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神殺しのダイス・マキア ~最弱ギャンブラー、命をチップに傲慢な理を物理で粉砕する~  作者: kiro


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死の王の復讐と、絶対零度の防衛戦



中東の灼熱の砂漠。


その地下深くに存在する広大な古代遺跡は、三百年の時を生きる『氷王・レヴィ』の放つ魔力によって、常に透き通るような美しい氷河に覆われている。


どんな灼熱の太陽も寄せ付けない、彼だけの絶対的で孤独な城。


だがその日。遺跡を覆う氷の表面が、ジュゥゥゥ……と不気味な音を立てて『黒く腐敗』し始めていた。


「……何の真似だ。僕の氷を汚す、薄汚いネズミめ」


遺跡の最深部、氷の玉座で微睡んでいたレヴィは、銀色の魔眼を細めて静かに立ち上がった。

大気が軋み、氷の城に禍々しいほどの『死の気配』が流れ込んでくる。


『——随分と無防備に寝ていたな、氷の王。極東では随分と煮え湯を飲まされたが、ようやく貴様の氷を砕く準備が整ったぞ』


歪んだ空間から、真っ黒なローブを纏い、青白い肌をした男が姿を現した。


死王しおう・ゼイン】。


かつて極東の王である統のイカサマに敗北し、レヴィの圧倒的な冷気に恐れをなして撤退した男が、かつてとは比べ物にならないほど濃密な呪いを纏い、直接本拠地に乗り込んできたのだ。


「……下等な死霊使いが。わざわざ僕の氷の彫像になりに来たか」


レヴィが指を鳴らすと、遺跡内の温度が一瞬で絶対零度まで低下し、ゼインの足元から空間ごと串刺しにしようと無数の『氷の牙』が襲いかかる。


「ふふ……! 今更そんなものが通用すると思うな、レヴィ!」


ゼインが枯れ木のような杖を突き立てると、彼の周囲に『死の概念』が黒い泥のように渦巻き、絶対零度の氷すらも触れた端から「死滅(腐敗)」させて防ぎ切った。


「我はギリシャの【死神タナトス】を殺した王。極東での敗北以降、世界中の戦場と墓場を巡り、数万の死者の怨念を食らって力を底上げしてきたのだ! 貴様のその傲慢な顔を、絶望に歪ませてやる!」


ゼインのローブから無数の怨霊のドクロが飛び出し、悲鳴を上げながらレヴィに殺到する。


「チッ……! 鬱陶しいハエどもが!」


レヴィは『氷星の涙』を展開し、物理法則の停止による絶対防御で怨霊を粉砕していく。


「死滅させる力」と「活動を完全停止させる力」の衝突。


中東の砂漠を巻き込み、砂が黒く腐っては凍りつくという地獄のような光景が広がる中、レヴィは冷静に盤面を分析し、一つの『強烈な違和感』を覚えていた。


(……おかしい。ゼインの力は確かに上がっているが、それだけで僕の本拠地に乗り込んでくるか?)


神の領域に至った王は、皆一様に『傲慢』だ。自らの死を極端に恐れ、勝算のない戦いは決して仕掛けない。ゼインほどの臆病者が、単身で格上の自分に挑んでくること自体が異常だった。

(まるで、絶対に僕を殺せる『裏の盤面バックアップ』が用意されているような……)


レヴィの銀の魔眼が極限まで輝き、ゼインの時間を完全に停止させる『氷河の牢獄』を発動しようとした、その瞬間。


グラァッ……!!


突如として、レヴィの視界が『グニャリ』と歪んだ。


「な……に……!?」


目の前にいたはずのゼインの姿が、蜃気楼のようにブレて三人に分裂し、足元の氷が泥沼のように沈み込む。周囲の古代遺跡が「上下逆さま」の、重力を無視した異常な空間へと変貌したのだ。


『——お見事な氷ですね。ですが、夢の中ではどんな強固な氷も溶けるものです』


虚空から、楽しげで甘ったるい声が響いた。

レヴィの脳髄に、直接響くような精神干渉の魔力。


「……貴様はッ!」


『【幻王げんおう・ファントム】。ギリシャの夢の神【モルフェウス】を殺し、認識と現実をすり替える権能を持つ者です。お見知りおきを』


ゼインは一人で復讐に来たのではなかった。


確実にレヴィを殺すため、幻王と同盟を結び、二対一の罠を張っていたのだ。


だが、その事実を理解した瞬間、レヴィの頭の中でバラバラだったピースが一つに繋がった。

(……あり得ない。死王と、北米に引きこもっているはずの幻王が、自らの意思で手を組むはずがない!)


王は孤独で強欲だ。他者と並び立つことなど、その肥大化した自尊心が許さない。


だとするなら、この二人の王を思惑通りに従わせ、無理やり同盟を結ばせることができる存在は、この世界に『一人』しかいない。


(最古の王。……【覇王・アーサー】ッ!!)

500年を生きるバケモノ。


極東のイレギュラーであるすばるの台頭と、処刑神の目覚めを察知した覇王が、ついに盤面の整理に乗り出したのだ。自分にとって最大の目障りである、レヴィを確実に盤面から排除するために。


「アーサーの犬に成り下がったか、三流どもがッ!」


レヴィが自身の感覚のズレを力技で修正し、氷の防壁を再構築しようとした、まさにそのコンマ一秒の隙。幻王の夢界によって「距離感」を完全に誤認させられたレヴィの死角から。


「死ねェェェッ、氷の王ォォォッ!!」


死の概念を極限まで圧縮した、ゼインのタナトスの凶刃が。


レヴィの無防備な左胸(心臓)を、背中まで深く貫き通した。


「ガ、ハァッ……!!」


レヴィの口から、大量の鮮血が吐き出された。


ゼインの刃から、不老不死の肉体を内側から腐らせる『死の呪い』が、心臓の鼓動に乗って全身へと回っていく。


「やった……! アハハハハッ! 見ろファントム、第二位の心臓を穿ったぞ!!」


ゼインが狂喜の声を上げた、その時。


「……誰の許可を得て、僕の心臓に触れている」

「……ヒッ!?」


胸に刃を突き立てられたまま。レヴィは猛禽類のように銀色の瞳を見開き、刃を握るゼインの首元を、素手でギリィッと鷲掴みにした。


「二対一で、しかも覇王の庇護下に入って……それで僕の首を取れると思ったか、ゴミ屑どもがッ!!」


「バ、バカな!? なぜ死の呪いを受けて動ける!」


ゼインが恐怖に顔を引きつらせる。


「極東のイカサマ師はな……」


レヴィの脳裏に、ボロボロになりながらも不敵に笑う、すばるの顔が浮かんだ。


「僕の氷を、神殺しの盤面をひっくり返すための『最強のジョーカー』だと呼んだ。……友にそう呼ばれた僕が、アーサーの小間使い如きに、こんな安い所で命を落とすわけがないだろうがッ!!」


レヴィは、自身の命をチップにし、体内の魔力を限界突破させて暴走させた。


「【絶対零度・コキュートス】ッ!!!!」


ドガァァァァァァァァンッ!!!!


レヴィの肉体を中心にして、半径数キロの砂漠が一瞬にして『絶対零度の爆発』に飲み込まれた。


空間そのものが白く凍りつき、ゼインの死の結界も、幻王ファントムの夢の空間も、悲鳴を上げる間もなく物理的に粉砕・凍結されていく。

「グアァァァァッ! バ、バカな、自爆する気かコイツ……ッ!」


「チッ、これ以上の深追いは危険ですね。ゼイン、撤退しますよ!」


右腕と半身を完全に凍らされたゼインと幻王ファントムは、恐慌状態に陥りながらポータルの中へ逃げ込んだ。


……敵が消え去った後。


完全に凍りついた遺跡の中で、レヴィは胸から黒い血を流し、力なく膝をついた。


ゼインの死の呪いが心臓の核まで侵食している。これを抑え込むためには、彼自身が『自身の肉体を氷の仮死状態』にして、長期間の深い眠りに入るしかなかった。


(……すばる。どうやら僕は、しばらくお前の盤面テーブルに座れそうにない)


レヴィは、遠く離れた極東の空を思い浮かべながら、薄く自嘲気味に笑った。


(……アーサーが動き出した。六王の勢力図が、完全に崩れるぞ。あの狂った胴元の掌の上で踊らされるなよ、すばる……)


レヴィの銀色の瞳がゆっくりと閉じられ、彼の体は分厚い無明の氷の結晶に包まれていった。

極東のイカサマ師が、セリア奪還のために東欧へ殴り込もうとしているまさにその裏で。


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