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神殺しのダイス・マキア ~最弱ギャンブラー、命をチップに傲慢な理を物理で粉砕する~  作者: kiro


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鋼王の略奪と、空席の食卓



「罠か……ッ! 全員、そこから離れろ!!」

俺が絶叫した瞬間。


廃倉庫を構成していた無数の鉄骨、トタン屋根、そして周囲に散らばる巨大なコンテナ。その『すべての金属』が、まるで意思を持った巨大な生物のようにドロドロと液状化し、空中に浮き上がった。


『我はあらゆる武器と鋼を統べる王、カルマ。……わざわざ我が仕掛けた「鳥籠」のど真ん中に、コレクションを連れてきてくれるとはな』


俺の網膜に、イヴからの緊急解析データが凄まじい速度で流れる。


『すばるくん、気をつけて! 鋼王カルマが殺した神は、ギリシャ神話の【鍛冶と炎の神・ヘファイストス】です! 彼はあらゆる金属を絶対支配し、武器を意のままに操る権能を持っています!』


「鍛冶神……ッ!」


『ですが、その権能には重すぎる【代償】が存在します! カルマの肉体は、権能を使うたびに徐々に「冷たい鋼」へと変貌しており、彼はすでに触覚や温もりといった「人間としての肉体的感覚」を永遠に喪失しています!』


人間としての感覚を持たない、冷たい鋼の心臓。


だからこそ彼は、自分が永遠に感じることのできない「温もり」や「美しさ」を埋め合わせるように、生きた美しい騎士や武器を『コレクション』として異常なまでに収集しているのだ。


カチャリ。


「……え?」


セリアの腰に提げられていた彼女の愛刀——『白銀の刀』が、突如として不気味な音を立てて震え始めた。


「統、私の刀が……っ!」


ガキンッ!!!


「きゃあぁぁぁぁっ!?」


セリアが刀を捨てようとしたより早く。


彼女の愛刀がひとりでに鞘から抜け出し、空中で鋭くひしげると、セリアの細い両手首と足首を『鋼鉄のかせ』となってきつく拘束した。


「セリア!!」


俺が駆け寄ろうとした瞬間、空中に浮き上がっていた廃倉庫の全金属が、俺とセリアを分断するように、分厚く強固な『絶対の檻』を形成して地面に突き刺さった。


ドガァァァァンッ!!


俺が『特大質量』のパンチで金属の檻を粉砕する。だが、砕け散ったはずの鋼の破片は、空中で一瞬にして液状化し、再び強固な防壁となって俺の前に立ち塞がった。


『無駄だ。「金属」という概念そのものが、我が手足なのだからな。……さあ、美しき白銀よ。我が冷たい城を彩る極上のコレクションとなれ』


空間に黒いポータルが開き、そこから無数の鋼の鎖が這い出してきた。


鎖は、手足を拘束されたセリアの胴体に巻きつき、容赦なく彼女をポータルの奥——カルマのいる東欧の地へと引きずり込もうとする。


自らカチコミに来たはずが、完全に敵の土俵ホームの罠にハメられていた。


俺は【1の目】で質量をゼロにして防壁の隙間をすり抜け、ポータルに半身を飲まれかけているセリアの右手を、力一杯掴み取った。


「絶対に離さねえ……ッ!」


「ダメです統! その鎖に触れたら……ッ!」


俺がセリアの手を掴んだ瞬間。彼女を拘束している鋼の鎖から、鋭い『無数のトゲ』が飛び出し、俺の右腕に深く突き刺さった。


「ガ、ァァァァッ……!?」


肉を抉り、骨を削る激痛。


鎖のトゲは俺の肉の中で増殖し、内部から右腕を破壊しにかかる。


「やらせるかよ……ッ!! 万軍の、戦車ァァァッ!!」


俺は痛みに絶叫しながら、至近距離でアレスの黄金の炎を爆発させ、鎖を溶かそうと試みた。だが、鍛冶神の魔力に守護された鎖は、黄金の炎の中で真っ赤に焼け焦げながらも、決して溶け落ちることはなかった。


「……ハァ、ハァ……ッ」


俺の右腕は、血と炎で原型を留めないほどにズタズタになっていた。それでも、俺は絶対にセリアの手を離さなかった。


「統……! もう、やめて……ッ!」


セリアの翡翠の瞳から、大粒の涙が溢れ出した。


(これ以上、私のせいで統を傷つけるわけにはいかない……!)


セリアは、拘束された状態のまま、自らの体内に眠る『北欧の雷光』の魔力を極限まで圧縮した。


「——雷帝・強制解放ッ!!」


バチィィィィィィンッ!!!!


セリアの全身から放たれた限界突破の雷撃が、俺と彼女を繋いでいた右腕に直撃した。


「ガハッ……!?」


想定外の至近距離からの電撃に、俺の全身の神経が麻痺し、無意識のうちに右手の握力がフッと抜けてしまった。


空中で、セリアの指先が俺の手からスルリと離れていく。


「セ、リア……! お前、なに勝手なこと……!」


闇のポータルへと完全に吸い込まれていく中、セリアは涙を浮かべながら、それでも第一騎士として、最も美しく気高い笑顔を見せた。


「……私の居場所は、あなたの隣だけです。必ず、生きて帰りますから……! 統も、どうかご無事で……っ!!」


『大人しくしろ、白銀』


カルマの無機質な声と共に、空間の穴がシュンッと音を立てて完全に塞がった。


「……あ」


後には、ひしげた金属の残骸と。


指先から温もりが消え、血まみれになった俺の右腕だけが残された。


「統ッ!!」


金属の檻を破り、紅刃と雅が駆け寄ってくる。

だが、俺は誰も振り返らなかった。ただ、セリアが消えた何もない空間を、静かに見つめ続けていた。


奪われた。


自ら仕掛けた勝負で、敵のブラフ(罠)にまんまとハメられ、最悪の形で出し抜かれたのだ。手札のせいになんてしない。完全に俺の「読み負け」だ。


俺は、血まみれの右手で顔を覆い、深く、長く息を吐き出した。


「……許さねえ」


俺がゆっくりと振り向いた時。


その瞳には、かつて原初神を殴り飛ばした時よりも、さらに冷たく、黒く、底冷えするような『純粋な殺意』が宿っていた。


「……あのクソ泥棒カルマ。盤面のルールごと、俺が全身全霊ぶっ潰す。……東欧(敵陣の本拠地)にカチコミに行く準備をするぞ」


極東の最弱のイカサマ師は、愛する第一騎士を奪い返すため、自ら狂気のゲーム盤の最深部へとその身を投じる決意を固めたのだった。

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