血塗られた儀式と、最弱の決意
『【輪廻の蛇神・ウロボロス】。無限の再生を司るその神を現世に縛り付けるには、膨大な「生命力」を贄とする必要があります』
イヴの声が、冷たい機内に響く。
『屍王・ゼインと邪教組織は、儀式の舞台となる村の周辺から、罪のない農民や子供たちを数百人規模で拉致しました。そして彼らを……生きたまま「神の再生の燃料」として魔法陣に組み込んでいるのです』
モニターに映し出されたのは、巨大なすり鉢状の祭壇。その周囲には、鎖で繋がれ、生気を吸い取られてミイラのように干からびていく村人たちの姿があった。
「……ッ!!」
紅刃が息を呑み、セリアがギリッと奥歯を噛み締める音がした。
『ゼインの狙いは、神を降臨させた直後、贄の命を使ってウロボロスが「再生」を繰り返している間に、自身の毒と死霊術で弱らせて【6】を簒奪すること。……村人たちは、神のHPタンクとして使い捨てられる運命です』
「……趣味が悪いね。120年も生きて、まだそんな非効率な儀式に頼っているのか、あの死体マニアは」
レヴィが氷のグラスを揺らしながら、つまらなそうに呟いた。
俺は黙って、モニターに映る凄惨な光景を見つめていた。
迷いは、完全に消え去っていた。
誰かの当たり前の「日常」を、自分勝手な神降ろしの燃料としてミキサーにかける。
俺がアルテアにやられそうになった、あの理不尽と全く同じだ。
「……イヴ。その儀式、まだ間に合うか」
俺の声は、自分でも驚くほど低く、冷たかった。
『神の完全顕現まで、あと数時間。儀式が完了し、ウロボロスがゼインに倒される前なら、贄の術式を破壊して村人たちを解放できる可能性はあります』
「上等だ」
俺は三角巾を外し、動かない右腕をかばいながら立ち上がった。
「レヴィ。アンタの言う通り、俺の迷いは消えたよ。……人の日常を燃料にするような悪党のレイドボスなら、心置きなく『横取り』して、盤面ごとぶち壊してやれる」
俺の宣戦布告に、300年の王は満足げに手を叩いた。
「素晴らしい! そうこなくちゃね。さあ、急いで向かおうか。極上の泥棒ショーの開演だ!」




