第44話:いいから…ちょっと待ってて…ね?
よろしくお願いします!
友達も帰ってしまいまたやることのなくなった俺。
いつもやってるギャルゲーも貸してしまい、何をすることもなくただボーッとしていた。
そんなとき、玄関のドアが開く音とともに、
「ただいまー」
と声が聞こえてきた。
たぶんだれかが帰ってきたのだろう。
俺は一瞬、妹が帰ってきたのではと思ったが、声を聞いてあきらかに違っていた。
少しガックリと肩を落とす俺。
別に妹じゃなかったからって残念だなんて思ってないけどね!
そんなことを考えている間に帰ってきた誰かは俺の部屋を、ノックもせずに開けてきた。
「大介ちょっといい?」
「ん、何?」
帰ってきたのはお袋だった。
まぁ、声でわかってたけど。
「あんたに渡したいものがあるのよ」
「渡したいもの?」
よく見ると、お袋の手には可愛らしい袋が握られていた。
すると、お袋はニヤッと笑って、
「実はこれなんだけどね」
と嬉しそうに言ってきた。
「さっきスーパーからの帰り道で律ちゃんに会ったのよ」
「律?三舟律のことか?」
「そうそう。その律ちゃんよ」
お袋が言う律ちゃんこと三舟律は俺の元クラスメイトの一人であり俺の幼なじみってやつだ。
性格は気弱でおとなしいからガキの頃はいつもいじめられててその度に俺が助けてやったりしていたっけ。
唯一の取り柄がお菓子作りで、一番得意だっていうチーズケーキをよく食べさせられた。
まぁ、めちゃくちゃ美味しかったから文句はないけどね。
「その律がどうかしたのか?」
「これ大介にって」
そう言ってお袋は俺に持っていた可愛らしい袋を渡してきた。
開けてみるとそのなかには、なんとチーズケーキが入っていた。
「おっ、チーズケーキじゃん。これほんとに俺にか?」
「えぇ、そうよ」
「マジで!俺あいつのチーズケーキスッゲー好き!」
俺はあいつのチーズケーキがこの世界で一番美味しいって思ってる。
それほどあいつのお菓子作りはすごいってことだ。
「あとでちゃんとお礼いっとくのよ」
「はいよー」
・・・・・・・・・・・・・・・・
というわけで俺は今あいつの家の前で立ち止まっていた。
「…なんか行きにくい」
ここまで…と言っても俺の家から律の家までは家を一件挟んだ距離なのですぐ近くだ。
律の家までは足はスムーズに動いたのだが、いざインターホンを押そうとするとなぜだか緊張してしまった。
「やっぱ気まずいよなぁ」
昔は毎日のように遊んでいた仲だった俺達だが、中学、高校となるにつれて次第に遊ぶこともなくなり、終いにはあまり話さなくもなってしまった。
この間の俺の誕生会(仮)にも元クラスメイトとしてあいつも参加していたが、一度も話をしていない。
何度か目が合いはしたが、合った瞬間にあいつから目を背けられてしまった。
あまり話さなくはなってしまったけど、俺はあいつのことは嫌いじゃない。むしろ…んー、まぁいいや。
あいつもまたケーキを作ってくれたんだし、たぶん嫌われてはないと思う…てか思いたい。
俺はそのあとも数分間心の中で葛藤を続けたがこれじゃらちがあかんとの結論に至り、いざ、覚悟を決めて俺はインターホンを押した。
ピーンポーン。
な、鳴らしてしまった…いまさらだけど電話でも良かったんじゃないか?わざわざ家に押し掛けるなんてもしかしてうざがられるんじゃ…
…ガチャ
そんなことを考えている間に、玄関のドアが開いた。
「はーい…」
聞き覚えのある声…間違いないこの声は、
「ん?あれぇ、もしかして大ちゃんかぁ?」
律の姉貴だった。
律だと思ったか?うん、俺も最初そう思ったよ。年は違えど声がそっくり過ぎるんだよこの姉妹は。
てか…
「もう大ちゃんは勘弁してくれよ舞姉」
「別にいいだろ。私からしたらおめぇはいつまでも子供だボケ」
相変わらず口の悪いこの方は、三舟舞さん。
確か今年で二十歳の大学生だ。
それなのにまるで今起きたかのような格好で赤みがかったセミロングの髪もボサボサのままだった。
今日って確か平日だよな…大学ももう休みなのか?
まぁ、エブリでい休みな俺が言えることじゃないけど。
「それにしても久しぶりだなぁ。死んだかと思ってたわ」
「物騒なこと言うんじゃねぇよ!」
「あぁ、わりぃわりぃ。そんでうちになんかようか?」
おっと、そうだったそうだった。
「舞姉、今律いる?」
「律か?あぁ、いるぞ」
「ちょっと呼んでくんね?」
「少し待ってろ」
そう言ってドアを一度閉めた舞姉。どうやら呼びにいってくれたようだ。
「おーい律ー。お前の彼氏がきてんぞー」
「ぶふぅ!」
って、何言っちゃってんの舞姉!?しかも外まで丸聞こえだし!他の人に聞かれたらどうすんだよ!
「あぁ、間違えた。王子様だっけ?」
「どっちも違うわ!」
ほんと舞姉と絡むのは疲れる。普通に呼べんのか普通に!
すると、ものすごい勢いで階段を降りる音が聞こえたかと思うと、
「何言ってるのお姉ちゃん!!」
誰かの怒鳴り声が聞こえてきた。
「そんな人いないし!てか、王子様って意味わかんないよ!」
「まぁ、いいから出てみろよ」
「もぉー」
舞姉と似た声。これは間違いなくあいつだ。
そしてゆっくりとドアが開いていく。
「お待たせしまし…た?」
「よ、よぉ律」
現れたのはやはり律だった。
俺に気づいた律は数秒ほど間を開けて、
「だ、大介くん!?ど、どどどどうしてぇ!?」
そう言ってすぐドアの影に隠れてしまった。
「えっ、嘘なんで?どうしよ、私部屋着のまんま出ちゃったよぉ」
小声で何かをボソボソ言っている律。
その姿は昔の律そのまんまだった。
しゃがみこみ、頭を抱えて耳まで真っ赤にしたそんな律を見て、俺は少しホッとし、そして、
「ちょ、ちょっと待ってて…着替えてくるから」
「べ、別にそのままでもいいだろ 」
「ダメなの!特に大介くんはダメ!」
「どういうことだよ…」
「いいから…ちょっと待ってて…ね?」
昔と違う律の少し大人びた顔立ちに、不覚にもドキドキしてしまったのだった…
お読み頂き感謝です♪
幼なじみは必須だよねww




