1章「天使」
「Angel Magic」
1章「天使」
野原でたたずむ制服姿の少年。水谷 信司はただ、空を見つめていた。
何か面白いことはおきないものかと空に手を伸ばしてみたりもする。
「あぁーあぁ…退屈だなぁ…学校も終わったし、家に帰ってもすることないし…」
ため息をつく信司は野原の上に寝転がった。
太陽から降り注ぐ光がやわらかく信司を包み込む。草原を吹き抜ける爽やかな風は、ほどよく冷たくて気持ちがいい。
「いっそのこと、空から何か落ちてはこないかなぁー」
信司がそうつぶやいた瞬間。信司の視界にとんでもないものが映った。
「空から…人?」
そう。空から人が落ちてくる。いや、人なのだろうか。翼が生えているようにも見えなくはない。
しばらくして、信司はそれが人間だとはっきり断定した。だが…
「つ…翼…?」
翼を背中から生やした人間が空から落ちてくる。いや、降りてくる。いや、舞い降りる?
…いや、どれにも当てはまらない。
「なんだろう…あれ」
信司は立ち上がった。立ち上がり、空を見上げ、序々にこちらに迫ってくる翼の生えた人を呆けた顔で眺めている。
そりゃ、空から人が降ってきているのだから、驚くのは当然だ。しかもただの人ではなく翼の生えた人なのだから驚くどころの話では済まされない。
「あ…って、うわぁっ!」
そして、その鳥人間は地面へと―――着地した。
「あ、あのー…すいませーん」
「ふー。取り合えずはここで身を隠すしかないか。」
『身を隠す?いやいや、ここ野原だし。隠れるとこないし』
「すいませーん。あのー、聞こえてますかー?」
「…」
「すいませーーんっ!」
『もういい。』
「あの!無視しないでくださいっ!」
信司はいい加減苛ついて来たのか鳥人間の肩をたたく。
「ひゃぁっ !…っもう、もう敵っ!?」
鳥人間は信司の方を振り向いた。
『き…綺麗だ…』
信司は心の中でそうつぶやいてしまった。
黒髪長髪。清楚な顔つきの女の子。真っ白な腕や足。風でひらひらとゆらめくスカート。どれをとっても、綺麗で思わず見とれてしまうほどだ。
「あ、あのすいません。さっきから呼びかけているんですけど、反応がないものでつい」
「ん。あ、あぁさっきの声と手はあなただったのね。ごめんなさい。見えると思ってなかったもんだから」
「あんまりよくわかんないんですけど、その…何で空から?ていうか、なんで翼が?」
信司は思ったことを率直な質問にしてしまった。
「んー、―――いいわ、教えてあげる―――」
少女がその言葉を発したと同時に前方から炎が迫る。そして、その炎の奥から人影。同じく翼をはやした人間が見える。
「よけてっ!」
「えっ、ちょっちょっ! 何この状況!」
「いいからよけてっ」
信司は言われるがままに炎を右後に跳躍してよけた。炎が過ぎ去った途端。人影がはっきりとした輪郭を帯びた。
翼の色は赤色。ちなみに少女の翼は天使のような真っ白な翼だ。
「防御の旋律」
少女はそう唱えるようにつぶやくと、オカリナを構え、演奏をしはじめた。
その音色はとても美しくやわらかい太陽の光のようだった。そして、その音にみるみるうちに包まれて信司達の周りにはいつの間にか光の壁ができていた。
「ふー。やっぱり私一人で立ち向かうには無理があるか。」
「あの、なんなんです?また翼の人が…」
「そうだったね。説明するわ。」
「お、お願いします…」
少女は自らのこととそしてこの翼のこと等を話し始めた。
「まず、私の名前は中野 彩音。で、この翼を持っている人は天使よ。天使っていうのは、一度人間として死んでいるの。で死んだ人の中でも選ばれた人が天使になって、もう一度人間界に降りることができるの。普段は人間と同じよ。でもね、戦闘中になると人間には姿が見えないはずなの。」
「でも、僕には見えている…」
「そう、なんでか分かんないけどね。でね、その天使には能力っていうのがあって、私の能力はオカリナを使って演奏するの。それで、魔法のようなことが起こるの。発生器には魔法陣が描かれているわ。ただ、私のは攻撃には向いていないから、やつを倒すのは無理。」
「だから、逃げている。ってわけか」
「そうよ。あなた飲み込みが早いわね」
「あの、なんであいつはあなたみたいな華奢な女の子を襲うんですか?」
「天使っていうのは、そういうものよ」
信司に怒りに似た感情がこみあげてきた。拳の先まで感情が伝わる。そして、ぶるぶると震えてくる。それを見た天使・彩音は首をかしげる。
「あの、僕でも勝てますか?」
「無理ね。人間じゃぁ、天使はとても相手にできないわ。」
「どうすれば…勝てますか?」
「そうね…あなたが天使になる。くらいしかないかもね」
「どうすれば天使になれますか?」
問いかける信司の表情には決意の色が浮かんでいた。それを見た彩音は一層顔をこわばらせる。
「そうね。あなたが一回死ねば…」
「え、え!? 死ぬんですか?」
「あ、いやごめんなさい。死ぬというか…あなたの脳に私の能力を直接ぶちこむわ。そうすれば、一回人間としての死を迎えることができる。そして、すぐに天使になることができるの。ただ…」
「ただ?」
信司は唾を呑み込んだ。そして、彩音の言葉にしっかり耳を傾ける。
「失敗すれば…そのまま死んでしまう。」
『え?…必ず成功する。というものではないんですか? そりゃぁ、ゲームでも転生術は成功率が低かったりその他いろいろありますけども!』
信司は一瞬凍りついた。だが、瞬時に元の表情に戻り、深呼吸をひとつ。
「わかりました。やりますっ! 僕を天使にしてくださいっ!」
「あなた、本気? 死ぬかもしれないのよ? それに、あなたの現実をひん曲げることになるわ。」
「いいんです。ここで放ってはおけないし、それに僕は…こういう非現実的なことを望んでいたんだ。」
彩音は一瞬考えた。もし失敗すればこのひとは死ぬ。だけれど、ここでこの人が天使にならなければ彩音も信司も死ぬ。
「わかったわ。やりましょう」
「お願いします。」
「天の旋律」
そう唱えるようにつぶやくと彩音はまたオカリナを演奏しだした。その音色は信司の脳内に響きわたり、そして…信司の世界が…変わった。
「ここは…?」
目を開けると信司の周りは一面真っ白な光に覆われていた。ここが天界というやつなのだろうか。
そして、ここから天使に生まれ変わるのだろうか。そんな思考を巡らしていた時。
聞き覚えのある声が響いた。
「信司かぃ?」
「おばあちゃんっ!」
「久しぶりだね。さぁ、こっちへおいで…」
信司がその声の元へと行きかけたその時。また声が響いた。
「行っちゃぁだめよ!」
「え?」
「それは、死後の世界へと誘い込む罠よ! そっちに行ったら、戻ってこれなくなるわっ!」
「じゃぁ、どうすればいいの?」
「このまましばらく待ちなさい。いい? 知り合いの声がしても聞いちゃだめよ?」
「わかりました。」
信司は、耳をふさいで目を閉じてこのままじっと待つことにした。そして、数秒経過したかという時に信司を一筋の光が包んだ―――
かと思うと…
「あれ?ここは…さっきの野原?」
意識は現実へと戻っていた。
「よし。成功ね、試しに能力を使ってみましょう。」
彩音がそう優しく言うと、信司は立ち上がり
「どうすればいいの?」
と質問をした。
「簡単よ。まず、空中に魔法陣を書くの。魔法陣の形はよく漫画で見るような形よ。六方星を丸で囲むのよ。」
信司はうなずくと、言われた通り空中に六方星を丸で囲んだ魔法陣を描いた。
すると、それが光りだして中から手袋と靴が現れる。それらには魔法陣が描かれている。
「次にそれを受け取って、解放と叫べば翼が生えて能力が使えるようになるわ。そして、飛べるようにもなる。」
信司はまたもうなずくと、言われた通り解放と叫んでみる。だが…
一向に翼の生える気配がない。
「あれ…?翼が生えないけど…?」
「おかしいわね…んー、手袋と靴はいつの間にか身についているから、合ってると思うんだけど…」
彩音が首をかしげる。そして、信司は背中をがんばって見ている。やはり翼はない。
「…いいわ、ためしに能力を使ってみなさい。なんなのかわからないから、とりあえず手袋に力を込めてみて。」
信司はうなずくと手袋の魔法陣が描いてある掌に力を込める。目を閉じて集中し、力を込めているとだんだん手に空気が集まってくる感覚がしてくる。
「なんか、掌に空気が集まってる感じです。」
「そう、たぶん。あなたの能力は空気変化ね。」
彩音は淡々と告げる。信司は首をかしげ尋ねる
「それ、どんな能力ですか?第一、翼が生えていないと能力使えないんじゃ…」
「たぶん、あなたは例外ね。天使と人間の中間。ってとこかな、たまにあるのよ。
それで、空気変化っていうのは空気をいろんな物質に変えることができるの。じゃぁそのまま何か武器を想像してみて?」
「わかりました。やってみます」
信司は、集めた空気を圧縮して刀を想像した。
するとその空気はみるみるうちに刀の形になり、信司の掌の上には刀が握られていた。
「す…すごい…本当に、刀になった…!」
「その調子だよ。」
「これで、戦えるな。彩音さん。よろしく」
「こちらこそ、よろしくね信司君」
そう言い、お互い握手を交わすと、ほったらかし状態の敵に向かって勢いよく走りだした。すると、すぐに信司は違和感を覚えた。なぜなら、信司は空気を蹴って跳んでいるからだ。
そして、尋常じゃないほどの速さで進んでいる。
「なんだ…これ…跳んでる…」
「あぁ、さっきの靴のおかげね。翼がない分跳べるようになってるのね」
「そうなんだ…」
信司は、敵との距離をどんどん詰めていく。そして残り一メートルに達しようという時、彩音は立ち止りオカリナを構えた。
そして敵は煙草を取り出す。
「っち…天使が増えたか。それにしても、イレギュラーだな…こいつは」
「そりゃどうも、僕はイレギュラーなのが大好きなんでね。ほめことばですよ」
「俺もそういうの嫌いじゃないけどね…邪魔をするやつは…むかつくんだよ!」
敵が煙草に力を込めると、煙草から炎が生まれる。そして、敵の手に炎があつまる。
「それがあんたの能力?」
「そうさ、煙草から炎を生み出し操る。素敵だろう?」
「そうですね。素敵です」
信司はそういうと、持っている刀を横に振るう。昔から剣道をやってきたが、実際に刀を手にするのは始めてだ。そして、敵はその斬撃を跳躍してかわす。
そして、炎を打ち出してまた煙草を構える。
その炎を空気でバリアを作って防ぎ、敵の元へと詰め寄る。そして彩音はオカリナを構えて唱えるようにつぶやく
「低下の旋律」
演奏を始めると、敵の動きが遅くなった。どうやら速度が低下する旋律らしい。
「彩音さんっ!ありがとうっ!」
そう言うと信司は、空気で8本の針を創造し、それらの針は敵めがけて飛んでいく。そして信司は上に跳んで刀の切っ先を下に向ける。
「うまいじゃないか…本当になりたてかい?」
「まぎれもないなりたてほやほやの天使だよ」
信司の刀は敵の手を貫いた。敵はうめくこともなく、平然と立っている。
「…っ! やばいな…さすがの俺でも天使二人相手はきついか。しかも相手が空気変化能力とは…よし。一時退散と行こう。じゃぁねまた会おう。イレギュラーな天使君」
敵は、手を振るとどこかへ飛んで行った。
信司はその場に膝をついた。同時に彩音が信司に駆け寄る。
「信司君、がんばったね。ありがとう」
「いやいや、襲われてる女の子を守るのは男としては当然というか…それに彩音さん、きれいですし」
「ありがとう。あのね、さん付けやめてもらえないかな?あと、敬語もね」
「う、うん。」
「立てる?」
彩音は信司に手を差し伸べた。信司もそれを取った。そして、彩音はどこかへ立ち去ろうとする。
「ねぇ、どこ行くの?」
「どこだろう…んー。家もないし、どこに行くかわかんない。」
「そっかぁ…ねぇ、だったらさうち来ない?」
「え?」
彩音は驚いた様子で信司に振り返る。
そして信司は言葉を続ける。
「行くとこないんでしょ? それに、また一人でいたら襲われた時どうすんのさ、それにもっと詳しく天使のことしりたいしね」
「そっか…そうだよね。ありがとうっ」
彩音は笑顔で信司に礼を言う。
最初は無表情だったのに、今はすっかり笑顔だ。信司はあまりの可愛さに見とれてしまった。
「どしたの?案内してよー」
「あ、うんっ じゃぁ行こうか。」
信司と彩音はゆっくりと一緒に家へと向かった。
はい!
はじまりましたっ
ニューシリーズ!
Angel Magic
直訳すると天使の魔法
え、イタリア語じゃないのかって?
いいじゃないですかぁー
たまには英語も
いやぁー、まだまだ謎が多いですね
そりゃぁ、最初だからですけども
天使の現状が次回明らかになります
そして今回はなんと!
珍しく喋る剣やら銃やら時計やら
喋る物体が登場しません><
そういうのが好きな方はごめんなさい
今後ともウーノ!とこの
Angel Magicをよろしくおねがいします