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PEACE MAN  作者: 星野 智久
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自由の翼

気がつくと、そこには見慣れない景色が広がっていた。

レイブンは自分がどこにいるかもわからないまま戦いに身を投じていくことになる。

どこかにある日常より。


辺りには瓦礫ばかりがある。

死体はあちらこちらに転がっていて、まさにこの世の終わりのような景色だ。

この国には争いが絶えない。

いや、この国だからこそ争いが続く。

人間は恒久的な平和を願い、争いの終焉を望んだ。

結果、歪が生じたのだ。

世界は変わった。

争いを遠ざけ、一カ所に、まるで、ゴミを廃棄するがごとく戦争は周りから隔絶した島国へと押し込まれた。

世界は変わったのだ。

人類が恒久的な平和を手に入れる代償として思想、宗教、利益のためではなく、ただ憎しみのための、怒りのための戦いをこの国にやったのだ。

もはや、大義も理由もない。

無意味で無駄な平和の代償は、その島国を果てしない地獄に変えることによって具現化された。

この戦場には人間のどす黒い感情が渦巻いていた。

もはや、そこは国ではない。

人の感情が溜まった不可解な異界となっていたのだ。

世界は変わったんだ。

外界の平和と地獄の戦場という正常と歪を内包して、人類は安息の場所を得た。

いつも通り、タバコをふかしていた。

戦場に運ばれる間に一服するのが習慣として身についている。

もっとも、同じようにタバコを吸っている連中もいるわけで車の中は霧で覆われているかのように白かった。

タバコを吸い終わったとき、通信が入った。

どうやら、今回のサポーターのようだ。

「これから、今回の戦争の設定を説明する。」

実に事務的な淡々とした語り口で"戦争"の内容を説明された。

今回のエリアは市街地だ。

そこで、相手の傭兵部隊を殲滅したチームの勝ちという形式で行われる。

相変わらず、戦争が平和を生み、平和が戦争を生む、この世界はひどく歪なことをする。

だが、考えうる限り永続的な平和を作るのに合理的な平和システムだ。

そのシステムの要である戦争はある意味、世界的なエンターテイメントとして、また、平和を作る機構として問題無く作動していた。

通信機から最後にこちらに声がかかった。

「レイブン。君の活躍は世界中が注目している。思う存分戦ってくれ。」

俺は苦笑し、周りから注がれる視線の中で戦争が始まるのを静かに待った。戦争開始の合図はレクイエムのような音楽が鳴る。

車を出る前に装備を確認する。

ファイブセブンに弾は込められているか。

P-90のセーフティーは外したか。

SVDに異常は無いか。

それらを確認し、戦争の舞台である市街地へ足を踏み入れる。まず、狙撃に適した場所を探した。

幸い、狙撃ポイントに適した建物をすぐに見つけたので、外からその建物の中から狙撃しやすい場所を選ぶ。

狙撃するのに申し分のない部屋に当たりをつけ、その部屋に向かった。

部屋に着き、扉をゆっくり開ける。

どうやら、トラップは無いようだ。

中を覗き、人がいないかを確認する。

先客がいた。

こちらの部隊の人間ではない。

気づかれていない。

レイブンはゆっくり近づき、先客に言った。

「この部屋はバカンスには向いていないな。場所を変えたらどうだ?」

兵士は驚いてレイブンの方を向こうとしたが、その前に彼は銃で撃たれ倒れた。

「良い旅路を」

ラテン語でレイブンは呟いた。さて、狙撃手には観測手という相棒がいる。

レイブンのように一人で狙撃をする物好きは、まず、いない。

あたりを見るとここをちょっとした要塞に仕立てるつもりだったのか、外敵を撃退するトラップが並べられていた。

トラップと言ってもちょっとした爆発で敵が来たことを教えるものが多い。

食らったとしても、軽傷で済む類の物が殆どだった。

これらは後で仕掛けるとして、まずは、観測手の始末をしないといけない。

そう思い立った時、誰かの足音が聞こえた。

こいつは運が良い!扉の横に待機し、観測手が来るのを静かに待った。

そして、勢いよく扉が開いた。

「ジャック!待たせたな!って、えっ?」

頭に風穴が開いている相棒の姿を見て呆然とするそいつを手早く組み伏せた。

そして、銃口を向ける。

「や、やめろ!待ってくれ!」

観測手は情けない声で助けを願った。

「………。」

だが、構わず引き金を引こうとする。

「お、お前、レイブンだろ!?」

自分のコードネームを言われて引き金を引く動作を止めた。

「さぁな。」

「いや、間違いない。あんたはレイブンだ!世界衛星テレビで見たことがある。めちゃくちゃ有名なヒーローだ!」

よくよく、目の前の兵士を見てみるとどこか目が輝いているような気がした。

「お前、楽しそうだな。」

兵士は興奮気味に答える。

「もちろんさ!俺はあんたに憧れて傭兵になったんだ!」そう言った兵士は頼みもしていないのに自己紹介を始めた。

「俺は佐藤だ。観測手としては、皆に筋が良いって言われてて、よく、スコープ佐藤って呼ばれてるんだ。」

そして、佐藤は立ち上がろうとした。

「動くんじゃない。」

「わわっ。わかった、わかったから、それを下ろして。装備は全部あんたに渡すからさ。」

佐藤は銃に注意しながら自分の装備一式をこちらに寄越した。

「降参した兵士を殺したら反則だろ?俺に敵意は無いよ。だから、な?」

そう言って佐藤はこちらに銃を下ろすことを要求した。

「俺はお前の相棒を殺した。憎くないのか?」

素直に降参を申し出た佐藤を不審に思い尋ねた。

「ふん、ジャックはこうなって当然さ。人種差別が非道いんだ。どっかの半島出身だとかで、腕は冴えないくせにプライドだけが馬鹿でかい。あんな奴、死んだ方がましだね。」

既に死体になったやつをいやそうな顔で佐藤は見て言った。

「ほら、変に先輩風吹かせるウザい奴っているじゃないか。あれの最悪なパターンだよ。」

そう、悪態をついてから、佐藤は手をさしのべてきた。

「なんだ?」

「もし、もしもだ。俺と組んでくれるんだったら、俺はあんたに全力で協力したい。」

レイブンは差し伸べられた手を見て冷たくあしらった。

「鴉は一羽で十分だ。」

「そんなこと言うなよ!半年で五百人以上を狙撃して、戦車を五体、戦闘機を三機、無人兵器を十機潰したあんたの仕事を直に見たいんだ!後生だ。俺をあんたの相棒にしてくれ!!」土下座をして頼み込んでくる佐藤に嫌気が差した。

「はぁ。嫌だ、といっても、ついてきそうだ。勝手にしろ。」

そう言ってやると佐藤はパァッと表情を明るくした。

そして、誰に言われるまでもなくトラップを仕掛けるなどの下準備に取りかかった。

変な奴だなとレイブンは思ったが、とりあえず、新参者に注意をしつつ自分の作業に取りかかった。

「レイブン!仕掛けが終わったよ!」

明るい声で佐藤は報告した。

「ちょっと、待て。早すぎやしないか?」

「そうか?これぐらいふつうだと思うけど。」

時間を見てみると彼が作業を始めて終わるまでの時間はカップラーメンがちょうど美味しく出来上がるのと同じくらいの時間だった。

「いや、普通じゃないな。」

そう、呟いて負けじとテキパキ作業を終わらせて狙撃を開始した。「ようし、見つけるぞ。」

佐藤は張り切って腕まくりをした。

「いいから、黙って仕事しろ。」

「わかってるよ。」

佐藤は楽しそうに答えた。

それから、何回かライフルを撃った頃、何かが叫ぶ声がした。

「……、っ!まさかっ!」急いで、その音源の元を探し出した。

案の定、数体のロボット兵器がいた。

運が悪いことに万能型と呼ばれているスネークタイプだった。

「な、なんだアレ!?」

「凶悪な無人兵器だ。ルーキー!さっさと逃げる準備を始めろ!」

無人兵器を始めて見たらしい佐藤はロボット兵器に目をとられていた。

そんな佐藤の尻をひっぱたきトラップを解除させる。

この戦場であの兵器はおかしいが考えるのは後だ。

そう思い建物の外へ出た。

「おい、緊急避難エリアまで走るぞ。ついてこれなかったら置いていく。」

佐藤にそう告げた。

佐藤は黙って頷いた。市街地の路地裏を全力で走りつづける。

周りでは敵味方を問わず、イレギュラーの侵入に混乱していた。

ある者は挑み、ある者は無意味に逃げ惑っている。

「レイブン!前だ!」

佐藤の声が聞こえたと思ったら体を横に引っ張られた。

さっき、自分がいたところが破壊され砂埃が舞った。

目の前にはロボット兵器が一体いた。

「あ、あわわわわ…。」

文字通り、泡を食った顔をしている佐藤に聞く。

「まだ、走れるか?」

「えっ、あ、あぁ!」

佐藤は必死に答えた。

「そうか、礼と言ってはなんだが、コイツは俺が引き受ける。お前は逃げろ。」

佐藤に逃げるように促した。

実際のところ、どっちかが犠牲にならなければ、この窮地から逃れられない。

また、これの威圧に恐れているようでは到底、勝ち目は無い。

「そんなっ!」

予想通り、佐藤は反対する。

やはり、戦場に慣れていないらしい。

「悪いが悠長に構えてられないんだ。さっさと行け。後で、追いついてやる。だから、さぁ!!」

剣幕で無理矢理納得させ、佐藤を逃がした。

「ふぅ、さて、どうしたものか。」

手持ちで使えそうな物はグレネードのみ。

敗色は濃厚。

腹をくくるしかないと思ったが、ロボットはなかなか襲ってこない。

「ん?変だな。普段なら辺り構わず来るんだが。」

そう疑問に思っていると、ロボットの背後から全身機械に身を包んだ謎の人間が姿を表した。

「サイボーグスーツか?」

サイボーグスーツとは戦場で再起不能になったものを一定期間延命させるためのものだ。

その用途はもちろん戦闘行為である。「ふっ、相変わらずだな。息子よ。」

サイボーグは機械的な声で語りかけてくる。

「お前は誰だ?」

レイブンは訪ねる。

「WOL。自由の翼、とでも言えばわかるか?」

「自由の、翼?レジスタンスの残党か?」

サイボーグはその回答に苦笑した。

「いや、私はそれそのものだったと言うべきか。もう、何年も前の話だ。平和の使者が死んだのも、もう、ずっと前のことだ。」

サイボーグは過去を懐かしむかのように無機質な声で語り出した。

「ピースマンだと?お前、なぜ、それを。ピースマンが死んだことを知っている?」

公にはピースマンは世界政府に厳重な管理をされていることになっている。

「さてね。私は答えを行っているだけだよ。レイ。」

サイボーグのその言葉に思い当たる物があった。

だが、それは有り得ない。

「馬鹿な!それじゃ、あんたは…!?」

全てを言う前にサイボーグはレイブンの目の前に来てこう告げた。

「過去を変えろ。この世界のために。」

サイボーグがそう告げた後、辺りは白く光り、レイブンは体が宙に浮くような感覚を覚え、その直後、意識を失った。

意識を失う前に耳に懐かしい人物の声が聞こえた。

『後は、まかせたぞ。息子よ。』

気がつくと、そこは戦場では無かった。

人の話声や車のエンジン音など雑多な音が大量に耳に入ってきた。

辺りを見回す。

どうやら、ここは路地裏らしい。

薄汚れた通路にゴミが放つ異臭に眉をひそめる。

早く、ここから出ようと思い立ち上がるが、路地裏から出るのは止めた。

自分の服が表に出るには、あまりにも物騒だったからだ。

路地裏からは表がよく見える。

戦争とは無縁そうな街並みが一部分だけ見える。

さて、どうしたものか。

状況をあまり把握できず、呆然としていると、雑多な音に混じって銃声が聞こえた。

「なんだ?」

レイブンは、とりあえず、銃声が鳴っている方へ向かった。

銃声が段々と近くなってくる。

路地裏の十字路に差し掛かったところで流れ弾がやってきた。

どうやら、近くで銃撃戦があるらしい。

仕舞っていたファイブセブンを取り出し銃弾が飛んできた方を確認する。

特殊部隊のような人間が四人いた。

兵士としての練度は中の上ぐらいだろう。

それに立ち向かうように二人の民兵が特殊部隊と銃撃戦を繰り広げていた。レイブンは彼らの様子を窺った。


「ア、アダム!ヤバいよ!」

「佐藤!弱音を吐く暇があったら敵をよく狙え!!」

アダムは気が立っていた。

こちらの情報が洩れていたのだ。

その結果として移動経路を政府の特殊部隊に察知されてしまった。

「くそ、誰がたれ込んだんだ!」

アダムはAK-47を撃ちながら恨み言を言った。

「そんなこと言ったって、生きていなきゃ考えられないよ!」

佐藤はそれを宥めながらM4customを打ちまくる。

「ちっ、銃が好きなだけのアホをここで殴れたらどんなに良いか…」

「えっ!!い、嫌だよ、殴られるのは!!」

アダムの呟きに佐藤はびっくりした。

「ったく、一人仕留めた。相手は警戒してる。あっちの十字路まで突っ走るぞ!」

アダムは佐藤の背中を叩き十字路まで全力で突っ走った。

「ちょっ、ま、待ってよ!」

後ろから佐藤が追いかけてくるのだった。


民兵二人がこちらまで走ってくる。

迎撃するか、助けるか。

レイブンは少し考えた。

そして、相手の行動次第で決めることにした。

アダムと佐藤が十字路に差し掛かると奇妙な男に出くわした。

「っ!!」

アダムはとっさに相手を投げようとするが、男はそれをさっと防ぎ、逆に投げ変えそうとしてきた。

アダムはその前に相手の顎に自分の肘をぶつけ、投げられる前に相手の手を解いた。

「お前、何者だ?」

アダムは男にそう尋ねた。

「……別に名乗る名前なんて無いさ。」

男は油断ならない目でこちらを見ている。

二人がにらみ合っているとき、佐藤は恐る恐る彼らに忠告した。

「あ、あのさ。敵、来てるんだけど…」

そして、敵が十字路の中心にやってきた。

直後、銃声が鳴り響いた。

倒れたのは特殊部隊然とした三人だ。

「いい腕をしているな。」

アダムは男をそう評価した。

「昔、親父にたたき込まれたからな。」

男は連れなくそう答えた。

「なぁ、お前。政府軍の兵士か?」

アダムは予断無く疑いを男にかけた。

「ただの傭兵さ。時と場所によって、立場が変わる。」

そう言った男に嘘は無いかをアダムは探った。

目を見ても特に嘘を言っている様子はない。

アダムは目を細め確認した。

「本当に政府側じゃないんだな?」

「あぁ、あんたが何を言ってるのかは知らないが、今の俺は完全にアウェイだよ。」

男はやれやれというように溜め息を吐く。

そんな様子を見たアダムは妙にその男に対して親しみを感じた。

例えるなら、家族に感じる親愛の感情だ。

「なぁ、お前。行く宛てが無いなら、俺たちと来ないか?」

「えぇ!」

その問いに驚きを持って答えたのは男ではなく佐藤だったが、それはアダムの裏拳によって黙殺された。「どうだ?」

アダムは答えを求める。

「…まぁ、行く宛てが無いのは確かだな。今、自分がいるところがどこなのかもわかっちゃいない。」

「記憶喪失か?」

男はアダムの問いに苦笑した。

「なら、楽だったんだがな。」

それから、男はアダムの目をしっかり見つめて言った。

「少しの間、迷惑をかけて良いか?」

アダムはにやりと不敵な顔を作って答える。

「あぁ、いいさ。だが、世話になるからには仕事をしてもらう。もちろん、傭兵としてのだ。後、名前がないのは困る。傭兵ならコードネームくらいあるだろ?それを教えてくれ。この二つが条件だ。」

男は少し考えてからこう返した。

「仕事の内容は?または、あんたらが何者かを教えてくれ。仕事をする側からして、これだけは譲れない。」

その返しに、アダムは、やはり、男はプロの兵士だと確信した。

「はっ、気に入った。良いだろう。ちょっと、耳を貸せ。」

アダムは男の耳元で告げた。

「俺たちはレジスタンスだ。組織の名は『自由の翼』。」

それを聞いて男は目を丸くしていた。

「で、どうする?やるか?やらないか?」

アダムはAK-47を構えて男の答えを待った。

すると、男は手を差し出してきた。

男の顔には強い決意と確信に満ちた何かがあった。

「さて、交渉成立だ」

アダムは男の手を取って、交渉成立を宣言した。

「ようこそ、『自由の翼』へ。自由を求める鴉は一羽じゃない。アジトに案内しよう。おい、佐藤!起きろ!」

裏拳を喰らって気絶していた佐藤を起こし、命令する。

「新しい仲間だ。アジトまで連れて行くぞ。」

こうして、この日、アダムは男、レイブン、と出会った。

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