暗殺
四匹。
それだけは既に狩り終えた。
どれも、脳天に対して一発の弾丸を撃ち込むことで、仕留めた。彼らに奇声を上げるほどの余裕は与えていない。
サプレッサーによる消音効果で、銃声は極限まで抑えられている。
ほぼ無音のまま、着々と作戦は進む。
死体は物陰に移しているから、気づかれてはいない。
どのゴブリンも動揺した様子を見せていないことからも、そのことが窺える。
さらに言うなら、 仲間の死に気づき、それを他の仲間に伝えた素振りも見せていないことも、そう判断出来る要因の一つだ。
だが、ゴブリン達は突然行動を変えた。
散開していたゴブリン達はハイゴブリンを取り囲むように集合したのだ。
俺が侵入してから、ハイゴブリンが一歩も動いた様子がないこと、その他の家には誰もいなかったこと、その二点から考えるに、かの魔物がもたれかかっている家に、村人たちがいるのだろう。
少々面倒だが、あの数を相手取るしかないだろう。
俺はゴブリン達に奇襲をかけるべく、少しずつ距離を詰めていく。
物陰から物陰へ。
ゴブリン達の視線の先を窺い見て、その隙を突きながら。
アルタートラウムのβテストを含めた様々なゲームで、こんなこともよくやっていたから、慣れたものだ。
そして、俺は奇襲を仕掛けることが出来る地点までたどり着いた。
ゴブリン達までの距離はあと五メートル。
ハンドガンで正確に標的を狙える距離。ハンドガンっていうのは正確に狙おうと思ったら結構近づかないといけないのだ。
ハイゴブリンの頭蓋を銃で撃ちぬいて、ゴブリンの集団が混乱したところを一気に攻める。
深呼吸。
これは外してはならない銃弾だ。
マガジンは念のため新しいものに差し替える。
九発。一発はハイゴブリンを仕留めるため。残り八発は、何か想定外の出来事が起こった時に対処するため。
スライドを引き、弾丸をマガジンから装填する。
セーフティーを親指と人差し指の間の水かきの部分で、押し込む。
打つ準備は万全。
狙うは、ハイゴブリンの頭蓋。
撃ってしまえば、もう止まらない。
何があろうと、一気にやりきらないといけない。一発で倒しきったとしても、あとはゴブリンだけだと安心して油断してはダメだ。常に状況把握に気を配らなければならない。
これが罠である可能性もあるのだ。
だから、慎重に、けれど、一思いに俺は引き金を引いた。
銃弾が飛ぶ。
銃の弱点は弾切れ。
戦闘中に弾切れになって、マガジンの交換など必要ともなれば、それは時間のロスになり、隙となる。
弾は必要な限り抑えていこう。
相手がどのような挙動を示すのか、完全にわかっているわけではないからこそ、そんな余裕は持っておくべきだ。
だからこそ、俺は銃弾の結果を確認する前に、銃を右腰のホルスターに仕舞い込み、左腰から高周波ブレードを引き抜いた。
片腕をフリーにしておくのは臨機応変な対応をしやすくするため。
そして、迷うことなく、スイッチを入れると、一気に前へと飛び出した。
だが、そこでは信じられないことが起きていた。
ハイゴブリンが生きている。
気づかれたのか? いや、違うはずだ。気づかれていたなら、そもそも銃弾が発射される前に俺を始末するための行動を起こしていたはずだ。
しかし、それを行さなかったということは、気づいていなかったと考えるべきだ。
なら、不可能だ。
気づいてから避けられるようなものではない。
俺は気づいた。
ハイゴブリンの左腕から、血が流れ出ていることに。
その出血部が左手と左ひじであることに。
それを見て、わかってしまう。どのようにして、銃弾を回避したのか。どのようにして、生き延びたのかが。
「うそだろ、おい」
銃弾を左手で防いだのである。
左手に直撃し、肉を抉っている間に、かの魔物は左腕を横にずらしたのだ。
つまりは左手から腕の中を銃弾が駆けている間に、左腕ごと横に逸らすことによって、銃弾の軌道を変えた。
普通なら出来ないような所業。
だが、それはハイゴブリンが持つ知性と敏捷性があってこそなせる業。
それを見て、厄介だと俺は思った。
そう思うと同時に、新たなことに俺は気づいた。
ハイゴブリンの顔にも焦りの跡がある。
突然の襲撃、それに驚き、こちらにぎょっとした表情を向けて、硬直している。
ハイゴブリン自身にとって、予想外な出来事で、避けるという動作にすら思慮が回らず、普通のゴブリンとは違う自慢の腕がパッと出てしまったというところか。けれども、それで即死に至らないようにするあたり、本能からして強さが違う。
けれど、左腕は銃弾が貫通しているのだから、使い物にはならないだろう。
だが、右腕、左足、右足は無傷で残っている。まだ十分に動けてしまうから、それは脅威でしかない。
一撃で仕留めるはずが、いきなり計画が狂った。
ゴブリン達を混乱に陥れて、その隙をつく予定が、反感を買う結果となってしまった。
まずい。
そう思う。
ゴブリンに関しては、問題ない。ただ、ハイゴブリンを相手取りながら、ゴブリン達八匹も仕留めるのは少し骨が折れる。
「やるしかないか……」
俺は冷や汗をかいているのを実感しながらも、距離を詰めていく。
もう賽は投げられたのだから。




