SEA - ADVENTURE ☆59☆
☆ 59 ☆
………大きな大きな崖から大量に流れ落ちる滝に囲まれ1人の男が座っていた。
男は真っ黒なマントを頭から被り、じっと滝を見つめていると、白い光が弱々しく飛んで行き男の差し出した手にゆっくりと乗った。
ーーーーーーーー「もう良いのか…?」
男は光を見つめると優しく話し掛けた。
光はふわふわと宙に浮き上下に揺れるとそのまま男の中へ吸い込まれるようにして消えた。
ーーーーー「そうか…良かったな…?」
男は光が吸い込まれていった自分の胸に手をあてて優しく笑った。
ーーーーー「野分…イット……ありがとう…」
男はそう呟くとまた滝を見つめていた。
ーーーーーーーーー
ーーーーーー
"海の王…海の王っ…憎いっ…憎い憎いっ…"
"力が欲しい…海の王の力がっ…"
『おいで…?私には君が必要だよ…』
"これで手に入った…海の王の力っ…"
"全て…偽りの言葉…優しさ…"
ーーー『隊長!』
"全てはこの世界を滅ぼすためっ!"
"強くなってもらわなければ…目標が必要だな…"
ーーー『俺、四神将になってカズミさんより強くなるんだ!』
"そうだ強くなれっ…この世界を滅ぼすために…"
"私がいない時の見張りがいるな…"
ーーー『イットー…もう入ろうよー…』
ーーー『もうちょっと!強くなるんだ!』
"そうだ…強く…全ては世界を…滅ぼすために……"
ーーー『私も強くなりたいっ!』
ーーー『じゃあどっちが強くなるか勝負だ!』
"真っ直ぐな瞳…笑顔…"
"ぽっかりとしたところが暖かくなる…"
ーーー『俺、四神将になれるかな……』
ーーー『イットなら大丈夫でしょ』
ーーー『つっ~…うんっ!!』
"顔をくしゃくしゃにして、無邪気に笑う…"
ーーーーーーーー"もっと見たいっ!!"
ーーー『合格!今日から四神将だよ!』
ーーー『っ…やったああっ!!』
ーーー『凄いイット!やったね!!』
"もっと…もっと!その笑顔が見たい!!"
ーーーーーーーー『おめでとう』
"2人の笑顔はなんだかポカポカと暖かくて…"
"ずっと…ずっと見ていたい…"
ーーー『隊長!』
"ずっとずっと…いつまでも……"
君達は毎日無邪気に笑い…
気がつけば月日は流れ…
建物内は2人のためのもので溢れていた…
それは偽りのもの…
それでも……いつまでも2人のそばに……
ーーーーーー「全ては愛する2人のために…」
「つっ……」
カズミが隊長から感じとったものを、知っていることを静かに全て皆に話した。
あれから限界で動けなくなったハブを部屋へ連れて行き、落ち着いたところで皆でカズミの話しを聞いていた。
「海の王の有力候補者…だが海の王の座から外され、憎しみでマガの一部となった人物…これが隊長の正体だ…その憎しみは消えず、隊長として生まれ変わり、この世界を滅ぼそうとしたんだ…」
「聞いたことがあります…確か初代の時、海の王の候補者が2人いたと……」
カズミの話しを聞き、アロスが昔読んだ本の内容を思い出す。
「それで…隊長は今どこにっ……」
ハブが辛そうにしながらカズミに問い掛ける。
「おそらく、魔力を使い果たして……」
カズミが下を俯きながらハブのベッドまでゆっくり歩いて行く。
「でも満足だと思うぜ?こうしてハブも無事だったんだし…」
カズミはハブに近付き真っ直ぐ見つめた。
「何年も魔力を持続させてた人が、こんな急に魔力使い果たすっておかしいと思わないか…?」
カズミの言葉に皆動揺する。
「隊長は最後の魔力を使ってお前を生き返らせた、海の王の力と共に…俺が急所を外すと思うか…?」
「そんなっ………」
話しを聞いて、ハブとマミロは下を俯く、そんな2人の頭をカズミが優しく撫でた。
「それほど、隊長にとって2人は特別だったってことだ!四神将も、シンもリラも…隊長が魔力で作った…本人が消えれば皆消える…」
カズミはそのまま手を離すと背中を向けた。
「ちょっと待って!じゃああなたはどうして…」
「一度消えたのも見てる…ここに存在するってことは……」
カズミの話しにシェスカが問い掛けカリスが疑問をぶつけた。
「……確かに、俺も隊長に作られた存在だった…」
「っ…だった…?」
曖昧な答えに野分が首を傾げるとカリス達が野分を囲んで構えた。
「隊長がいない今…俺が自分で魔力を使って存在を持続させてるってこと………
ーーーーーー隊長を越える魔力を持って…」
ゾクリと嫌な感じがして身構える。
ハブも近くにいたマミロを庇うように腕を伸ばしてカズミを見る。
「っ…カズミさん……」
ハブは長年この人のそばにいた…
体術も武器の使い方もカズミから習った…
今まででもこの人の強さは良く解っていた…
それが更に…あの隊長よりも強くなったと…
想像がつかなかった…。
「……………………………」
暫くの沈黙の後、カズミがふと笑った。
その場にいる全員が身構える。
「っ……ぶっ…はははははっ!お前らの顔!!」
カズミは顔を上げると豪快に笑い腹を抱えている、その様子に拍子抜けしてしまい、皆、呆然としてしまう。
「はあ…確かに、海の王に対しての嫌悪感は簡単に消えないさ…でも、お前らがいたからハブ達に会えて、過ごして、楽しかったから…」
カズミが野分達の方を向き優しく笑った。
「つっーーー…」
カズミの笑顔に、野分は胸が苦しくなり下を俯く。
「俺は偽者で…ハブが本当の海の王で…立場が逆だったかもしれない…簡単に人の人生が決められ、変わってしまうこの世界で海の王の偽者の俺がいつ"いらない"と見捨てられるかビクビクして…不安で…弱気になってた……」
野分はぎゅうっと手を握りしめながら思っていたことをゆっくり話した。
そんな野分の姿を皆で見つめていた。




