300年の好奇心と、悪魔の笑い声
「300年の、王……」
俺は三角巾で吊った右腕を庇いながら、ゆっくりと立ち上がった。
セリアは刀を構えたまま一歩も動けず、紅刃に至っては呼吸すら浅くなっている。
「警戒しないでくれ。本当に、ただの観光と『見学』に来ただけなんだ」
レヴィと名乗った銀髪の青年は、凍りついたベンチに優雅に腰を下ろした。
「極東の島国で、歴150年のアルテアが新米に敗れた。そのニュースを聞いた時は耳を疑ったよ。……だから、魔術協会の観測データをハッキングして、君たちの戦闘の記録を見せてもらったんだ」
レヴィは、急におかしなことを思い出したように、肩を震わせて笑い始めた。
「クックック……アハハハハッ!! いやぁ、最高だった! 君、自身の質量をコンマ一秒でデタラメに切り替えて、アルテアの重力計算を『処理落ち(フリーズ)』させたんだってね!?」
レヴィは腹を抱え、涙目になりながら爆笑している。
「150年も玉座にふんぞり返ってた生真面目な王様のシステムを、ただの物理法則のバグ(イカサマ)でブチ破るなんて! 君、神殺しの闘争をテレビゲームか何かと勘違いしてるんじゃないか!?」
ひとしきり笑い転げた後、レヴィはスッと真顔に戻り、俺の目を真っ直ぐに見据えた。
その瞬間、屋上の気温がさらに数度下がった気がした。
「僕はね、退屈していたんだ。300年も生きていれば、神殺しの戦いなんてただの作業になる。アルテアのように領土を広げる気もないし、他の王のように権力にも興味がない」
レヴィが立ち上がり、俺の目の前まで歩み寄る。
「僕は、面白いものが見たい。盤面をひっくり返す、イカれたイレギュラーの存在をね」
「……何が言いたいんだよ、アンタ」
俺が睨み返すと、レヴィは面白そうに唇を吊り上げた。
「御堂統。僕が君の『後ろ盾』になってあげる、という提案だよ」
「パトロン……?」
「そう。僕が後ろ盾になれば、他の六王もうかつには君に手出しできなくなる。君はそのイカサマで、これからも僕の退屈を紛らわせてくれればいい」
「……タダより高いものはないって、ばあちゃんが言ってたぜ。アンタの庇護を受ける代わりに、俺に何をさせる気だ」
俺が警戒を解かずに問うと、レヴィはパチンと指を鳴らした。
空中に、一枚の氷のホログラムが展開される。
そこに映し出されたのは、ヨーロッパの古い田舎町の風景と、巨大な「蛇」の壁画だった。
「これは、パトロンとしての最初の『プレゼント』だよ。……今、ヨーロッパの辺境で、怪しい邪教組織が『輪廻の蛇神・ウロボロス』を降臨させる儀式を進めている」
「ウロボロス……?」
「そう。自らの尾を噛む、無限の再生を司る神さ」
レヴィの瞳が、悪魔のように妖しく光る。
「君のその右腕。イカサマの代償でボロボロだろう? でも、もし君がウロボロスを殺して、ダイスで【6】を引き当て……『不死性(超再生)』の権能を手に入れたらどうなると思う?」
俺はハッとして、自分の動かない右腕を見た。
「……右腕が自壊する端から、超再生で傷が塞がる。つまり……」
「ご名答。腕が吹き飛ぶという【6】の最大のデメリットを、完全に踏み倒せる『無限コンボ』の完成だ」
それは、右腕が使えない今の俺にとって、あまりにも甘く、魅力的な毒の提案だった。




