第35話:助けられてるのは、いつも俺の方...だったんだね
よろしくお願いします!
「な、何でお前がここに?」
「そんなのどうでもいいでしょ!」
降りしきる雨の音よりも大きな声で、加奈子は俺を怒鳴り、今までに見たことのない形相で俺を睨み付けていた。
「ねぇ、兄貴今、何しようとしてた?」
加奈子の声は震えていて、よくみると、全身が小刻みに震えていた。
俺はその問いを投げ掛けられて、すぐには答えを言えなかった。
「...別に」
「別にじゃない!」
通りすぎる通行人が、ビクッとするほどの大声で加奈子は言った。
加奈子はさらに、俺に質問してきた。
「何でそんなことしたの?」
ほっといてくれよ。
「お前には関係ないだろ」
じゃないと俺、
「関係あーー」
「ねぇよ!」
俺は途中で加奈子の言葉をさえぎった。
そうでもしないと加奈子のことを嫌いになってしまいそうだったから。
「お前、逆に俺が何であんなことしたか分かるか?」
その問いは、自然に俺の口からこぼれ出た。
「分かる訳ねぇよな。大事な人を失ったことのないお前なんかに俺の気持ちなんて分かる訳ーー」
「そんなの...分かりたくもないよ」
その時、俺のなかで何かが切れる音がした。
「じゃあ、ほっといてくれよ!止めんなよ!」
俺はもう自分で自分を制御できなくなった。
こんなことが言いたい訳じゃないのに、余計なことばかり口に出してしまう。
「なんなんだよお前、うぜぇんだよ。正直俺のことはどうでもいいんだろ。お前はただ俺が自殺したら、周りの評判が悪くなるから仕方なくなんだろ。ほんとは死んでほしいって思ってるくせに...もう俺のことなんてほっといてーー」
「大事な人が死のうとしてるのに、ほっとけるわけないじゃん!」
加奈子が突然言ったことに、意表を突かれた俺は、呆然とこう口にした。
「お前...何言って...」
「兄貴こそ、私の気持ちなんて全然分かってない!」
加奈子の口調はさらに強くなる。
「考えなかったわけ?兄貴がもしいなくなったら、悲しむ人がいるって」
考えたに決まってる。
でも...
「そんなやついるわけ...」
「目の前にいるじゃん!」
「!?」
「少なくとも、私は兄貴が死んだら、今の兄貴みたいになる!恵だってそうだよ!それにお母さんもお父さんも、楓ちゃんだって絶対悲しむ!そんなことも分からなかったの、バカ兄貴!」
俺は驚いて、言葉も出なかった。
「だから、私は分かりたくない!大事な人を失う悲しみも、苦しみも、悔しさも...」
加奈子は何をいっているんだ?と思いながらも、心の奥底ではもう答えは出ていた。
「だって私、ほんとに兄貴のことが好きだから。まず、兄貴のこと失うなんてことから考えたくない」
雨でもはっきりとわかる...加奈子の目からは涙が溢れていた。
「お願い兄貴...私のことはどう思っててもいい、だからもう死ぬなんて絶対やめて。じゃないと私...」
そう言って泣きじゃくる加奈子を見て、俺はやっと理性を取り戻した。
頭が冷えてみればわかる...
ーーバカだな、俺...
誰かに必要とされること...誰かに好きって言われることがこんなにも嬉しいことだったと、俺は今さらながに気が付いた。
そう思うと、自然と涙が溢れてきて、いてもたってもいられなくなった俺は、
「加奈子」
と、俺は顔をみられないように、加奈子を抱きしめた。
「ちょっ!どうしたの兄貴!?」
いきなり抱きついたので、びっくりさせちゃったのか、加奈子の声は少し上ずった。
「俺は大事なことを忘れかけてた。でもお前のおかけでまた思い出すことができた」
そう、俺はあの時確かに誓ったじゃねぇか。
妹を助けてやる...何かあったら俺が妹を守ってやるって。
なんで忘れちまってたんだ俺は。
でも、あの時とは少し違う。
俺は、兄貴だから、これは兄貴の使命だからってしょうがないと思ってた。
でも今は、兄貴としてだけじゃない....本当にあいつらのことが好きだから、本気で助けてやりたい...
それを気付かせてくれたのも、妹だったな。
「...ありがとな」
「どういたしまして」
しばらく無言の時が続く。
気が付くと、雨は上がっていた。
「...兄貴の心臓、凄いバクバクいってる」
「当たり前だろ...生きてんだからな」
「そっか...そうだよね」
天を仰ぐと、雲の切れ間から太陽が差していた。
それはまるで、俺の心を表しているようだった...
お読みいただき感謝です♪
最近、ほんと、遅くてすいません...




