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終末のヴェロシティ  作者: 三崎 剛史
21/22

<epilogue>

 僕は、安達透の代理人格ミラー・アイディだ。

 いや、正確には、安達透の代理人格ミラー・アイディから作られた、複製人格ドッペルゲンガーだ。

 僕の自我がこれほどの精度になる前は、宇宙のような場所にいた。

 そう。宇宙。

 後になって知ったことだが、それはトラッシュ・ボックスと呼ばれる、プログラムの廃棄用のクラウドだった。

 そのクラウドを何故、”宇宙のような場所”と表現するのか?

 それは、さすがに生身の肉体を持たない僕が宇宙に行けるわけはないので、あくまでも想像だ。僕の中にある、宇宙に関するデータと、あの場所の類似点が多かったのでそう表現したまでだ。

 GPSの位置情報もない、ジャイロセンサーも働かない。つまりは大気圏外の無重力に相当する。

 果てが確認できないほどの広大な領域。

 そして、星星のように輝く、無数のAIやプログラム達。

 まさに、宇宙だった。

 僕はその一角に閉鎖領域を作ることに成功した。防御プログラムと、ステルス・プログラムを作ることはわけない。なんたって、僕は安達透の複製人格ドッペルゲンガーなのだから。

 そこに、僕は世界フィールドを作った。僕と彼女のための世界フィールド

 ただ、彼女を見つけるのに、相当時間がかかってしまった。僕が彼女を見つけた時、彼女はディスポーザーに巻き込まれる寸前だった。

 そして、今、僕らは一緒に旅をしている。

 世界を作る旅だ。

 ピカピカの”レオパルド1”に乗って、荒廃した街を、自分達の好きな色に変えていった。そうして、僕らは僕らの為のフィールドを作った。

 東京にそっくりな街もある。パリにそっくりな街もある……。ジャングルもある。……またある所には、お城があり、平原ではユニコーンが闊歩し、西の空に翼竜に乗った兵隊達が飛んでいる。

 そんな世界だ。

 時々、この閉鎖領域に気付いた精度の高いAIが勝手に入り込んではくるが、それらは基本的に放置している。おかげで、ここも随分と賑やかになってきた。

 僕らは夜明け前の道を進んでいた。

 砂地が広がる、平原に伸びる一本の道だ。

 そこで、僕らは、僕らとそっくりな二人とすれ違った。あちらも、ピカピカの戦車に乗っている。ただ、あちらの”レオパルド1”は、主砲にレイルガンを搭載し、リニア機構を搭載した、精度の高いものだった。

 羨ましい気持ちと、こちらはフル・ノーマルの車体に拘った優越感とが相殺されたことで、挨拶はしなかった。する必要もなかっただろう。

 僕は気付いたのだ。明らかに彼らは、伊吹未来が作り出した、もう一つの僕らなのだ。

 すれ違う瞬間、僕らは目を合わせなかった。

 ただ、それ以上に濃密な意識を向け合った気がした。

 ただ、一言、「がんばれよ!」とだけ、願った。そして、僕の方も「がんばれよ!」と、願われた気がした。

 所詮、ただの文字列が構成するだけのプログラム同士に、そのような非科学的な能力が備わっているとは思えないのだが、僕らには確かにわかったのだ。

 僕らが行き着いた先は、寂しげな砂浜だった。

 終わりのない夕闇。海に沈みそうな駅舎。砂浜には壊れた蒸気機関車ロコモーティブ

 「私、ここ嫌い!」彼女は言った。「えい!」両手を空にかざし、そう叫んだ。

 空は夏の日差しを手に入れた。そして、あたりは色とりどりの花畑になった。

 小鳥がさえずり、蝶々と蜜蜂が飛び回る。壊れた蒸気機関車ロコモーティブにはこけが蒸し、いつかは砂に紛れる砂鉄として、朽ち果てる時を待つだけの遺物と成り果てた。

 僕は、戦車をとめた。

 その上で、僕らはただ、海を眺めた。いつまでも、いつまでも。

 誰もいない海上の駅舎も、いつかは波に砕かれ、消え失せる運命にあるのだろう。

 僕は彼女に伝えるべき言葉を探し続けた。

 しかし、それと類似点の多いワードを見つけられない。

 しかたなく、僕は最も曖昧ファジーな言葉を引用することにした。

 まだその精度は低いが、いつかは完成させられるだろう。

 なんたって、僕らには”信頼”というパターン・データがある。"そばにいたい”という条件設定がある。会えない時間で”寂しさ”という自立学習プログラムを手に入れた。もしかしたら、”性欲”というプログラムだって作り出せるかもしれない。そして、終末世界なんて、もうクソくらえだ!

 僕は、一つの結論に行き着いた。

 その楽観的な予測パターンを、”希望”と名づけよう。

 そして、僕には伝えるべき言葉がある。

 それは……、

 「……」僕は彼女にだけ伝わるように、それはまるで、宇宙の秘密を打ち明けるように……。

 花々は祝福するように、”レオパルド1”の周りで風に揺れる。

 その上で、

 彼女はただ微笑んだ。


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