絶対零度の介入と、格の違い
ピキィィィィィィンッ……!!
ゼインの振り下ろした腐敗の槍が、俺の心臓に触れるコンマ一秒前。
谷底の空気が「物理的」に凍りつき、極大の毒の槍が一瞬にして『絶対零度の氷のオブジェ』へと変貌した。
「なッ……!? なんだこれはッ!」
驚愕するゼインの目の前で、氷漬けになった毒の槍がパチンと弾け、粉々に砕け散る。
「——そこまでにしておきなよ、ゼイン。些か、王としての『品』に欠けるんじゃないか?」
崖の上から、優雅な足取りで空中の「見えない氷の階段」を降りてくる銀髪の青年。
歴300年の六王、レヴィ。
彼が地面に降り立った瞬間、死臭と毒に満ちていた谷底が、一面の美しい白銀の世界(凍土)へと塗り替えられた。ゼインのアンデッド軍団は、足元から急速に凍りつき、次々と氷像に変わっていく。
「レヴィ……!! なぜ貴様がここにいるッ!」
ゼインが激昂し、漆黒の刻印を光らせながらも、その声には明らかな「混乱」が混じっていた。
「まさか、この極東の新米は貴様の差し金か……? いや、他人に興味を持たない最古参の貴様が、なぜこんなガキの盾になる!」
ゼインの当然の疑問に、レヴィはポケットに両手を突っ込んだまま、冷酷なまでに静かな瞳で見据えた。
「盾? 違うな。僕はただ、僕の『お気に入り』の玩具が壊されるのを見過ごせなかっただけさ。それに、120年ぽっちの若造が、僕の目の前で大きな顔をするのも気に入らない」
レヴィの声のトーンが、一段階低くなる。
「……ここで、僕の氷のコレクションの一部になって死んでおくかい?」
ゴゴゴゴゴ……ッ!!
レヴィの背後に、ヨーロッパの山脈をも覆い尽くすほどの、超巨大な『氷の竜』のオーラが顕現する。
空間そのものの熱を奪い、分子の運動すらも停止させる、圧倒的な静止の世界。
俺がアルテアに感じた威圧感の、さらに数倍。
これが、300年という途方もない時間を生き抜いた『最古参クラス』の六王の、本物の神威。
「ク、ゥゥゥ……ッ!!」
ゼインはギリッと歯を食いしばり、一歩後ずさった。
ゼインはウロボロスとの戦いと、俺の『無限戦車』による蹂躙で、すでに魔力も手札も消耗しきっている。おまけに、目の前にいるのは次元の違う絶対零度のバケモノだ。勝機は万に一つもない。
「……覚えておけ、レヴィ。そして極東の新米よ。私の120年の計画を台無しにしたこと、必ず後悔させてやる……ッ!!」
ゼインは屈辱に顔を歪ませながら、背後に毒のポータルを開き、逃げるようにその中へと姿を消した。
ゼインが消えると同時に、俺にかかっていた『魂の略奪者』の制限が解除され、再びウロボロスの超再生が機能し始めた。
右腕の傷が塞がり、体内の毒が浄化されていく。
「……ハァ、ハァ……。助かったぜ、レヴィ」
俺が血混じりの息を吐きながら立ち上がると、レヴィは背後の氷竜を消し去り、いつもの飄々とした笑顔に戻った。
「いいショーだったよ、統。……さて、それじゃあ『本題』に入ろうか」




