千年の仮説と、不老不死の8人
翠蓮が隣の敷地に強引に建てた中華屋敷は、外観の派手さとは裏腹に、内部は広大でストイックな『武術の修行場(道場)』になっていた。
「すばる君。義姉弟の盃を交わしたからには、あなたのその貧弱な基礎体力を、私が一から鍛え直してあげます」
道場の中央で、紅のチャイナドレスを着た翠蓮が腕を組みながら俺を見下ろしていた。
「……なんで俺が、休みの日にこんな汗臭い特訓しなきゃならねえんだよ」
「あなたのイカサマは強力ですが、発動の隙や反動が大きすぎます。近接格闘(CQC)の基礎を体で覚えていれば、敵の攻撃を最小限の動きで躱し、イカサマのブラフをより巧妙に張ることができるはずです」
翠蓮が指を鳴らすと、道場の奥から黒い武道着を着たショートヘアの少女が音もなく姿を現した。
「紹介します。私の直弟子であり、右腕を務める暗殺者……『シャオ』です。今日から彼女が、あなたのスパーリングパートナーになります」
「シャオです。……女帝様の義弟とはいえ、手加減は一切しません」
シャオが機械のような冷たい声で一礼する。
「まあいい。……で? 俺をここに呼んだ理由は、ただの特訓じゃないだろ、女帝様」
俺が道場の床に胡座をかくと、翠蓮も真剣な顔つきで頷いた。
「ええ。先日私たちが戦った『処刑神』……あれについて、私の組織が調べ上げた情報から導き出した一つの『仮説』を共有しておきます」
翠蓮は、道場の壁に設置された巨大なモニターに、年表のようなものを映し出した。
「すばる君。神殺しの歴史において、1000年以上前の記録が『ただの一つも』残っていないことは知っていますか?……私はあの異常な処刑神の存在から、一つの答えに行き着きました。
それは、神殺しが神の領域に近づきすぎることを恐れた『上位の存在』が……1000年に一度、盤面をリセットするために王たちを間引いているのではないか、という恐るべき仮説です」
「1000年に一度の、大掃除ってことか」
俺は背筋が薄ら寒くなるのを感じた。
「もしこの仮説が真実なら、私たちはただのモルモットです」
翠蓮はモニターの画面を切り替え、世界地図と『8人』のシルエットを映し出した。
「すばる君、改めて、六王とは神の力の最高階位である【6の目】に至った王を指す称号です。……現在、この盤面で生き残っている六王は、あなたを含めて『8人』。序列は『生存年数(生きている長さ)』で決まっています」
「8人……。一番古いのは、当然300年生きているレヴィか?」
俺の問いに、翠蓮は首を横に振った。
「いいえ。序列【第一位】の男。現在、およそ500年を生きているとされる、最古にして最強のバケモノです」
「500年……!」
「拠点は欧州。名前は、【覇王・アーサー】。能力は『絶対的な支配と略奪』。彼でさえ500年ですから、誰も1000年の壁を越えられていないことになります。そして、序列【第二位】が中東の『氷王・レヴィ』。約300年です」
「なるほどな。……で、序列【第三位】は?」
「生存年数およそ250年。私……中国の『女帝・翠蓮』です」
「……ん? 待て待て」
俺は思わずツッコミを入れた。
「お前、不老不死ってことは……そのピチピチの二十歳そこそこの見た目で、中身は250歳ってことか!? っていうか、江戸時代から生きてる大ババアじゃねえか!!」
「バッ……!? レディの年齢をからかうなんてデリカシーがありませんよ坊や!!」
翠蓮が顔を真っ赤にして、俺の頭に持っていた扇子をスパーン! と全力で振り下ろした。
「痛ぇな! 事実だろ! ……で、他の連中は?」
俺が頭をさすりながら促すと、翠蓮はコホンと咳払いをして解説を続けた。
「序列【第四位】は、生存年数およそ120年。死を操る『冥王・ゼイン』。かつてあなたと激突し、その後消息を絶っている不気味な男です」
「ゼインか。あいつもまだ盤面に残ってやがったか」
「序列【第五位】はアフリカの『獣王・ガルド』、生存年数15年。序列【第六位】は北米の『幻王』、生存年数5年。序列【第七位】は東欧の『鋼王・カルマ』、生存年数3年。あらゆる金属と武器を支配する武闘派の王です。……そして最後が、序列【第八位】。極東に現れた最も新しい王……御堂すばる、あなたです」
覇王・アーサー(欧州 / 約500年)
氷王・レヴィ(中東 / 約300年)
女帝・翠蓮(中国 / 約250年)
冥王・ゼイン(不明 / 約120年)
獣王・ガルド(アフリカ / 15年)
幻王・不明(北米 / 5年)
鋼王・カルマ(東欧 / 3年)
極東王・統(日本 / 1年未満)
「これが、今私たちが座っているテーブルのすべてです」




