SEA - ADVENTURE ☆60☆
☆ 60 ☆
「………………………」
野分は1人建物の外へ出て、真っ暗な森を見つめていた。
「はあ…ぃてててっ…」
「ハブっ…!」
ぼんやりとしていると急に聞こえた声に驚き、フラフラとするハブに手をかした。
ハブは支えられて、なんとか座れた。
「動いて大丈夫なのか…?」
「いや、駄目だろーな…」
トレーニングルームでの出来事の後、動けなくなったハブを支えて部屋へ戻り、そこから長々とシエルとシェスカに説教されながら手当てをうけ、ぐったりしていたのを思い出す。
「なぁ…父さんはあっちでどんな人だった…?」
「父さん……?」
暫く沈黙が流れた後ハブが顔を向けないまま問い掛けた。
「母さんとの記憶は全然ないけど…父さんとの記憶は少しあるんだ…大きな手で…手を繋いでくれた…遊んでくれた…子どもみたいな笑顔で笑ってて……楽しかった…」
優しく笑いながら曖昧な記憶の中にある、小さな小さな思い出を話す。
その姿を見て野分は驚くが、ふっと笑った。
「同じだよ…子どもみたいに笑ってて、良く海に一緒に遊びに行って…海陸界の話しをたくさんしてくれた…海陸界へ一緒に行く約束をした次の日に行方不明になって…俺は父さんの迎えを待ち続けた…」
野分も、父親との思い出をゆっくりと話した。
あの頃、俺を海陸界へ連れて行くのを渋っていたのも、今ならその訳が解った。
野分には海陸界での記憶がない…。
消されてる…?
記憶を探ろうとすると途中からモヤモヤとしたものが渦巻く…そこからは真っ暗で考えようとすることを拒絶される。
「マガ討伐以外にも、父さんを探す目的も兼ねて、皆と旅に出た…でも俺は偽者で…作られた存在で…」
野分が下を俯きながら話す。
それを見たハブは野分に手を伸ばしそっと触れるとそのまま自分の手を見つめた。
野分は不思議そうにハブを見つめる。
「やっぱり駄目かー…同じ海の王でも選ばれた存在じゃなきゃスカイは現れない…」
ハブは手をヒラヒラと振ると苦笑し、真っ直ぐ野分を見つめた。
「お前は「選ばれた存在」なんだ、しかも一つや、一人にじゃない…父さんに、母さんに…初代海の王に、スカイに…そして、今旅を共にしている仲間に…」
「つ……」
ハブに言われた言葉で皆の顔が頭に浮かび、胸が苦しくなる。
「っ…でも、俺の今いる場所には本当はハブがいたんだっ…」
「俺は別に、お前がいる場所が欲しいとは思わない」
ハブの言葉に驚き、顔を上げる。
「そりゃ、最初は憎んださ…なんで母さんのそばにいるのは俺じゃないんだって…皆のそばにいるのは俺のはずなのにって……でもそこには、マミロも隊長もカズミさんも、皆もいない…俺が仲間だとか、大好きだと思える人達がいない…そんなの俺の居場所じゃない…俺はその場所にいなかったから、俺は皆に会えたんだと思ってる…」
ハブの姿、言葉に、更に胸が苦しくなる。
俺はハブからいくつ大切なものを奪っただろう…
謝っても、いくら謝っても返すことは出来ない…
でも、もうこの言葉しか頭に思い付かなくて…謝ることしか出来なかった。
「ごめん…ごめんなさいっ…ごめんなさいっ!」
「……謝るのなしだろ…?」
決して許してる訳じゃない…
忘れることもないだろう……だけど…
こいつがいたから…皆に会えた…
皆と幸せな日々を過ごせたんだと…
今はそう思えるんだ……
ハブは野分の姿を見て苦笑し、野分が落ち着くまでその場に一緒にいた。
『…………………』
「…良かったな…?」
その様子を少し離れたところで、シエルとカリスが見ていて、シエル泣きながら何度も頷いていた。
ーーーーーーーー
「お前、泣き虫だよなー…」
「時と場合による……」
ズズッと鼻をすする野分にハブが苦笑しながら問い掛ける。
「…ん?なんか焦げ臭くない?」
「え…?」
野分が前にも似たような匂いがしたのを思い出す。
「やばっ!火事かっ!!」
「いやー…これはきっと……」
ハブが慌てて立ち上がろうとするのを野分が支え、2人で建物の中へ入って行った。
「イット!そんな体でどこ行ってたのよ!!」
「やっと帰ってきた!ご飯出来てるよ!」
部屋へ戻ると皆揃っていて、シェスカとマミロが2人を迎える。
「シェスカ、ご飯って…」
「勿論!じゃじゃーん!!久々のシェスカちゃんスペシャルー!!一緒に作ったの!」
野分の予感的中!!!
テーブルの上に並ぶものは異臭をはなっていた。
「なーあ…もしかしてマミロも料理音痴……?」
「言うまでもなく…見たまんまだ……」
野分とハブはシェスカとマミロに手をひかれながらボソボソと話していた。
その後、暫くしてからアロスのちゃんとした料理が出てきて皆で食べて、飲んで、いろいろと話しをした。
「そうだ、お前ら2人に南月が会いたがってた!今度会ってくれるか?」
「私も会いたい!!」
野分の話しにマミロがすぐ反応し驚くが、ハブもその様子を見て楽しそうに笑っていた。
「もちろんっ!」
それから真っ暗な森の奥…
賑やかな声は遅くまで響いていた。