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交渉

 門が開かれた先。

 そこにあったのは、誰がどう見ても豪邸だと一言言葉にしてしまうような広さを持った家。


 辺り一面に広がる統一された緑の芝生。


 そんな庭の中央には、雪のような美しい白さを持つ石で作られた噴水があり、それを中心にして様々な像が置かれている。



 そして、さらに、その奥。

 そこに富豪の家があった。



 石を直方体に加工して作られた材を一つ一つ丁寧に積み上げ作られたそれは、自然の趣が残されており、風情を感じるモノ。


 それと同時に、でかでかと構えるその西洋風の家は、優雅さを感じる。


 正面二階にあるステンドグラスには、翼の生えた一人の天使が手を合わせ、祈りをささげている姿があり、それは太陽の光の当てられることにより、煌びやかに俺の瞳に映る。


「君かね。私と交渉をしたいというのは」


 そう言って、その豪邸から出てくる者がいた。

 老紳士。


 そう表現するのが正しいであろうという佇まいをしている男。彼はだいたい百七十センチの身長の体を曲げて、一礼する。


 彼の持つ白い整えられた髪や髭は老いているという悪い意味ではなく、趣があり、貫禄があった。


 そして、何か苦労でもあったのか、βテスト時よりも老けて見える。


「ええ、そうです。アルバート様。私は、一条蒼真と申します」


 一人称を俺から私に変える。

 それが俺が目上の、高位の存在に対する礼儀として常日頃行っていることだった。


 目の前の老紳士が一礼をしたことに合わせて、俺も礼をする。


「そうか。それで、そこの御嬢さんは?」

「私はエイダです。彼と共に旅をしている者です」

「よろしい。では、私の家に入りなさい。そこで、君たちの言う交渉とやらを聞こうじゃないか」


 やはり、記憶はないのか。俺は少し落胆しながらも、俺は老紳士のあとをついていく。

 

 彼の家の中は、豪華な邸宅、その響きを表現するにふさわしいものだった。


 深紅のカーペットが一面に敷き詰められ、そこには汚れ一つない。そして、壁に飾りつけられているのは、様々な絵画。


 βテスト時も見かけたが、あの時この絵画は白金貨五枚で、あの絵画は白金貨三枚の価値を持つとか説明されたこともあったか。


 そう、所々に彫刻や絵画といった芸術品が置かれている。


 それらだけでも、相当な額になるほどに。


「さすがだな。すごい豪華だ」

「ですね。こんな華やかだと何かに触ってしまわないか怖いぐらいです」


 俺たちは老紳士の後ろをついていきながら、そんな言葉をひそひそと交わし合う。



 そして、老紳士はある一つの扉の前で止まった。


「では、この部屋で君たちとお話しさせてもらおう」


 そう言って、彼は大きな開き扉を押し開ける。


 その部屋は特別だった。

 何も飾り気がない。


 カーペットは敷かれているものの、言うならそれだけだ。絵画が飾られているわけでも、シャンデリラを使っているわけでもない。


 あるのは直径三メートルほどはあろうかという円卓。


 そして、そこに並べられた十五個の椅子のみ。


 会議室、そう言われれば納得できる部屋だ。


 確かに、話し合いをするうえではいいかもしれない。


「さて、君たちも腰かけてくれたまえ」


 彼は一人腰掛けると、そう言った。


「はい、では失礼いたします」

「失礼します」


 俺とエイダの二人は隣り合う席、アルバートとは向かい合う形となる席に腰掛ける。


「すまないが、最初から本題に入らせてもらおうと思う。君たちは私に何を交渉したいのかね?」


 彼は青い瞳に力を込めて、強い視線をこちらに送る。

 それは見定めようとしている眼だ。


 相手がどのような者か、交渉するに値する人間か。


 ゆえに、この気迫に押し負かされてはいけない。むしろ、ここは攻めなければならない。


「資金援助をお願いしたいのです」


 だから、俺は単刀直入に用件を言った。


「ほう。資金援助か。何に対するものかね?」

「私たちの新開発のためです」


 答えるべきは事実のみ。

 そこに余計な言葉をはさむべきではない。エイダには俺に任せてくれと伝えてあるので、彼女は口を挟みはしない。


 彼女には、交渉がどのような結果になったのか、見届けてもらうために、この場に来てもらっている。


「それをすることによる私のメリットは?」


 そう、これは重要なことだ。


 仲の良い気が知れた友人同士ならまだしも、相手は誰かも分からぬ者。そんな俺たちに資金を貸すためにはある程度条件が生じる。


「私たちが得た利益のうち、十パーセントをあなた様に御贈りさせていただきます」


 だから、俺はこう言った。

 利益、その十パーセントは大きい。


「ほう。だが、それは成功する前提だが、失敗した時にはどうするのかね? 私は資金援助だけして損をしろと?」

「いいえ、違います。私たちに貸していただきたい資金は、白金貨三十枚。私たちはその担保としてドラゴンの鱗を四十枚お渡しします」


 ドラゴンの鱗。

 それは冒険者から商人に売る場合は、金貨一枚ほどの額にしかならない。


 だが、商人から商人に対してや商人から消費者へと加工したものを売る場合は、ドラゴンの鱗を一枚当たりに換算すると金貨三枚であったり、高ければ五枚分にもなったりするほどの高値での取引がなされている。


 俺たちにとってドラゴンの鱗四十枚は、金貨四十枚、すなわち、白金貨二十枚ほどの価値しか持たない。


 だが、アルバートのような商人にとって、ドラゴンの鱗四十枚は、最低でも金貨百二十枚、すなわち、白金貨六十枚ほどの価値を持つのだ。


 この交渉で重要なのは、俺たちの持つドラゴンの素材の消費をいかに抑えるか。


 と言っても、この最初の条件で通るなら、それでもいいと思えるような枚数の提示をしている。


 あくまで、ある程度の数、ドラゴンの素材を残せればいい。


「面白いことを言う。そのドラゴンの鱗四十枚を見させてもらってもいいかな?」

「エイダ、ドラゴンの鱗四十枚を詰めた袋をアルバート様にお見せして差し上げろ」

「はい」


 そう言って、彼女は袋詰めしたドラゴンの鱗を彼アルバートの元まで行って、手渡す。


 それを眺めたアルバートの顔が一瞬だけだが、豹変したのを俺は見逃さなかった。


 それが、彼が俺たちのことを逃がしてはならない客だという意識に切り替えた瞬間だということは俺には分かっていた。


 それほどまでに、ドラゴンの鱗というのは貴重なのだ。


「よろしい。そして、この際だから、私から譲歩を行おう。白金貨四十枚の資金援助を行う。そして、それに対する対価はこのドラゴンの鱗四十枚とその開発によって得られた売上の五パーセントでどうだ?」

「譲歩ありがとうございます。では、その条件で、よろしくお願いします」


 彼ならこのような譲歩をしてくれることは予想がついていた。


 アルバートに俺の記憶がなくとも、俺はアルバートがどのような人物なのか知っているのだから。


 彼が、このような良い商売の種を見つけた時は、あえて、自分から譲歩することによって、相手に好印象を与えることを知っているから。



 だが、利益を売上という言葉に変えているあたりが抜け目ない。

 数字上では下げているように見せているあたりがさすがである。


 俺は立ち上がる。

 交渉成立だ。


 そうして、俺は立ち上がってすぐ、アルバートの元へと向かうと、握手を交わしたのだった。



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