無尽蔵の鋼と、死線のインファイト
「ガァァァァッ!!」
機械的な雄叫びを上げ、数十体の鋼鉄兵士が一斉に俺たちに襲いかかってくる。
「シッ!」
俺は短く息を吐き、【1の目】を発動させた。
自身の質量を『ゼロ(羽より軽く)』に設定し、鋼の剣が振り下ろされるコンマ一秒前に、スッと最小限の動きで身体をずらして回避する。
翠蓮の直弟子・シャオとの地獄のようなインファイト特訓の成果だ。
今までの俺なら、攻撃を避けるために大きく飛び退くか、無駄な大振りで反撃してスタミナを浪費していただろう。だが今は違う。
回避した瞬間、俺は自身の質量を『特大』へと反転させ、アレスの神威を乗せた右拳を、兵士の鋼の胸装甲に叩き込む。
「万軍の戦車ッ!」
ドガァァァァンッ!!
黄金の炎と無限大の質量を乗せた一撃が、鋼鉄兵士の胴体を消し飛ばし、その後ろにいた後続の数十体をボウリングのピンのように粉砕する。
「……よし。動きの『読み』はシャオより遅え。これなら捌ける」
俺は呼吸を整え、次々と群がってくる鋼の兵士たちを、無駄のない体重移動と質量のオンオフで的確に破壊していった。
だが、相手は【3】の権能によって生み出される無尽蔵の軍隊だ。
砕いても砕いても、背後の鋼の壁から新たな兵士がドロドロと生み出され、波のように押し寄せてくる。
「チィッ! 鬱陶しいなこいつら! 燃やしてもすぐに再生しやがる!」
紅刃が爆炎で周囲を一掃するが、息をつく暇もなく次の部隊が襲いかかる。
「統! このままでは、城の最上階に辿り着く前に私たちの魔力が底を突きます!」
雅が妖刀『黒曜』で兵士の関節を正確に斬り落としながら、焦燥の声を上げた。
「分かってる。……まともに付き合う気はねえよ」
俺は、頭の中で最悪の盤面における『勝ち筋』の計算を終えていた。
ジョーカー(レヴィ)が不在で、手札が足りない。ならば、俺自身が最大の『デコイ(囮)』になるしかない。
「紅刃、雅! 俺がこいつらのヘイト(標的)を全部引き受ける! その隙に、お前たちは上の階へ繋がる大階段のゲートを破壊しろ!」
「なッ、お前一人でこの数を抱え込む気か!? 死ぬぞ!」
「死なねえよ。俺のイカサマのブラフを舐めるな」
俺は、【1の目】の出力を限界まで引き上げ、周囲の鋼鉄兵士たちに向かって両手を広げた。
「来いよ鉄クズども。極東の王の『特大質量の的』はここだぜ!!」
俺の挑発と膨れ上がった魔力に反応し、数千体の鋼鉄兵士の赤い単眼が、一斉に俺一人へとロックオンされた。
「クソッ、無茶しやがって! 行くぞ雅!」
「統、絶対に死なせないでくださいね……ッ!」
俺が殺到する鋼の波に飲み込まれると同時に。
紅刃の最大火力の爆炎と、雅の神速の抜刀術が、上層階へ続く強固な鋼の防壁を完全に粉砕した。
(……ハァ、ハァ……ッ!)
群がる鋼の兵士たちの刃を紙一重で躱し、俺は強引に質量を特大に反転させて道をこじ開け続けた。
全身は切り傷だらけになり、ウロボロスの超再生を回し続ける代償として、凄まじい疲労感が脳を焼き切るように襲ってくる。
それでも、俺は足を止めなかった。
愛する第一騎士が、あの温かい食卓のピースが、この冷たい城の頂上で待っているのだから。
「どけェェェッ!!」
俺は渾身の質量パンチで、最後の防衛ラインを構成していた巨大な鋼の巨兵を粉砕し、紅刃たちがこじ開けた上層への大階段を駆け上がった。
……そして。
最上階。分厚い鋼の両開き扉を蹴り飛ばし、俺たちはついに『玉座の間』へと足を踏み入れた。
「……統ッ!!」
壁に鎖で拘束されていたセリアが、ボロボロになった俺の姿を見て、悲痛な叫びを上げる。
「……遅えよ、セリア。飯の時間、とっくに過ぎてるぞ」
俺が血を吐きながらも強がりな笑みを向けると、セリアの翡翠の瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちた。
「……よくぞ辿り着いた。極東の最弱王」
カツン、カツン。
玉座から、一切の温もりを感じさせない無機質な足音が響き、鋼王カルマがゆっくりと立ち上がった。
「貴様のその無様で泥臭い命の散り様、特等席で見せてもらった。……さあ、絶望の時間だ。貴様を我が極上の刃の錆にして、この白銀に絶対の従属を誓わせてやろう」
カルマの背後に、【鍛冶神ヘファイストス】の規格外の神威が顕現し、玉座の間のすべての『金属』が、俺たちを殺すための無数の凶刃へと形を変えて空中に浮かび上がった。
ついに、イカサマ師と鋼の王の、互いのすべてを懸けた直接対決が始まった。




