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二人の帰路

「エイダ、ただいま」


 アルバートとの話のあと、工房で一人待っているだろう彼女の元へと俺は戻ってきていた。


「おかえりなさい、話は済んだんですね」

「ああ、アルバートもエイダと同じように俺のこと思い出してくれたみたいで、スムーズに話が進んで行ったよ」


 そう、アルバートは記憶を取り戻していた。

 昔の俺を知る味方が増えた。βテスト時代という長い付き合いによる味方が増えたのは正直言って心強かった。


 他にも会いたい人はいるけれど、それでもアルバートと言うのはβテスト時代でも特に仲が良かった一人だ。


 今、こうして共に歩んで行けることは嬉しく思う。


「エイダ、今日は少し帰って、ゆっくりしようか」

「えっ?」


 帰ってきたからには、ものづくりの続きをすぐにでも始めると思っていたのだろう、エイダは驚きの声を上げる。


 確かにそれをしていたい気持ちはある。

 アルテミスに言われたからという理由だけではないにしろ、急がないとならないのも事実だ。


 ギルド立ち上げのための商品開発に費やすための一か月、何もできなかったのだから。


 この遅れは何としても取り戻さなければならない。

 だが、そんなことは置いておこう。


 そんなことより、

「帰ってきてすぐに開発を進めてもあれだろ? だから、とりあえず今日は休憩だ」

 エイダと二人過ごしていたかった。


 二人過ごすことで、彼女のことを安心させてあげたかった。

 自分が一か月行方不明になるということは彼女にとても心配をかけてしまっただろうから。



 というのは言葉だけで、本当は俺自身が彼女と過ごしたいだけなんだろうな。


「そ、そうですね。そうしましょうか」


 エイダも戸惑いながらも同意してくれた。


「じゃあ、宿に戻るか」

「ええ、そうしましょうか。じゃあ、アルバート様に今日は帰るって声をかけてきます」

「大丈夫だよ。さっき別れ際に今日はもうこれで終わると伝えといたから」

「そうですか、なら大丈夫ですね」


 そう言って、エイダはフフッと笑う。

 どうしたんだろうと思いはするも、聞くほどのことでもないかと聞こえなかったふりをする。


 俺たちはそうして工房を出て、

「じゃあ、今日はこれにて失礼いたします」

 表向きは唯一の出入り口である門を守る門番の人たちにそう声をかける。


 門番というと、どこか強いのだからちょっと怖そうというイメージを抱きがちだけれど、彼らはそんなことはない。


「おつかれさん。一ヶ月ぶりに会えてよかったよ。また明日も来るんだろ?」

「ええ、明日からはしばらくまたお世話になります」


「そうかいそうかい。じゃあ、待ってるよ」


 面倒見のいいおじさんというのが印象的な人もいれば、

「大変だろうけど、頑張りな。アルバート様が認めているともなればそれ相応のことをしようとしているんだろうけどさ」

 顔立ちは少しいかつい兄ちゃんという感じなのに、こうやって応援してくれている人もいるし、

「……」

 まぁ、無言で門番の役割を果たしている人もいる。


 だが、誰しも油断は全くしていない。護衛としての役割を果たせるだけの強さを備えているからこその余裕なのだと俺には分かる。


 いや、知っている。

 それに、彼らとはもっと仲良くなれるだろうとも前の経験から思っている。


「じゃあ、お疲れ様です」


 そう言って話を切り上げて、開かれた門から屋敷の外へと出る。


「蒼真、門番の人たちとも仲が良いんですね」

「ああ、あの人たちとは話してみると意外とすぐ仲良くなれるよ」


 βテストのときもそうだった。

 実は一か月前も少しだけ話に行ってみたのだが、また昔と同じようにすぐに仲良くなれてたりする。

 記憶があろうがなかろうが、変わらないものもあるんだ。


「エイダも俺と一緒に話してみたら? あの人たち結構良い人だから」


 確かに雰囲気や顔立ちを見ていると、どうも話しかけづらい人ばかりだ、そういうえば。


 だったら、俺を交えてだったら話しやすいのではないだろうか。

 これからも長くお世話になる人たちだし、仲良くなるのに越したことはないだろうから。


「……、はい。お願いします」

「じゃあ、今日はこのまま真っ直ぐ帰ろうか」


 そう言って、俺たちは帰路に就く。

 途中、焼き立てパンの香ばしい匂いを嗅いだときや細部まで作りこまれているふくろうの置物を見たときは思わず寄り道したくなった。


 けど、とりあえず宿に戻ってエイダと色々話したりしたかった。



 というより、そうするべきだと思った。


「蒼真、少し寄っていきますか?」


 それが顔に出ていたらしい。

 ちょっといたずらっぽく笑って、こちらを見つめてくる彼女はどこか可愛らしかった。


 感づかれてしまったかというちょっとした気恥ずかしさと彼女のこんな顔が見れてよかったなんて思ってしまった自分がいる。


「いや、帰ろう」


 感づかれまいとするちょっとした意地から発せられた言葉に、

「あのふくろうの置物すごく良さそうですよね」

 エイダは間髪入れずそう言ってきて、

「そうそう。翼の羽一つ一つの毛並みが細かく作りこまれていて、それに、目が良い感じしてる」

 俺は思わずそう答えてしまっていた。


 それに俺は言った後になってから、はっとして、エイダのほうを見つめる。


「フフッ。気になってるんじゃないですか~」


 すると、にこにこと俺のことを覗き込んでくるエイダの姿があった。


「ああ、そうだよ。あの置物良いなーって思ったんだよ」


 開き直ることにした。

 もうここまで来たら、改めて隠すのはどうかと思う。もうなるようになれだ。


「じゃあ、少し寄り道してから帰りましょ!」


 エイダと恋人になってから初めての二人っきりデート。

 そういうのもありかと思ってしまう自分がいる。尻に敷かれる彼氏にはならないようにしないとなと場違いなことを考えながら、俺は先に進んでいくエイダの後ろに続いて行った。


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