旅立ち
ドラゴンと対峙してから、三日が過ぎた。
その三日、何もせずにいなかったのかというと、そうではない。
まず行ったのは、力尽きたドラゴンの肉体から、素材を剥ぎ取る作業。
伝説や伝承の類の生物であるドラゴンの素材は、非常に高級で、この世界において一流の武具や防具を作る際などに重宝されるのだ。
その存在の絶対数が少ないうえに、一匹一匹が持つ力は強固。
ゆえに、そう易々と手に入れられるものではない。
この世界において、プレイヤーにはシステム的に魔法のポーチと言う物が与えられている。
その中には、所持品がいくつであろうと、無限に入るという優れ物だ。
なお、この魔法のポーチ自身は所持品ではなく、システム的なモノであるため、盗まれたり、紛失することはない。
ただ、プレイヤーにのみ許された機能であり、この世界の住人にはそのようなものはない。
まぁ、正確に言えば、βテスト時の意味合いであり、本来の正式配信後のゲームの仕様としてどういう仕様にするつもりだったのかはわからないが。
閑話休題。
俺が行ったのは、異世界に来た初日に行った”具現化”の逆である。剥ぎ取ったドラゴンの様々な部位を魔法のポーチに入れたのだ。
具現化は魔法のポーチから、この世界へとモノを取り出す行為。
逆に、魔法のポーチの中に入れるためのワードは”収納”となっている。
ゆえに、今の俺の魔法のポーチ内に存在する、素材はこうなっている。
ドラゴンの鱗 ・・・200枚
ドラゴンの牙 ・・・10本
ドラゴンの翼膜・・・4枚
ドラゴンの火炎生成器官・・・1個
ドラゴンの尾・・・1本
ドラゴンの眼・・・2個
ドラゴンの爪・・・8本
その他、ドラゴンの脊髄や延髄などと言ったものも存在している。
ちなみに、俺が剥ぎ取った以外の残りの物は、村人のモノとして贈った。
ドラゴンと言う存在は、その伝説的な印象から、その素材をこの世界では古くからお守りなどにも用いているのである。
旅のお守りだとか厄払いだとか。
まぁ、そのお守りをエイダの母親が、俺とエイダの二人分作ってくれたから、そのお守りの存在について知っているわけだが。
なお、剥ぎ取り作業のほか、スマホの充電を行ったりもした。
この世界における俺の”スマホ”の扱いは、どうやら魔力で動く機器となるようだ。
立派な技術の産物であるが、電気では動いておらず、魔力を注ぐことで、人間でも充電可能というわけである。
まぁ、その他にも色々あったが、それらをやっていくうちに、あっという間に三日と言う時が過ぎていたのである。
そうして、俺たちは今日旅立つ。
「さようなら。今まで、ありがとうございました」
それは、俺の言葉。
「行ってきます。これから私、この人と色々なものを見て、聞いて、経験して、しっかりとした大人になってきます。待っていてくださいね」
そして、これはエイダの言葉。
「行ってらっしゃい。気を付けて行きなよ」
「娘を頼んだぞ、あんた」
「あなた様になら、私たちの娘を任せても安心できます。行ってらっしゃい、また会えるのを楽しみにしています」
数々の言葉を俺たちは受ける。
そのどれもが、この村に生きる人々の声であり、思いである。
そこに立っている誰もが、俺たちの旅を応援してくれている。
大きく手を振ってくれている者、優しい瞳で見守ってくれる者、声援を贈る者。
形は違えど、その気持ちは、伝わってくる。
誰しも、村で育った子供であるエイダの旅立ちを、村を救ってくれた旅人である俺の旅立ちを、見送ろうという意思のもとに集まっているのだ。
それに俺は心の中で「ありがとう」と一言だけ告げると、進みゆく方向へと体の向きを変える。
多くの人々による応援、それを深く噛みしめながら。
「じゃあ、行くか」
俺は出発の言葉を、これからともに旅立つ仲間にかける。
ドラゴンに対して、共に戦ったエイダという一人の少女に。
「ええ、行きましょう」
それに返される同意。
そこには別れに対する悲しみによる涙はない。それはもうすでに済ませたこと。彼女の顔には、これからの冒険に胸を躍らせる純粋な好奇心があった。
そうして、俺たちの旅は始まりを迎えた。
どうも、レイアンです。
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これからも、この技術者ゲーマーの異世界記をよろしくお願いします。




