表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神殺しのダイス・マキア ~最弱ギャンブラー、命をチップに傲慢な理を物理で粉砕する~  作者: kiro


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/104

光速のイカサマと、原初神の死の歓喜



音も、光も、時間すらも置き去りにする世界。

質量【ゼロ】となった俺の肉体は、紅刃とセリアの放った極大のエネルギーを背後に受け、理論上の限界速度である『光速』へと到達していた。

「ガ、ァァァァァッ……!!」


全身の皮膚が蒸発し、筋肉が千切れ飛び、血液が沸騰する。


世界そのものが、異常な速度で移動する俺の存在を「バグ」として弾き出そうと、容赦なく原子レベルで分解にかかってくる。


だが、その崩壊のすべてを、右腕に宿る不死のウロボロスが超絶的な速度で強制的に修復し、強引に「俺」という形を繋ぎ止めていた。


視界は真っ白に染まり、激痛すらも神経の伝達速度を超えて麻痺していく。


そんな極限の加速の中、俺は雅が展開した漆黒の桜吹雪(暗闇)を切り裂き、上空の原初神ミリアへと肉薄していた。


ミリアの周囲には、向かってくる物理的質量をすべて海に沈めて圧壊させる『原初の絶対防壁』が何重にも張り巡らされている。


——だが、防壁は微塵も反応しなかった。


当然だ。今の俺の質量はゼロ。重さを持たない光の弾丸に、海の概念(水圧)は干渉できない。 


俺は、神話の理である絶対防壁を、まるで薄い紙をすり抜けるように、一切の抵抗なく突破した。


雅の放った『桜花暗転』の効果が切れ、世界に光が戻った、その瞬間。


「……なに?」


退屈そうに宙に浮いていたミリアの赤い瞳が、微かに見開かれた。


永遠の時を生きる原初神の超絶的な知覚能力をもってしても、俺の飛来を認識した時には、すでにすべてが『手遅れ』だった。


俺は、ミリアの華奢な胸元の、わずか数センチの距離(ゼロ距離)に到達していた。


「な——!?」


ミリアの整った顔に、神話の歴史上初めて、明確な『驚愕』の色が浮かぶ。


全身から血と白煙を噴き出す俺の瞳が、ミリアの赤い瞳と至近距離で交差した。


(かかったな、クソ胴元ディーラー)


俺は、光速の運動エネルギーを殺すことなく、残ったすべての意志を込めて、左手を強く握り込んだ。 


神の絶対防壁の内側。


防がれることのないゼロ距離で、俺は盤面のルール(質量)をひっくり返す。


「権能反転……ッ! 【1の目】・俺の質量、限界突破マックスッ!!!」

パァァァァァンッ!!!


世界が、甲高い悲鳴を上げた。


質量ゼロだった俺の肉体が、一瞬にして数十トンの『特大質量』へと反転する。


光速のスピードに、特大質量という異常な重さが掛け合わされた、物理法則を無視した破壊のエネルギー。


俺はそこに、アレスの【6の目】である『万軍の戦車(闘争の神威)』の黄金の火力を全開で上乗せし、右腕をミリアの腹部へと真っ直ぐに叩き込んだ。


「お前のテーブルごと、完全に破産バーストさせてやるよッ!!」


ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!


西東京市の空に、太陽がもう一つ生まれたかのような黄金の爆発が巻き起こった。


神を騙し、理をバグらせた『光速の質量反転イカサマパンチ』が、原初の海を統べる女神の無防備な腹部へと、一切の減衰なく直撃する。 


「ガ、ハァァァァッ……!!?」


ミリアの小さな体が、くの字にへし折れた。


彼女の口から、おびただしい量の『金色の神血』が噴き出し、夜明け前の暗い空に黄金の雨となって降り注ぐ。


六王の最大火力を至近距離で叩き込まれたその一撃は、ミリアの体をボールのように弾き飛ばし、上空の分厚い雨雲を一直線に真っ二つに割り裂きながら、遥か彼方の空の果てまで彼女を吹き飛ばしていった。  


「……ハァ、ハァ、ハァ……ッ」


俺は空中で質量を通常に戻し、全身から血と煙を噴き出しながら、ズンッ、と泥だらけの地面に両足で着地した。


光速の反動とアレスの出力により、俺の肉体は完全に限界を超えていた。膝から崩れ落ちそうになるのを、必死に踏みとどまる。


「統ッ!!」

「すばる君……ッ!」


限界を迎えた俺の元へ、セリア、紅刃、雅の三人が、涙と泥にまみれた顔で駆け寄ってくる。


三人の命懸けのパスがなければ、絶対に届かなかった一撃。俺たちは、神の盤面を確かにひっくり返したのだ。


その頃。


遥か上空、雲の切れ間まで吹き飛ばされたミリアは、空中で強引に姿勢を立て直しながら、自身の腹部から流れる『金色の血』を、呆然と見つめていた。 


痛い。

熱い。


生命が削り取られる、ひどく冷たい感覚。

それは、神話の時代から数え切れないほどの時を生きてきた彼女が、初めて味わう『死の気配』だった。


人間という脆弱で寿命の短い生き物が、原初の神である自分の懐に潜り込み、あろうことか防壁を騙してダメージを与えたのだ。


「……あ、あ……」


腹部を押さえるミリアの細い指先が、カタカタと震えていた。


それは、下等な人間に傷つけられたことへの怒りでも、屈辱でもない。


永遠に続く退屈な凪いだ海の中で、彼女が一度も感じたことのない、強烈で、脳髄が痺れるような『歓喜』の震えだった。


「……アハッ。アハハハハハハハッ!!!」


幼き原初神は、腹部から血を流しながら、三日月のように目を細め、夜明けの空でひたすらに狂ったような笑い声を上げ続けていた。


「素晴らしい……! 素晴らしいぞ、人間のオスよ!!」


彼女の笑い声が、雲を散らし、極東の空に響き渡る。 


絶対的な神が、一人のイカサマ師によって「死」という至上の悦楽を知ってしまった瞬間。 


それは同時に、神殺しの闘争が、これまでの小競り合いとは次元の違う「神々の執着」を引き寄せてしまったことを意味していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ