静かに始まる作戦
「村を占拠している魔物は、ハイゴブリンとゴブリンだけ?」
「ごめんなさい、分かんないんです。みんなが必死に逃がしてくれて、私は無我夢中で逃げてきて」
「そうか、こっちこそ、ごめん」
「いえ、こちらこそ、ごめんなさい。こんな危険なこと……」
やはり、彼女はそれを気にしていたのか。俺は彼女のその言葉に納得していた。
だからこそ、俺は彼女の目をしっかりと見つめる。
言葉には出さなくとも、表情や瞳の動きなどで何を思っているのかっていうのはある程度分かるものなのだから。
そうして、俺が彼女から感じたのは動揺。
彼女の揺れ動く瞳には、申し訳ないという気持ちと村人を助けてほしいという二つの気持ちが入り乱れているのが見て取れる。
「そこはごめんなさいじゃなくて、ありがとう、でいいんだよ。俺は俺が勝手に助けたいと思うから、助けるだけ。それを君が気負う必要はないって」
なら、俺はそれを取り除いてやれるように言葉をかけてあげたい。
気取ってんじゃねぇって傍から見られたら思われてしまうかもしれないけどさ。
多分、彼女が気にしていたことは魔物と戦うことによる死のリスクだ。
自分の村を助けたいという気持ちは勿論あっただろう。けれど、それより彼女は俺の命を優先したんだと思う。
部外者である俺を。
俺と言う可能性を、家族を救えるかもしれない可能性を、切り捨ててまで。
確かにゴブリンを圧倒して見せたと言っても、それは少数の話。
今村にいるようなあれだけの数を相手どるなら、複数の人がいないと、返り討ちに合う可能性があると考えるのも自然だ。
冒険者のパーティがゴブリンの群れに屠られたという話はこの世界では絶えない。少数ではいくら圧倒できても、多数になるとそれは話が変わってくるからだ。
それだけ多数の敵というのは厄介なのだ。
それを勘違いした冒険者パーティがいつまでたっても出てくる。たかが、ゴブリンというのはこの世界では通用しない。
だから、彼女もその話を知っているからだろうが、恐れているのだろう。
パーティですらなく、一人で戦おうとしている俺が負けてしまうんじゃないかって、心の奥では。
だから、俺は笑って見せてやるのだ。
自信に満ちた笑み。
そんな笑顔で、そんな心配することなんてないんだって伝えてやりたい。
「あり……がとう……ございます……」
そう言って、彼女はこちらを見て、笑う。初めて見た彼女の笑みは、可愛らしかった。
なんだ、ちゃんと笑えるじゃん。
俺はそれを見て、ただただ嬉しく思う。
そして、そんな彼女の頬を涙が伝う。
不器用な人間だ、そう思いもする。
自分の感情を抑えつけずに、もう少し欲張りでも、文句は言われないだろうと思う。
だが、俺も人のことを言えた義理ではなく、不器用な人間だ。
新たに目標が出来て、冷静になるとふと思う。
目標がなければ、見失えば、それを見つけるか、新しい目標を作って、自分で世界を広げていけば良かったんじゃないかって。
何故古い目標にばかり縋っていたんだろうって。
そう気づけて、良かったと思うと同時に、そんなふうに感慨に耽っている場合でもないよなぁとも思う。
「今から、君には隠蔽の魔法をかけておく。守りながらっていうのはリスキーだからね。この魔法だとこれから三時間は、ゴブリンに見つかりはしない。だから、安心して見守っていてくれ。ここからは俺の仕事だ」
「はい、分かりました」
念押ししたこともあるだろうけど、ここで自分も行くと言わないでいてくれて、正直流石だと思う。
恐怖によってその言葉を口にしないのではなく、自分について考えたうえで、口にしないのだから。
それは彼女の瞳を見ていたら、分かる。
そう、彼女の瞳には決意が見えた。
自分の無力さを理解し、その上でついていくことが足手まといで、ついていってはならないと思うからこその苦渋の決意。
俺は彼女に対して、隠蔽の魔法をかける。
周囲の景色と同化する魔法。そこにいるはずの人をいないように認識させる魔法。
それは、魔法をかけた本人である俺にしか、少女の存在を認知させない魔法だ。
他の者たちに認識させないと言っても、三時間で解除されるし、俺自身の力で解除することも可能なわけだから、そこまで危険な魔法と言うわけではない。
魔法が効力を成していること、それを確認して、俺は村への侵入を開始した。
普通のゴブリンの数は十二匹で、それを束ねるハイゴブリンが一匹、それがこの村を占拠している魔物のだいたいの内訳である。
もしかしたら、もう少しゴブリンがいるかもしれないが、それから先は誤差だろう。一応きちんと確認したし。
ハイゴブリンと戦う際に、ゴブリンを呼ばれたら面倒なので、まずは普通のゴブリンを始末する必要があった。
周りのゴブリン達に気付かれぬように。
暗殺。
それが今の俺に必要とされる殺し方。
攻撃に音を立てないのは勿論だが、殺した際に奇声を上げられないよう、一撃で仕留めきらなければならない。
死体の隠蔽は、物陰に移動させておけば、なんとかなる。
そのため、問題は殺す手段。
高周波ブレードは、振動音と駆動音が小さいとはいえ、常時発生するし、熱で焼き殺すことにもなるのだから、悲鳴を上げさせないまま殺すというのが少し難しく、避けたい。
じゃあ、魔法はどうかと言われると、無音で、かつ一撃で、被害を最小限になどといった点を考えると少々面倒なことがある。
なら、どうする。
俺は考える。自分の持っている物、それで成し遂げる方法。
サプレッサー付のハンドガン、これしかないだろう。
高周波ブレードと同様に、この世界には本来ないはずの代物。それには、仕様書のほかにいくつかマガジンも用意されていた。
だから、弾丸の数は問題ないだろう。
銃の操作については、一年半ほどFPSで経験してきているから問題はない。
ここで言う、FPSで経験したから大丈夫というのは、一つか二つ世代が前であれば、馬鹿にされてもおかしくない言葉だ。
だが、今の時代、すなわち意識そのものをゲームに送り込み、実際に経験するというゲームがある時代において、それは笑われることのない言葉となっている。
FPS系統のゲームにおいては、程度の差こそあれ銃の操作は全て自分でやることになっているのだ。
なお、そのリアルさゆえに、FPSのゲームは実際の軍隊の訓練にも使われるようにすらなるほどである。
実際に撃つのに使うはずの弾丸のコストがなくなるし、自由に撃つことが出来る。さらに、人を撃つということに対する訓練も出来るのだから。
これは余談だが、医療分野でもゲーム世界という仮想空間において、手術の訓練などが出来るため、重宝されている。
つまり、意識をゲーム世界に飛ばすという形式は、様々な分野で応用がなされているというわけである。
ゆえに、俺は銃を扱える。
現実では扱ったこともない。そもそも、触れたことすらない。けれど、実際に渡されたなら、それを使うことが出来るのだ。
俺は進む。
家の壁に背中を当て、息を潜めながら。
ゴブリン達の姿を静かにうかがいながら。
静かに、村を救うための作戦は始まりを迎えた。




