最弱の潜伏行動(ステルス)
死臭が充満する谷底。
俺は自身の質量を羽のように軽くし、アンデッドの軍勢の背後を音もなくすり抜けていた。
『グルォォォ……』
すぐ横を、腐敗した巨人のアンデッドが通り過ぎる。
普通なら、人間が歩けばわずかな風が起き、匂いが混ざり、小石が鳴る。だが、俺は質量を持たない。気配という物理的な情報そのものを「ゼロ」に書き換えているのだ。
(よし、バレてねえ……! このまま、ウロボロスの真下まで……)
俺は瓦礫の影から影へと、まるで幽霊のように移動を続ける。
前方では、屍王ゼインが苛立たしげに舌打ちをしていた。
「チィッ! しぶとい蛇神め。だが、贄の命もそろそろ底をつく。……我が毒で完全に溶け落ちろ!!」
ゼインの放つ猛毒の沼がウロボロスを包み込み、再生の速度が徐々に落ち始めている。神のHPが、確実に削り切られようとしていた。
俺は息を潜め、ゼインからわずか数十メートルの距離にある『巨大な廃教会の屋根の上』へと音もなく跳躍した。
ここが、横取り(キルスティール)のベストポジション。
だが、ゼインの傍に控えていた『首なしの死霊騎士』が、不意に俺の潜む廃教会の方角へと顔を向けた。
(……マズい、霊的な感知か!?)
俺の物理ステルスは完璧だが、生者の魂そのものを感知する死霊には、長時間の潜伏は通じない。
死霊騎士が剣を抜き、ゼインに何かを報告しようとした、まさにその絶対絶命の瞬間だった。
ドッッッッッガァァァァァァンッ!!!
谷の反対側。邪教徒たちが儀式を管理していた祭壇の方角から、夜を昼に変えるような目眩ましの大爆発が巻き起こった。
「な、何事だッ!?」
ゼインが驚愕して振り返る。
俺の方を向いていた死霊騎士も、その圧倒的な光と熱量に気を取られ、俺から完全に意識を外した。
「……ナイスタイミングだ、お前ら」
俺は廃教会の屋根の上で、ニヤリと笑みを浮かべた。




