1.ご飯にケチをつけない。
この小説には残酷な表現があります。苦手な方、無理な方は今すぐバックをお願いします。
私は食っていた。果物、お肉、お魚を食べているのではない、私は『餌』を食っていた。それはもう美味。とろけるようなあの肉、そしてこの血に含まれた魔力と恐怖!この美味の8割くらいはこの魔力と恐怖だと思う。旨い。
私は逃げ惑いながら泣き叫ぶ『餌』を大量に口の中に入れると、それを一気に噛み砕いた。...マズイ、恐怖の味はするが魔力が全然ない。まぁ有難く頂きましょ。
『餌』の味を堪能した後、ごっくん、と喉を鳴らし、誰もいなくなった森を見渡す。昔はこの『狩り』を嫌がったが、慣れたもんだな、と思う。私は口の周りについた血を舌で舐めあげた。
私はふと、昔を思い出した。
「ねぇ、ドラゴンって興味ある?」
こいつは何を言っているのだろうか。
17という年になって、妄想の産物に興味があるのか。ガキんちょか、お前は。
私の目の前にいるこのツインテール女、相沢ほのかは私の親友であり、未だに子供っぽい趣味から抜け出せないという。ちなみに、こいつは異常にテンションが高いせいか、転んで脳しんとうを起こし病院送りにされ、足を捻じ曲げて骨を折ったことがある。つい最近だって骨を折ったらしい。
「...興味無いよ。アンタ、まだ妄想の産物になんて興味あんの?」
「いいじゃん、人が何かに興味を持とうと、勝手じゃーん!」
ほのかは頬を膨らませてふくれっ面になる。私は呆れ、この話題を変えようと何か別の話題を考える。
突然、視界が真っ白になった。紙...だろうか。どうやらほのかは紙を私の顔に押さえつけているらしい。
「ほら見てよ!これがドラゴンよ!」
ほのかに言われ、よーく紙を見ると何か絵が描いてある。角、鱗、牙や爪、翼を生やした何かトカゲみたいなヤツ。口から炎を吐いている。結構上手く描いてある。多分、ほのかが描いたのだろう。ほのかが描いた絵は一回、30万で売れたそうだ。
「へ、へぇ。それで?」
「んもう!反応薄いなぁ!」
そう言って紙を放すと、ほのかは鼻を鳴らして先に行ってしまった。怒ったのだろうか。ドラゴンが描かれた紙が、私の足元に落ちている。
「なぁに勝手に怒ってるんだよ...」
私はこんなことで怒るほのかにますます呆れ、紙を手に取って見る。こんなの現実にいたら、絶対人とか食われるだろ...。
何だかドラゴンが存在しないことに、変な安心感がした。本当に良かっただろうなぁ。今頃血の惨劇が世界中で起きてるって。
私は紙をスカートのポケットに適当にしまうと、さっさと歩き始めた。 夕日が道路を、妖しくオレンジ色に染めていた。
自宅まで後数キロという所で、ある横断歩道に差し掛かった。信号が赤になるまで柵に寄りかかる私の前を、たくさんの車が通り抜けていく。やがて赤信号が青に変わり、私はちょっと遅めに下を向いて横断歩道を歩き出した。
__私は気づかなかったのだろう。この歩行者用信号機が昨日の大雨で小さな故障を起こしかけて、青信号が赤に変わる時間が早くなっていたこと。私が横断歩道の途中まで来ていた所で、もう青から赤になっていたこと。そして、もう私の横に大型トラックが迫っていたこと。
ブーー、というトラックの警笛に、私はやっと気づいた。が、もう遅かった。私は、派手に轢かれ、派手に飛んでいた。
視界の中の世界がぐるぐると回る。オレンジ色の空が下になったり、上になったりと動く。そして私は、コンクリートに頭を強打した。
薄れゆく意識の中で、私のじんじんと痛む頭に何かが聞こえた。耳から入った音じゃない。頭の中で、聞いたことのない大きな獣が吠えたような音が聞こえると、まるでスイッチが切れたように私の意識は闇に消えた。
それ以降、何も覚えていない。
ぼんやりとしていた私は女性の叫び声で意識を現実に変えた。何事かと思いきや、白い頭巾を頭に巻き、古い服を着た老けた女性がこちらを指で指している。指で指すなぞ、失敬な。
「『ドラゴン』よ!誰か助けて~!!」
私はニンマリと笑うと、その女性をじぃっと見つめた。魔力も豊富で、恐怖も十分。デザートとして、それはそれは最高級な食材が出て来たのだ。味わったことのない美味だと思うと、満腹だった腹が鳴る。
私は戸惑いなくその女性を食した。口の中に味わったことのない美味が広がり、思わず目を細めてしまう。"デザート"をよく味わい、喉を鳴らし、胃に流した。げぷ、と満足して、私は言うのだった。
「ご馳走様っと」
ドラゴンの主食は人間でした。(魔力・恐怖が好物)