無限の蹂躙と、絶望の深海
「——神判行使!! 【6の目】・『万軍の戦車』!!」
俺の激昂と共に、黄金の炎を纏った巨大な神の戦車が、空間を焼き焦がしながら上空のミリアへと向かって猛烈なスピードで突進する。
屍王ゼインの軍勢を一瞬で轢き潰し、千年結界を粉砕した、俺の持つ最大の火力。
ゴアァァァァァァッ!!
放った莫大な反動で、俺の右腕の筋肉が内側から爆竹のように爆発し、骨が砕け、ズタズタに引き裂かれる。だが、即座にウロボロスの超再生がそれを修復する。
「消え失せろッ!! 『万軍の戦車』」
二連発、三連発と【6】の権能を連発させる。
自壊と再生。痛覚を完全に無視し、俺は空を覆い尽くすほどの黄金の戦車を、文字通り『無限』に顕現させ、ミリアへと釣瓶打ちに叩き込んだ。
瓦礫と化した西東京市の空が、黄金の爆炎によって真昼のように照らされる。
「統……ッ!」
背後で雅たちが息を呑む。
通常の六王であれば、この無限コンボを浴びれば骨すら残らず消滅する。俺は一切の容赦なく、持てる手札のすべてを最初からぶつけた。
だが。
黄金の爆発の煙が晴れた上空を見て、俺の心臓は凍りついた。
「……は?」
そこには、煤一つ、傷一つ負っていないミリアが、退屈そうに小さな欠伸をしている姿があった。
「なるほど。自身の権能の反動を、もう一つの権能で相殺する。面白いイカサマだが……いかんせん、火力が足りんな」
ミリアはドレスの裾を軽く払い、赤い瞳を酷薄に細めた。
「所詮は、我らから切り離された『サイコロの出目』の力。……原初の概念そのものである我に、そんな小手先の手品が通じると思ったか?」
彼女の周囲には、魔力の防壁すらない。ただ、彼女が存在しているという『概念の格』が違いすぎて、俺の攻撃が文字通り「届いてすらいない」のだ。
ミリアが、細く小さな人差し指を、俺の方へ向けて軽く『弾いた』。
ピチャン、と。
水滴が落ちるような、ひどく静かな音が、俺の耳元で鳴った。
その瞬間。
俺の全身の骨が、一斉に悲鳴を上げた。
「ガ、ガハァッ……!!?」
見えない『深海の超水圧』が、四方八方から俺の肉体を圧殺しにきたのだ。
内臓が破裂し、目から、鼻から、口から、おびただしい量の鮮血が噴き出す。肺の中の空気が一瞬で搾り取られ、呼吸すらできない。
「統!!」
「すばる君!!!」
俺の体は、地面に叩きつけられたトマトのように無惨にひしゃげた。
ウロボロスの超再生が即座に機能し、潰れた内臓と骨を繋ぎ合わせようとするが、ミリアの放つ『原初の水圧』が、再生する端から俺の肉体を削り取っていく。
「ふむ。即死しないのは褒めてやろう。……だが、ただの的だな」
ミリアが冷たく見下ろす。
俺は血の海の中で、無事な左手で泥だらけの地面を掻きむしった。
「権能、解放……ッ! 【1の目】、俺の質量……ゼロ……ッ!」
自身の質量を消し、水圧の檻から無理やり抜け出そうとする。
だが。
「無駄だ。我の水は、質量を消したところで『空間そのもの』を沈める」
ミリアが指をほんの少し下へ向けた。
ドゴォォォォォォンッ!!
「ア、ァァァァァァァァッ!!!」
俺の肉体が、さらに深い絶望的な重圧に押し潰される。
右腕がちぎれ、足の骨が粉砕される。ウロボロスの再生速度が、完全に『破壊』の速度に追いつかなくなっていた。
意識が、白くフェードアウトしていく。
(……クソ。なんだ、このバケモノは……。俺の、イカサマが……何も、通用しねえ……)
「統から離れろォォォォッ!!」
俺の意識が飛ぶ寸前。
紅刃が、自身の寿命を削るほどの最大火力で『獣神の爆炎』をミリアの視界目掛けて放ち、セリアが雷速のステップで水圧の檻に飛び込み、血まみれの俺の体を抱え上げた。
「雅! 煙幕を!」
「はいッ! 妖刀・黒曜……『桜花暗転』ッ!!」
雅が妖刀を振り抜き、周囲一帯の光を完全に遮断する漆黒の桜吹雪を巻き起こす。
三人の少女たちは、瀕死の俺を抱え、文字通り自分たちの命を投げ打つ覚悟で、八咫烏が用意していた緊急用の『地下転移陣』へと飛び込んだ。
「……ほう。手駒の忠誠心は高いようだな」
ミリアは、周囲を包む煙幕と爆炎を、指先一つで海風に変えて吹き飛ばした。
すでにそこに、すばるたちの姿はない。
追おうと思えば、一瞬で空間ごと彼らを海の底へ沈めることができた。
だが、ミリアは退屈そうにため息をつき、その小さな手を下ろした。
「……なんだ。エレボスが面白いと言うから、わざわざ期待して深海から出てきたというのに。ただの、威勢のいいだけの小僧ではないか」
ミリアの赤い瞳に、明確な『失望』と『落胆』の色が浮かぶ。
これほどあっさりと潰れるのなら、わざわざ地上に足を運ぶ価値もなかった。
「つまらん。実に、消化不良だ」
ミリアは、崩壊した西東京市の瓦礫の上に降り立ち、日本の島国の広大な大地を見渡した。
「……仕方あるまい。せっかく地上に出てきたのだ。気まぐれに、この島国を丸ごと海底に沈めてから帰るとしよう」
幼き原初神の、身勝手で絶望的な宣告。
最強のイカサマ師の完全なる敗北から、日本沈没へのカウントダウンが、静かに始まったのだった。




