人間の持つ五感…視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚、…既に触覚と味覚はほとんどないだろ……そこにプラス睡眠も薄れてきている……」
岳が真っ直ぐと睨みながら話し、野分は何も言えず、目を離せなくなる。
「お前はこのままだと全てを失う……俺が海の王の力をハブに戻す方法を探すっ…親父さんだって俺が連れ戻すっ…だからお前はもう海陸界へ行くなっ…!」
岳は下を俯き野分の肩を掴み苦しそうに叫ぶ。
今まで見た事のない岳の姿に野分は驚くが、肩を掴む岳の手を離させる。
「岳…俺さ、偽者だって言われた時どこかで安心してた…でもハブの話しとか自分の話し聞いて、初代やミカロさんの事も知って、安心した自分が情けないと思った…第15代目海の王は野分だって言われた時、決めたんだ……」
下を俯きながら話し、野分はゆっくりと顔を上げて真っ直ぐ岳を見つめた。
「俺が第15代目海の王、神崎野分だ!マガを倒すのも、父さんを連れ戻すのも、俺がやるんだっ!」
野分はそういうと昔と変わらない無邪気な笑顔で笑っていた。
「……全てを失っても…海陸界を選ぶのか…?
ーーー自分自身がどうなるかも解らない…消えるかもしれない…それでも…海陸界へ行くのか…?」
岳が真っ直ぐと野分に問い掛けると、野分はゆっくりと頷いた。
「っ…はあぁあ~…………」
暫く沈黙の後、岳の嫌みな程のため息が聞こえビリビリとした空気が緩んだのが解った。
「解ったよ、俺が見届けてやる……」
「っ…おう!」
こうと決めたら曲げない…
言い出したら聞かない性格は、昔と変わらないな……
岳は野分を見て、ふと笑った後真っ直ぐ見つめた。
「ただし条件付き!これからちょっとでも変わったことがあったらそれを記録しておくこと、お前が海陸界へ行く時はなるべく俺も一緒に行くから俺がいる場合は報告すること…」
「お前は保護者か!」
岳の出す条件についついツッコミをしてしまう。
解っている…心配しているんだと…
「そして、この事を仲間に伝えておくこと…」
岳の言葉にグッと胸が苦しくなる。
頭にうかぶのは、皆の悲しい顔……
シェスカの顔…
でも、これからのことを考えると伝えないわけにはいかない…
それも解っている……
ーーーーーー「解った……」
だけど……泣かせたくないな……
野分は真っ直ぐ岳を見つめて頷きながらも、そう思ってしまった…。
「多分、なんとなく3人とも違和感は感じてると思うけど…大切だと思える人程伝えておいた方が良い…」
「うん……」
シェスカが笑ってる…
真っ直ぐと迷いのない綺麗な目で…
強い強い意志をもった目で……
それからシェスカの悲しむ顔が頭から離れなくなった…
伝えたい…伝えたなきゃいけない……
でも…嫌だな……………