ドラゴンと言う者
弾丸が飛ぶ。
ドラゴンの中で生成された辺り一帯を焼野原にするような業火の中を。何人たりとも侵入を許さない温度の中を。
一直線に。
自身の持つ回転を維持しながら。
それだけでは当たったところで、大したダメージを与えることが出来ないだろうと思うかもしれない。
いくら脅威のある銃弾とは言っても、その直径はだいたい一センチ程度でしかない。
そんな小さな弾丸。
だが、それはいくら小さなものと言っても、それの持つ回転速度、および直進速度を踏まえると、非常に大きな衝撃波が発生する。
その衝撃波は、ドラゴンの肉体を中から破壊する。
肉体を中から破壊される感覚というものは、想像以上のモノだ。自分では痛みに対して、対処することが出来ない。
それはまるで、病気のように無慈悲に、それはまるで、雷のように一瞬のことで。
ゆえに、それに対処することはできない。
そこにはどのような生物であろうと、隙が生まれる。
その隙こそ、攻撃のために踏み込むチャンス。
ただ結局のところ、銃弾一つでは、ドラゴンを殺しきることは叶わないだろう。
衝撃波の持つ威力、それがいくら強力なものだとしても。
そう、人間であれば、はじけ飛ぶような威力であっても、ドラゴンの体内はどの程度の硬度を持っているのかは分からないのだから。
分からないとは言っても、おそらくはそれ相応の硬さを持っているだろうとは想像できるから。
だから、俺は高周波ブレードを右手に握る。
スイッチをはじいて、準備万端な状態にして。
そして、それは衝突した。
ドラゴンの腹部。
よく見れば、金属光沢のような、漆塗りのような独特の質感を持つ鱗。それと衝突したことによって、銃弾は火花を散らす。
その間も、ドラゴンは業火を放ち、俺のことを焼き殺さんとしている。
それに伴い、徐々に俺のいる周りの空間の空気は熱を持ち始めていた。気温にして、約五十度は超えている。
それは、人が生きていられる空間の温度ではない。
それは個人差などなく無慈悲に人を殺す温度。
たんぱく質を変質させ、人間の肉体を焼く温度。
そこにあるのは死へと一直線に続いていく一本道のみ。
だが、俺は平然としていた。
それは後ろに控えるエイダの魔法のおかげだ。
ある一定の定義した空間の熱をその外の空間に放出し、定義した一定の空間のみ、温度を一定に保つという魔法。
これは魔法の効果を起こす場所を明確にしなければならない魔法だ。
分類にしてみれば、回復魔法。
これは高温であろうと、低温だろうと、使用者の思うがままに温度を調整できる魔法だ。
だが、その空間の定義が少しでもずれたりすれば、死の未来を招くという危険な状態であるのには変わりはない。
ただ、俺はそんな心配をせずに、弾丸の行く末を見守る。
いや、そのような心配をしているほどの余裕すらもなかったというべきかもしれない。
弾丸がドラゴンに衝突してからの時間はそこまで長くはなかっただろう。
いや、2000m/sで進み続けようとしているのだから、一秒にも満たない時間だったのだろう。
だが、その時間だけまるで、細分化されたかのようにゆっくりと時間が進んでいくように感じた。
ひやりと汗が頬を伝うのを感じる。
緊張に心臓を速く鼓動させているのを感じる。
だが、時間の進みがいかに遅く感じようと、止まることはない。
その時は訪れた。
肉を穿つ音。
鱗が砕け、周囲にまき散らされる音。
それらは爆音にも似ていた。それほどまでの音量で響き渡るそれは、ドラゴンにとっても苦痛だったのだろう。
業火の放たれる方向がぶれ、ドラゴンの視線がこちらから逸れた。
「俺は前に出る。頼むよ、エイダ」
「はい、行ってください!」
俺は自身で作り出した土の壁を高周波ブレードで一振りすることで、破壊する。
破壊しながらも、前に出る。
身体強化を成した状態で進むそれは、人のモノとは思えない。
五十メートルほどあった距離を一瞬で詰める。
全てを焼き尽くされ、真っ黒な灰と化した地面を踏みしめながら。
あの業火に焼かれれば、どうなるのか。その未来を示した姿に警戒心を一層強くしながら。
ドラゴンの穿たれた腹部の様子とドラゴン自身の行動を窺いながら。
「やばい」
ドラゴンの目が俺の姿を捉えた。
その目に宿るのは獲物を殺すという狩人の獰猛な意思。
魔物という者たち全てが根底に持つ感情、行為。
ドラゴンは地面を踏みしめ、大地を震わせながら、飛び立つ。
十数メートルもの巨体が飛び立つことによる振動は、人間の体勢を崩すのには十分だった。
事実、俺も体勢を崩さないようにするのが精いっぱいで、進めなくなった。
だが、俺はドラゴンから目を離さない。
視線を逸らさない。
かの者が視界から消えたら、俺は死ぬ、そんな予感さえするがゆえに必死にその姿を追う。
天空を舞う龍。
かの者は、空高く舞い上がり、宙で一回転すると、急降下を開始した。
標的は俺。
その速度は弾丸にも匹敵すると思えるほどのモノ。
だが、それが持つ重量は銃弾のそれとは比べ物にはならない。
地面と衝突でもすれば、地面にひび割れが生じるといったレベルで済まないだろうと容易に想像出来るもの。
死神が背中を撫でたような感触がした。
ハイゴブリンにわき腹を穿たれた時にすら感じなかった感触。
そう、これが、戦いだ。
しかし、俺はこの危機的状況に沸き立っていた。
一人のゲーマーとして。
この村を救おうとする一人の戦士として。




