図面から読み取る三人
課題、休憩、食事、もろもろ含めると、結果的に五時間が経過した。
五時間でそれら全てを終えて、かつ、俺が電話の設計図を描き終えることが出来たのは、ベストな状況だと思う。
そして、この場にいるメンバーの特徴も図面を見ていくうちに分かってきた。
アイリスは完全無欠の天才といったところだろうか。
一回言われたことは完全に把握し、その上で実行することが出来る。
俺の現実世界でも見たことがない類の人。
宮本正邦とは別の意味での天才。
宮本正邦は、才能もあったものの、努力の上で成果を上げていった天才であったというのは彼自身のことを現実世界で聞いているうちにわかるようになっていた。
だが、彼女は違うと思う。
彼女は、努力を上回る才能というアドバンテージを振り回す天才だ。
そして、グレイ。
彼はやることが丁寧なのは確かだ。設計図面の直線の引き方は綺麗だし、寸法の記入方法も抜け目なく出来ていることから、それは明らか。
だが、どこか抜けているのも確かなようだ。
中心線が窓のフレームそのもののラインと平行にならなければならないはずが微妙に傾いていたりと言った具合に、ちょっとしたミスがあった。
エイダは知っての通りの性格なので、少し周りと比べると、時間がかかったものの、丁寧に、そして、分からない時はすぐに尋ねてきて、的確に製図をしてくれた。
そのため、エイダは俺のチェックを一発合格した。
そして、最後にリーナであるが、うん。
彼女は製図しない方がいいと、俺は感じた。
少々雑な点が目立つのだ。
縮尺で示した通りの寸法と図面上の長さが五ミリほどずれていたり、中心線が中心をとおっていなかったり。
実践型なのだろう。
何度か手直しをすることで、ようやく俺の中でギリギリ合格と呼べる図面が完成したわけだが、彼女には無理だとはっきり感じた。
まぁ、図面を描かないにしても、読めるようにはなってもらえたので、今回の講義が無駄になったわけではないが。
とまぁ、そんな感じで、図面を見る事で、だいたいの性格を把握したことによって、俺は三人とどのような形で連携して、開発を行うのか大まかではあるが、決めていた。
「では、これからの開発におけるそれぞれの役目について話しておこうと思う」
ゆえに、俺は語り始める。
「まず、アイリス。君には、グレイとリーナを取りまとめる役と試作の製作を行ってもらう」
「分かったわ、任せて頂戴」
アイリスはグレイとリーナを取り纏める役と、この世界にある材料を用いた試作製作の役目。
この役目は言うなら、設計開発職。
いわゆる専門職であり、そこは自分の持つ技術力を高い水準で維持することが出来る人材が求められる。
これをこなすことが出来そうなのは、見たところ、アイリスぐらいだと感じたのである。
「そして、グレイ。アイリスによって作られた試作から完成品の生産をどのように行うのか考え、実際に生産を行ってもらう」
「了解です」
グレイはアイリスによって作られた試作から完成品の生産を行う役目。
この役目は言うなら、生産技術職。
どのように生産すれば、より効率よく生産することが可能か、より多く生産することが可能か考えることが必要となる。
「次に、リーナ。君には、実地での配線および設置などといったことを行ってもらい、その上で、売り込みも行ってくれ」
「分かった。頑張らせてらもらうね」
リーナは完成品の実際の配線や設置などといった役目。
言うならば、フィールドエンジニア。
おそらく、リーナは設計などといった内職よりは、実地に赴き設定保守を行ったり、修理をするようなことが向いている、そう感じたからだ。
「最後に、エイダは俺の補佐で、俺は全行程における総指揮を担当する」
「分かりました」
エイダは、俺の補佐。
どれも必要不可欠な役割であり、その役割の全体を総括し、その上で穴を埋めるのは俺の役割である。
人数的にはちょうどよかったと言える。
これより少ない人数であれば、一人あたりの負担が膨大なものとなり、辛くなるところだった。
分業と言うのは、物を開発し、売ろうとするなら、必要不可欠と言える事項である。
「役割は分かったわ。でも、例えば私が設計をしているときに、グレイとリーナはどうするの? 何もすることがないのだったら、無駄が多くない?」
ごもっともな質問である。
本当の意味で、一から始めるのであれば、設計開発が終わらなければ、生産する物がないし、設定する物も当然ない。
「グレイには生産における基礎知識の学習を行ってもらう。内容は俺がレポートとして明日配布する物から勉強してもらう」
「なるほど。じゃあ、リーナは?」
「配線の仕組みなどと言った技術的な面のレポートを明日までに作ってくるから、それをもとに勉強。そして、その上で、実際の設定に関して考えてもらう。ここについては変わることがないだろうからな」
「分かったわ。なら、大丈夫そうね」
アイリスは一歩引いて、俺の言葉を待つ。
彼女自身、他に聞きたいことはないようである。
なお、それは他の三人も一緒のようで、俺の言葉を待っているのが分かる。
「じゃあ、今日の作業はこれで終了。明日から本格的に開発に取り掛かることにしよう。お疲れ様」
そう言って、開発一日目の作業を俺たちは終えた。




