拠点設営
「とまぁ、そんなわけでここグラニカ高原は色々魔物が出る」
倒れ伏した魔物の姿を見ながら、俺はそう言った。
手荒い歓迎とはなったが、それはこのグラニカ高原の中でも盛んに動いている種類の魔物だからだ。
「攻撃をもらうと、ちょっとやばいかもしれないけど、戦えないこともない相手ね」
「そうだな、ゲームによっては適正レベルじゃないと全く戦えないとかそういう調整バランスの時もあるけど、そうでもなさそうだ」
「ようやく落ち着いてきたから、次からは私も戦う」
相手によっては多少時間はかかるだろうが、一対一であっても勝てないことはない魔物だ。適正レベルという観点で言えば、ナザ達は当然到達していない。
とはいえ、VRMMOの良い所は、ここにある。
適正レベルに達していなくとも、プレイヤースキルである程度はカバーできる。そして、こういったアクションが苦手だと言う人も適正レベルに達していればそこまで苦戦せずに攻略することも可能になる。
ディープなゲーマーにはとことん自力で頑張ってもらって、ライトユーザーには楽にゆっくり進めてもらう。
このアルタートラウムもまたその例に漏れないバランスで作られたゲームだ。
グラニカ高原はライトユーザーに向けた良い例だし、アルバートと俺が行った魔界は適正レベルなんて概念があるのか想像もつかない。
「ふむ、そうじゃな。おぬしらであれば、特に問題なく倒していけるじゃろう。ナザはその正確で迅速な射撃には目を見張るものがあるし、美鈴は近接戦で最小限の動きで的確に攻撃をかわし、ダメージを与え続けるあの身のこなしは素晴らしい」
アルバートは先ほどまでの戦いから安心したらしい。
まぁ、確かに俺の紹介とはいえ、唐突に現れた相手がどこまでの腕前なのかなんて実際に戦うところを見てみないことには分からないわけだし、仕方ないだろう。
彼らは俺も信頼している。
美優こそ戦っていないが、彼女は彼女で同様にきちんと戦いきれるだけの力量を持っている。
「まぁ、そこについては安心してもらっても良いと思います。これからの方針についてですが、しばらくはここに拠点を張ります。その上で、アルバート、アイリス、グレイ、リーナ、エイダ、私の6人でグラニカ遺跡に潜ります」
俺たちも強くならなければならない。
そのためにここに来た。
ビッグベアやワイルドボアを倒せるならば、安心して三人を放置して進んで行ける。
「ふむ、そうじゃな。我らにとっては本番はここからじゃからな」
ここから先に棲む魔物は油断ならない相手ばかりだ。
それはアルバートにとっても俺にとっても。
そこまできちんとマージンが取れているわけでは決してない。けれども、そうでもしなければ間に合わない。
俺たちがこの世界を守るためには時間が圧倒的に足りないのだ。
「危険な探索となります。今日はここで休んで、気を引き締めて明朝から進みましょう」
ただ、それに対して確認はとらない。
その危険は承知の上で彼らは来てくれている。思いは同じなのだ。
だからこそ、そんな確認を取ること自体が野暮であり、その覚悟に失礼だと思う。
「そうじゃな。今日は休むとしよう。アイリス、グレイ、リーナ、拠点の設置を頼むぞ。儂はここに結界魔法を張る」
アルバートは衰えを全く感じさせないてきぱきとした動きで設営を始めていく。それに続くアイリスたちの動きも慣れたものだ。
昔、アルバートたちと遠征した時の姿が脳裏によぎる。
あの時も彼はこうしてみんなの先頭に立って拠点設営をしていたっけ。
「というわけで、これからは基本別行動となる。さっきの戦いで、俺がいなくても全然大丈夫って言うのが確認できたしな」
もっと苦戦するようなら、手を出さないまでも念のため俺が後ろからついていくつもりだった。
ただ、その心配は必要なさそうだ。
「そうだな。まぁ、すぐにでもお前に追いついてみせるさ」
ナザがそう言って笑うと、それに同調するようにうんうんと美優と美鈴が頷く。まぁ、この様子からもナザ達なら心配はいらないだろう。
俺の想像しているよりもずっと早くレべリングを終えてしまいそうだ。
とはいえ、グラニカ遺跡にそのまま入ると言うのはレべリングを終えた後であってもレベル差が大きすぎて無謀なので、させないつもりではあるが。
それは却ってアルバートたちを危険にさらすことになるからな。
「しばらくはここに作った拠点でログイン・ログアウトしてくれ」
「ええ、そうする。じゃあ、アルバートさんたちを手伝ってくるね」
そう言って三人もアルバートたちに交じって設営を始める。
彼らも新しい関係とはいえ、順調に仲を深めているようで何よりだ。なんだかんだパーティーを組む上で重要となるのは適度な実力と距離感だと思う。
実力は一人だけ劣っているとか逆もまた然りで、あまりに離れた実力や人間関係の悪化はパーティーでの連携を弱くする。連携が適切に行われるからこそ、一人で勝てない相手と戦えるのだが、それは普段から行っているからこそ有事の際に使えるのだ。
ゆくゆくは共に戦えるぐらいまでなってくれるはずだから、そこは楽しみにしておこう。
「さて、最後になっちゃったね。エイダ、俺たちも行こう」
「ええ、蒼真」
さて、明日から。
気を引き締めて行こう。




