不死身の泥棒と、横取り(KS)の算段
屋上に展開されていた氷のドームが、レヴィが指を鳴らすと同時にシュウゥッと音を立てて気化し、再び初夏の青空が顔を出した。
インカム越しに、イヴの安堵したような声が聞こえる。どうやら彼女も、通信越しにレヴィの提案を聞いていたらしい。
「統くん。レヴィの言う通り、ウロボロスの『超再生』が手に入れば、あなたの右腕の代償は完全に相殺されます。ですが……」
イヴの声に、微かな緊張が走る。
「一つ、裏がありますよね? 300年の王よ。なぜ、そんな美味しいレイドボス(神)の情報を、わざわざ統くんに渡すのです?」
イヴの指摘に、レヴィは「バレたか」というように肩をすくめた。
「簡単なことさ。そのウロボロスの降臨儀式……裏で糸を引いて、神を呼び出そうとしているのは、僕じゃない。別の六王なんだ」
「……は?」
俺は思わず間抜けな声を出した。
「死体と毒を操る、歴120年の『屍王・ゼイン』。彼が自分のアンデッド軍団を強化するために、邪教徒を操ってウロボロスを召喚しようとしているのさ。……彼は用心深いからね。僕が直接行けば、全面戦争になって面倒なことになる」
「おい、ちょっと待て。ってことは……」
「そう。僕の提案はこうだ」
レヴィは、極めて楽しそうに、そして極めて悪辣な笑顔を浮かべた。
「ゼインが自分の配下を使って、ウロボロスの体力(HP)をギリギリまで削り切るのを待つ。そして、神が倒れるコンマ一秒前に……君が横からひょっこり現れて、最後の一撃だけを華麗に『横取り(キルスティール)』するんだ」
「人のレイドボスを横取りしろってか!? ネットゲームならアカウントBANされる最悪のマナー違反だぞ!!」
俺が叫ぶと、レヴィは再び腹を抱えて笑った。
「最高じゃないか! 120年かけて準備した神を、横から湧いてきた新米のハズレ枠に奪われるゼインの顔! 想像しただけでご飯が三杯は食べられるよ!」
「断る!! そんなことしたら、今度はその『屍王』とかいうヤツから命を狙われることになるだろ!」
「もう遅いよ。君がアルテアを退けた時点で、世界中の六王が君の首を狙い始めている。僕の庇護下に入るか、ゼインから不死性を奪って自衛するか。……それとも、右腕が使えないまま、ここで僕に凍らされるかい?」
レヴィの目が、スッと細められる。
冗談めかしてはいるが、断れば本当にこの西東京市ごと氷河期に沈める気だ。
俺は大きなため息をつき、無事な左手で頭を掻き毟った。
「……セリア。パスポート、持ってるか」
「スウェーデン国籍ですので、もちろん」
「紅刃。お前は?」
「『オウル』の偽造パスポートなら、一応……」
俺は覚悟を決めて、レヴィを睨みつけた。
「……分かったよ。その代わり、道中の旅費とメシ代は全部パトロンのアンタ持ちだからな。飛行機もファーストクラスだ」
「交渉成立だ。歓迎するよ、僕の可愛い泥棒猫」
レヴィは嬉しそうに拍手をし、俺たちに向けてウィンクをした。
「さあ、荷造りをしたまえ。ヨーロッパの田舎町へ、地獄の修学旅行の始まりだ!」
右腕の治療と、最強の「不死身コンボ」を完成させるため。
俺たちは、300年の王という最も厄介なパトロンと共に、他人のレイドボスを横取りするという最悪の泥棒ミッションへと足を踏み入れることになった。




