SEA - ADVENTURE ☆63☆
☆ 63 ☆
"野分"
いつも明るく、元気で…
サッパリしてて…
怒ると怖くて…
でも優しくて…
母さんの柔らかい笑顔が好きだ。
でも記憶の中には無表情で、悲しそうな顔をする母さんもいた…。
"ママにっ…四ツ葉のクローバーっ…!"
薄暗くなった中…
近所のおじさん、おばさん…
俺はヨレヨレの四ツ葉のクローバーを握り締めて泣いた…
"つ…バカ野分っ!!"
母さんはそう言って泣きながら抱き締めてくれた。
それからはずっと、ふわふわと笑う優しい笑顔の母さんだった。
母さんは…海陸界のことも…
俺とハブのことも…関係も……
ーーーーー俺が人形だと知っていた…?
野分は頭が真っ白になって廊下に立ち尽くしていた。
その様子をカリスとアロスが階段の所で見ていた。
ーーーーーー『ガチャンッ』
そこに急に玄関が開き、夕日の日射しが外から入ってくる。
「ただいまー!」
そこには1人の女の子と南月がシェスカとマミロと服を着替えて家から戻ってきていた。
「鈴………」
女の子は「神崎鈴」野分の妹だ。
「南月ちゃんと、お友達?そこで会ったんだ!家に行くって言ってたから一緒に来ちゃった!お兄、そんなとこにいたら邪魔邪魔!早く中入りなよっ!」
「わっ、ちょっと!」
「そこにいるお兄さん達もどうぞ?」
鈴は野分や南月達をリビングへ押し込むと、階段の所にいたカリスとアロスにも声を掛け、にこっと笑った。
「鈴おかえり!皆で夕飯食にしましょうか?」
「お手伝いします」
その様子に母さんは笑っていて、声を掛けたアロスとキッチンへ行き準備をする。
「それでそれで?」
「それで?何?」
それぞれ座ると鈴が野分の横にスススッとくっついてニヤニヤしながら話し掛けてきた。
その様子に野分が首を傾げる。
「どっちがお兄の彼女?それともついに南月ちゃんとくっついた?」
「つっ…違うわっ!!」
鈴の問い掛けに驚き、野分が叫ぶとベシッと鈴の頭をはたく。
「えー!違うの!?皆、美人さんだから鈴はどの人でも良いけどー…」
「どの人も違うから!」
「あ!まずお兄が相手にされないか、いつも一緒に岳くんがいたらねー…可哀想にー…」
「そんなんじゃなくて、違うからっ!」
鈴のコロコロと変わる表情と、野分の焦る様子に
皆呆然としてしまうが、ふと笑ってしまった。
今までの少し緊張した空気が柔らかくなった気がした。
「あ!私今日は友達の所泊まりに行くんだった!仕度しないと!」
暫くして急に鈴は思い出したように立ち上がりバタバタと部屋から出ていく。
「ごゆっくりー!」
そう言うと階段を上がり荷物を持って「いってきまーす!」と出て行った。
「ごめん、騒がしくて……」
「野分と負けないくらい台風みたいな子だな…」
野分達は鈴の出て行った方を見つめていた。
「さて夕飯も出来たし、南月ちゃんも岳くんも食べて行くでしょ?いろいろと…話もあるだろうし……」
「っ……」
テーブルに料理を並べながら野分のお母さんが静かに話した。
野分は下をうつむき顔が上げられなかった。
母さんがどこまで知ってるのか解らなかったけど、今までの海陸界での話しをした。
ゆっくり……野分が初めて海陸界へ行った話しから……そして…ハブとのことも……
ーーーーーーーー
「………そうだったのね…」
全て話すと、やはり知らなかったことも多かったようで真剣に聞いていた母さんが下をうつむく。
「岳は大賢者、南月は魔女の娘…海の王護衛のカリスにアロス、シェスカ…ハブが本当の海の王で…俺は海の王の…偽者ーーーーー
野分が話していると急に母さんが立ち上がって野分とハブの前まで行き立つ。
「っ………」
目の前で下をうつむき、立ち尽くす母さんが昔の悲しい顔をした姿と重なる。
野分は悪い考えが頭に浮かび後ろに一歩ひいてしまった。
その瞬間、ふわっと野分とハブは暖かいものに包まれた。
「……ごめんね……ありがとうっ…!」
一瞬何が起きているのか解らず2人は動けなかったが、野分のお母さんに抱き締められ、耳元で静かに呟かれた言葉にふっと力が抜けた。
その言葉には他にもいろいろな思いがあるのを知り、胸が苦しくなる。
「2人は…私の大切な大切な自慢の息子よ…
ーーーーーありがとうっ!」
暖かい、優しい腕にぎゅうっと力強く抱き締められ、安心したように笑った。
それからその日は皆で野分の家に泊まって、岳が家に連絡をすると岳ママが遊びに来て、ますます賑やかに一晩を過ごした。
ーーーーーーーーーーーー
「んー……………」
朝、ゆっくり目を覚ました野分は周りにそれぞれ眠っている皆を見てふと笑い、ゆっくり起き上がる、欠伸をしながら外を見ると母さんが洗濯物を干していた。
「ただいまー」
野分はぼーっとしながらその様子を見つめていると鈴が帰ってきてリビングに入ってくる。
「おかえりー…鈴、家ってなんでいつもあんな洗濯物多いんだろうな?」
ふと思ったことを聞いてみただけだったが、鈴は外を見つめて暫く沈黙が流れる。
「お兄知らないの…?お母さんは、いつもお父さんの服も洗濯してるんだよ…」
「え……」
鈴は外を見つめたまま、ゆっくり話した。
「急にいなくなったお父さん…多分、いつ帰って来ても良いようにって…それは悲しさ、寂しさをまぎらわすためでもあるんだと思う…」
鈴の話しに驚き、外にいる母さんを見つめる。
あの嵐の日…
突然姿を消した父さん…
愛する人がいなくなって…
悲しくて悲しくて……
でも俺達がいたから…
自分がしっかりしなければと…
強く…強く立ち上がる…
そんな母さんを、いつもいつも見てきたから…
父さんがいなくても…
俺達は今まで笑って、楽しく生きて来られたんだと思う…
本当は気付かないところで一人泣いていたかもしれない…
今になってそれに気付いて…何も出来ない…
「鈴…ごめんな……」
「私は大丈夫だよ…」
2人で外にいる母さんを見つめて、野分はぎゅうっと手を握り締めた。
"絶対に父さんは連れ戻す…他になにがあっても"
野分は母さんと鈴の姿に再び強く、そう決意した。