表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダイス・マキア  作者: kiro


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/79

絶対零度の殺意と、神殺しのための夜




西東京市が未曾有の絶望に沈んでいた頃。

極東から遠く離れた、中東の灼熱の砂漠地帯。その地下深くにある古代遺跡の中で、一人の男の足取りがピタリと止まった。


「……なんだ、今の波動は」


歴300年の王、レヴィ。

彼は不意に胸を押さえ、遺跡の天井越しに、遥か東の空——『日本』の方角を鋭く睨みつけた。


ドクンッ、と。


彼の中で分厚く凍りついていたはずの復讐心が、けたたましい警鐘を鳴らす。 


途方もない質量の魔力。人間の理を完全に無視した、圧倒的で傲慢な『概念』の顕現。


「間違いない。この吐き気を催すほどの不快な神威……『原初神』だ。しかも、極東の島国に降臨しただと……!?」


レヴィの銀色の瞳に、狂気じみた殺意と、もう一つの『強烈な焦燥』が渦巻いた。


あのちぐはぐで騒がしい日常を愛する、彼の初めての『ダチ』がいる国だ。すばるたちが、あの次元の違う怪物と正面衝突すればどうなるか、レヴィには痛いほど分かっていた。


「……すばる」


レヴィは周囲の砂漠を一瞬にして凍てつかせながら、自身のコートのポケットを強く握りしめた。


「待っているぞ。君に渡した『氷星のティアーズ・オブ・コキュートス』……それを砕け。砕いた瞬間、僕が必ず、その原初神の海を絶対零度で凍らせてやる」


彼は極東の空へ向けて、祈るように、そして殺意を研ぎ澄ませながら、召喚の時を待ち構えていた。


一方、西東京市の地下シェルター。


俺たち四人は、メインモニターの前に集まっていた。ウロボロスの超再生のおかげで、ボロボロだった俺の体も、動くことだけはできる状態まで回復している。


「……すばる君。あの、お別れの時にレヴィさんからもらった『氷の結晶』は……? 今こそ、彼を呼ぶ時では……!」


雅が、祈るように尋ねてきた。彼女も、レヴィという絶対零度の王の規格外な力は知っている。


だが、俺は首を横に振った。


「いや、まだ呼ばない。あいつは『一番美味しいところ』まで温存する」


「なッ、強がってる場合ですか統! 相手は原初神ですよ!?」


セリアが慌てるが、俺はモニターに映るミリアの映像を指差した。


「強がりじゃねえよ。ただのロジックだ。……イヴ、あいつの絶対防壁の性質をもう一度説明しろ」


『……はい。ミリアの周囲には「原初の海」という概念の防壁が存在します。向かってくる敵意ある物理的質量や魔力は、すべて彼女の知覚領域に入った瞬間に、異常な水圧で圧壊し、海に沈められます。……真正面からレヴィの氷をぶつけても、凍る前に沈められる可能性が高いです』


「そういうことだ」


俺は、自分の右腕をギュッと握りしめた。


「敵は世界のルールそのもの。レヴィを呼ぶにしても、まずは俺たちで、あいつの『絶対防壁』をブチ抜いて、隙を作る必要がある。……狙うのは、あいつの首だ。あの退屈してるクソガキに、本当の『死』を刻み込んで、この盤面にほんから完全に排除する」


「でも、どうやって防壁を抜くんだよ? アタシの炎も、統の質量も、全部届く前に潰されちまうんだぞ?」


紅刃が、険しい顔で問いかける。


「ああ。だから、真正面からは殴らない」


俺は、作戦の全貌を話し始めた。


「あいつの防壁は『向かってくる物理的質量』を海に沈める。なら、『質量がゼロ』で、なおかつ『相手の知覚処理を完全に置き去りにする速度』で潜り込めば、懐を叩けるはずだ」


俺は、三人の少女たちを見回した。 


「まず、ミリアの意識を完全に削ぐ。……雅、お前の妖刀『黒曜』の桜花暗転。あれで、あいつの視覚と魔力感知を一瞬だけ、完全に奪えるか?」


雅は、漆黒の妖刀を胸に抱き、力強く頷いた。


「……はい! 私の命を懸けて、必ず視界を奪ってみせます」


「その一瞬の暗闇の中で、紅刃の『爆炎』とセリアの『迅雷』を同時にフルパワーで放て。狙いはあいつじゃない。俺の背中だ」


「はぁッ!? テメェの背中を撃つだって!?」

「そうだ。俺はその瞬間、【1の目】で俺自身の質量を完全に『ゼロ』にする。……質量ゼロの物体が、背後から爆炎と雷という極大のエネルギーを受けたら、理論上、加速は無限大インフィニティに近づく」


その言葉に、イヴが息を呑んだ。


『……理論上、光速に到達します。ですが、すばるくん! 質量ゼロの状態で光速移動すれば、あなたの存在そのものが世界から弾き出される! 衝突の瞬間に少しでもズレれば、あなたの肉体は原子レベルで四散します!』


「そこをウロボロスの再生で強引に繋ぎ止める」

俺は、ニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。


「光速で『海の概念』の処理速度を上回り、あいつが知覚すらできない一瞬で懐のゼロ距離に到達する。そして、接触の瞬間に、俺の質量を【1の目】で『特大質量』へと反転させ、アレスの【6の目】を全出力で叩き込む」


質量ゼロから、無限大への急激な反転。

これこそが、神の防壁を貫き、その首を刈り取るための、唯一にして最狂のイカサマだ。


神を欺き、世界の物理法則を根底からバグらせる、文字通りの自殺行為。


タイミングがコンマ一秒でもズレれば、俺は仲間の攻撃で蒸発するか、光速の負荷で消滅するか、ミリアの水圧で塵になる。


「……正気じゃないぞ、ハズレ枠」

紅刃が、呆れたようにため息をついた後、その口元に好戦的な笑みを浮かべた。


「だが、最高に面白え。アタシの爆炎で、テメェを神様の首元までブッ飛ばしてやるよ」


「まったく、王がこれほど無茶をするなら、騎士も命を張るしかありませんね」


セリアが白銀の刀を抜き放ち、美しい雷のオーラを纏わせる。


「すばる君……。私、あなたの道を作ります。……絶対に、一緒に生きて帰りましょうね」


雅が、俺の服の袖をギュッと握りしめ、覚悟を決めた瞳で見つめてきた。


「ああ、約束する。……俺のテーブルに座った客は、全員勝たせて帰すのが俺の流儀だからな」


俺は三人の顔を見渡し、深く頷いた。


日本沈没のタイムリミットまで、あと11時間。

シェルターの外では、原初神の気まぐれによる暴風雨が吹き荒れ、海鳴りが大地を揺らしている。


「行くぞ。……退屈してる神様に、この世界で一番熱い死闘ゲームをプレゼントしてやろうぜ」

最弱の王と、三人の少女たち。


絶対に勝てない原初神を「殺す」ための、一晩に及ぶ逆襲の幕が、今、静かに切って落とされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ