表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SEA - ADVENTURE   作者: あずま
65/97

SEA - ADVENTURE ☆64☆

☆ 64 ☆




ーーーーーー『海に子どもがっ……』

ーーーーー『早く助けないとっ!』



その日はその年一番の大きな台風がきていて、朝からテレビでも大騒ぎだった。


そんな日に海に子どもがいると騒ぎになり、家を飛び出して行くあなた…。

追いかけようとして止められる。


ーーーーー『大丈夫、必ず助けるから…』


そう言って笑って、出て行ってしまった…。


帰って来るまで無事を祈るしかない…

どうか…どうか無事に帰ってきてっ……


暫くして、帰ってきたあなたは一人の男の子を抱いていた。



ーーーーー『海に守られていた…海の王だ…』


腕の中で眠っている男の子にあなたは呟き、それから海陸界の話しを聞いた。


海の下の世界…海陸界……

そこに息子を2人置いてきたと……


2人とも来て欲しかったと…

悔しそうに話していた…


その顔が今でも忘れられない…


それから3人の生活が始まった。




ーーーーーーーー

ーーーーーー



「ただいまー!」

「ただいまー…」


玄関から元気な声が響き、パタパタと足音が聞こえる。


「お…おかえりなさい……」


2人の姿を見ていつもと同じ言葉を言う。


「ママ、あのね!今日はーーーーー

「ぁ…ごめんねっ…お腹空いたでしょ?ご飯すぐ作るわね?」


野分は今日の出来事を話そうとするが、遮られ下をうつむく。

そんな様子をこれまでずっと見つめていた。




ーーー「ごめん…やっぱり時間は掛かるよな…」


その夜、申し訳なくあなたは座って呟いた。



子どもが嫌いな訳ではない……

でもどうやって接して良いのか解らない……

怖い……受け止めきれない……



あなたの言葉に何も言えず、そのまま立ち尽くしていた。



ーーーーーーーー



「………………」

「野分君、どうしたの?」


保育園でいつも元気な野分が元気がなく、座り込んでいる姿に声を掛けられるが、野分は何も答えず、そのまま部屋へ戻って行った。


「野分ー!見て見て!」


そこへ南月が来て絵本を見せてくる。


「四つ葉のクローバー!これを持ってると幸せになれるんだって!良いなー、欲しいなー!」


南月が楽しそうに絵本を見せながら、大きな四つ葉のクローバーの写真を見つめていた。


「……………これだっ!!!」


野分はそのまま外へ飛び出して行き、草をガサガサと手でかきわけていた。


「っ…ここにはないかも…………」


野分はふと顔を上げると、保育園の門をじっと見つめた。





その後すぐに野分の家に一本の電話が入る。

野分がいなくなったと…

探したけど見つからないと……


受話器を置かず、通話のまま家を飛び出して行った。




外も薄暗くなってきた頃、林の中で小さな影がゴソゴソと動いていた。

くー…と小さくお腹がなりふと顔を上げた。


「絶対っ…絶対見つけるんだっ……」


野分はぎゅっと手を握ると立ち上がり林の奥へ入って行く。


「もっとあっちに行ったらあるのかなっ…」


ガサガサと自分の背と同じくらいの茂みを掻き分けて行くと大きな木を見つけた。


「あったぁ!!!」


大きな木の根元に小さな四つ葉を見つけて近付くが、そのまま急にズルッと足とられて体が沈む。


「ぅわあっ!?」

「野分っ!!!」


腕を掴まれてブランと体が浮き、ゆっくり目を開ける、そこは崖になっていてゾッとした。

そのままゆっくりと上を見上げる。


「つっ…野分っ、大丈夫かっ…?」

「っ…パパっ……」


野分は引き上げてもらうとぎゅうっとしがみついて今まで我慢していた涙がこぼれ落ちた。


「野分っ…一緒に帰ろう…」


父さんは野分を優しく抱き締め、手を繋いで

歩いて行った。

野分の片手にぎゅうっと握り締められた四つ葉の話しをしながら林を出て行った。



保育園に着く頃には真っ暗になっていたけど、保育園の前に大勢の人がいるのが遠くからでも解った。


「っ…野分君!!」

「こんなドロドロになって…でも良かった!!」


保育園の先生達が安心した顔をして駆け寄った。


「………ごめんなさい」


野分は下をうつむき呟いた。

そのまま暫くして野分は黒い大きな影に気付いて顔を上げる。


ーーーーーーーーパシンッ!!


「つっ!?」


顔を上げた瞬間衝撃が走って、頬がヒリヒリして熱かった。

目の前には母さんがいて…悲しい顔で………

ーーーーーーーー泣いていた………



「なんでっ、なんでっ!こんなドロドロになってっ…いなくなったってっ……心配させてっ…」


母さんは泣きながら叫んでいた…。



悲しい…顔をさせてしまった…………


暫く呆然としてしまうが我慢出来ず、野分はボロボロと涙を流して泣き出した。


「ぐっ…ママっ…っ…四つ葉っ見つけっ…うぅっ…幸せにっ…」


野分が泣きながら右手に握り締めたヨレヨレの四つ葉のクローバーを差し出した。


「野分はママのために、幸せになれる四つ葉のクローバーを探しに行ったんだよな…?」


父さんの言葉に泣きながら何度も頷く。


「笑っ…てっ…ずっ…幸せにっ…うっ…欲しっ…からあっーーー」


ボロボロと涙を流す野分を母さんがぎゅうっと抱き締めた。


「つっ…バカ野分っ!」


野分は一瞬驚くがそのままぎゅうっと抱き締めた大声を上げて泣いた。





「もう、こんなドロドロになって…」

「野分は、こんなドロドロになってもママの笑った顔が見たかったんだよ…」


その後、すぐに泣き疲れて眠ってしまった野分を父さんがおんぶして、3人で家へ帰る。


母さんはヨレヨレの四つ葉のクローバーを大切に持ちながら優しく笑い、父さんの背中でぐっすりと眠る野分の頬を撫でた。


「ごめんね野分…ありがとうっ!」


野分は眠ったまま、くすぐったそうに首を縮めて笑っていた。

その2人の様子を見て、父さんは安心したように笑った。




ーーーーーーーーーーーー


「ママー!行ってきまーす!!」

「行ってらっしゃい!!」


あれからまだまだ色々とあったけど、無事に保育園を卒園して、小学生になった野分。


幼馴染みの南月ちゃんと、小学生になってから出来たお友達の岳君…3人仲良く学校へ登校する。


妹も生まれて、ちょっとしっかりしたかな…?

やんちゃなのは相変わらずだけど……。


母さんはゆっくりとリビングの棚の小さな引き出しを開けて、中から四つ葉のクローバーのしおりを出してふと優しく笑った。



「野分…私は幸せよ………

ーーーーーーあなたに出会ってからずっと…」



そのしおりは今でも大切にしていて、母さんの宝物で、一番の御守りになっていた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ