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絶望

「嘘……」


 蒼真と別れた場所に着いて、最初に出た言葉がそれだった。

 坑道の中で開けた場所。


 そこは蒼真と別れる前とは全く別の場所と化していた。


 地面は割れ、大きく凹んでいる。さらには、地面の岩石が溶け、それが再度固まって形が大きく変形してすらいる場所さえある。

 崩れ落ちた天井は、夜の闇をくっきりと見せつけながら、月明かりを洞窟内にもたらし、この惨状を見せつける。


 この場所が残っているのが不思議なぐらいだった。


 激しい戦闘痕。


 そして、残された乱れ狂う魔力の奔流。

 ここに近寄ってはならないと感覚的に伝えるそれは禍々しかった。

 魔法を行使した際に、使われた魔力は空気中に四散する。通常それは、すぐに消えてなくなってしまうから、気にも止まらないこと。


 だけど、この空間には、空気その物さえ魔力に変わってしまったのではないかと感じるほどに、魔力が充満し、さらには濁流となって乱れ狂っていた。


 魔法の心得がない者が来れば、この空間に入っただけで、意識を失ってしまうだろう。


 私はギリギリ意識を保っていられている。けど、苦しい。気を抜いたら、すぐにでも倒れてしまいそう。


 そんな中、私はあるものを見つけてしまった。


 それは、人間の四肢。そう、左腕、右腕、左足、右足、それら全てが転がっていた。


 それらは乱暴に千切られたことによって、あたりに細々とした肉をまき散らしている。


 飛び散っていない、それが腕だとか足だとかと分かる部分からは、黒ずんだ赤い液体が垂れ流れており、あたりに湖を作り出している。


 治癒魔法を使えるようになるために、人体について学んでいなかったら、おそらくこの場で吐いていたかもしれない。


 女性としてはこの表現はどうかと思うけど、正直言って、この光景はそれほどまでに凄惨なものだった。


 

 そして、胴体はないものの、これが誰の体の一部かぐらい想像がつく。

 ううん、分かってしまう。


「そ……うま……?」


 私は思わず崩れ落ちてしまった。


 顔とか全身とかその人を決定づけるものは、パッと見ただけでは普通分からない。

 そう、腕と脚、それがちぎれて、そこにあるだけなのだから。


 でも、私には、その四肢が蒼真だとはっきり分かっちゃった。

 そう決めつけることが出来る証拠があってしまった。


 それはお母さんが作ってくれたお守り。

 蒼真と共に退治した龍の素材を用いて、お母さんが私と蒼真に作ってくれたお守り。それを蒼真はズボンのポケットに入れていた。


 その先端が、千切れた足を包むズボンのポケットからはみ出しているのが見えたのだ。

 

 あのお守りは、母のオリジナル。

 この世界にたった二つのお守り。

 私と蒼真、その二人だけが持つお守り。


 それが入った状態で見つかるということは……、そう……。


 頭や胴体がないことが不可解ではあるけど、生きていたとしても、明らかに致命傷。治療しなくて助かるような傷ではない。


 治癒魔法を上手く使えるように勉強を重ねてきたのだ。

 状態を見れば、どれぐらい危険なのかぐらい、はっきりわかる。


 分かってしまう。


 私は、こうして状況の悪さを理解してしまえる自分に、初めて後悔した。


 そう、勉強をし、知識をつけてしまった自分に。

 無知であれば、気づかずに済んだであろう事実をはっきり理解してしまえる自分に。


「全員、一条蒼真の捜索を開始。必ず見つけろ。その者は四肢を全て切り落とされ、重傷の可能性が高い、急げ! 必ず、見つけろ、必ずだ!!」


 アルバートはその老体からは想像が出来ないほどの大きな叫びをあげた。


「A班は、ここからさらに奥を探索。B班は入り口からこの広間までの位置を探索。C班は私と共にこの広間を捜索せよ!」

「了解しました!」


 人々は慌ただしく動き出す。

 多くの人が走り、時には転がった岩をどけたりしながら、捜索を開始している。


 アルバートの険しい表情、その叫び声に事態の重さを痛感したのか、彼が連れていた戦士たちの動きは非常に速い。


 彼らは自身の使える魔法を駆使しながら、探してくれている。


 私も探さなきゃ。

 私も彼を見つけるために立たなきゃ。


 私は治癒魔法を使えるんだ。

 彼を治してあげなきゃ。



 まだ、彼はきっと生きているはずなんだ。

 


 あれ、立てないよ。


 なんで、立てないの?

 なんで、涙が出ているの?

 なんで、涙が止まらないの?


 蒼真は言った。

 生きて見せると。戦闘に長けている俺が頑張ると。



 そして、こうも言った。


 “文字通りの悪魔だ”


 そんな蒼真の言葉がフラッシュバックする。

 そう私は無意識に理解してしまっているんだ。蒼真が負けた、そんな決して信じたくない真実に。

 生きていれば、まだ戦闘音がしているはずだと。



 な……んで……?

 なんで、そうまが……?

 なんで、そうまはここにいないの?

 なんで?

 なんで?



 ビチャ。

 そんな音がした。

 その音をたどって、その方向を見る。

 自分の膝もと、そこに流れてきた血が付着したことによって生じた音。

 それを右手で触って、ドロッとした、そして冷めきった血液を感じて、私はこう思った。

 


 なんで……、蒼真が……?


 その思いが心の中で言葉になるより速く、私の意識は途絶えた。



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