氷のプライベートジェットと、王の迷い
数日後。俺たち三人は、雲の上を飛ぶ超高級プライベートジェットの革張りシートに深く沈み込んでいた。
機内には静かなクラシック音楽が流れ、キャビアや高級シャンパンが並んでいる。だが、その快適な空間の気温は「冷蔵庫」のように冷え切っていた。
「……胃が、痛い……」
向かいの席で、紅刃が毛布にくるまりながらガタガタと震えている。セリアも白銀の刀を抱きしめたまま、一睡もせずに周囲を警戒していた。
無理もない。俺たちのすぐ隣の席で、歴300年の【六王】レヴィが、優雅に氷を浮かべたグラスを傾けているのだから。
「どうしたんだい? せっかくの空の旅だ、もっとリラックスして日本のゲームの話でもしようじゃないか」
「アンタから漏れてる冷気のせいで、機内食のスープが凍ってんだよ。……なあ、レヴィ」
俺は三角巾で吊った右腕を左手でさすりながら、ずっと抱えていた「迷い」を口にした。
「俺は今まで、俺の『日常』を理不尽に壊そうとする奴らを追い払うためにイカサマをしてきた。アレスの時も、アルテアの時もだ」
俺は窓の外の雲海を見つめた。
「でも、今回は違う。自分の右腕を治すために、わざわざヨーロッパまで飛んで、他の王のレイドボスを横取りしてケンカを売る。……それじゃあ、ただの『悪党』と同じじゃないのか?」
自分から盤面を荒らしに行くことへの抵抗感。
俺の言葉に、レヴィは面白そうにクスクスと笑った。
「君は本当に、奇妙な王様だね。神殺しの闘争において、他人の手札を奪うのは当然の権利だ。善悪なんてチャチな概念を持ち込むから、手が止まる」
「……」
「まあいい。君のその青臭い迷いも、すぐに消え去るだろうからね」
レヴィが意味深に微笑んだ直後。
機内のモニターがハッキングされ、ノイズと共にイヴの姿が映し出された。
『統くん、聞こえますか。……レヴィから提供されたヨーロッパの座標、現地の魔術ネットワークを使って裏取り調査が完了しました』
イヴの顔は、いつになく険しかった。
『結論から言います。あの儀式は、ただの神降ろしではありません。……極めて悪悪辣な「大量虐殺」です』
「なんだと……?」
モニターに、上空から撮影されたヨーロッパの辺境の農村が映し出される。だが、そこには人の気配がなく、地面には赤黒い血の跡が不気味な魔法陣を描いていた。




