表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダイス・マキア  作者: kiro


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/82

目覚めと、狂戦士の涙



「……っ、痛ぇ……」


目を開けると、そこはまたしても見慣れた真っ白な天井だった。


西東京市の地下セーフハウスにある、魔術協会の医療室。全身の骨が鉛のように重く、息をするだけで肺が軋む。特に右腕は、ぐるぐると分厚い包帯と呪符で固定され、微かに動かすことすらできなかった。


「……気が、ついたか……バカヤロウ」


掠れた声。ベッドの脇で、真っ赤な髪の少女——紅刃こうじんが、両手で顔を覆いながら震えていた。


その指の隙間から、ポロポロと大粒の涙がシーツにこぼれ落ちている。


俺は痛む頭をゆっくりと動かし、自分の右腕を見た。


「あーあ。せっかく当てた1/100のイカサマ籠手ガントレット、粉々になっちまったな……。まあ、あの150年の化け物と正面衝突して、腕が消滅しなかっただけマシか」


俺が力なく笑うと、紅刃は耐えきれなくなったようにベッドにすがりつき、俺の無事な左手を両手でぎゅっと握りしめた。


「なんで……! なんでアタシなんかのために、あんな無茶したんだよッ! オマエ、死ぬところだったんだぞ……ッ!」


紅刃が、子供のように声を上げて泣きじゃくる。


孤児として『ガーデン』に拾われ、アルテアの絶対的な重力と恐怖に支配され続けてきた彼女の心。その重くて冷たい鎖を、俺のデタラメなイカサマと特大質量が、物理的にブチ壊したのだ。


「オマエが死んだら、意味ないじゃないか……っ。アタシは、オマエの……あの騒がしい日常に、これ以上迷惑を……」


「……迷惑なら、もう一生分かけられてるよ、ストーカー女」


俺は左手で、泣き顔の紅刃の頭を乱暴に撫で回した。


「言っただろ、俺の日常テリトリーから勝手に消えるなって。……アルテアは逃げた。あの地下要塞も半壊した。お前を縛る『庭』も『重力』も、もうどこにもねえんだよ」


俺の言葉に、紅刃は息を呑み、そしてさらに激しく泣き崩れた。


ずっと張り詰めていた狂戦士の虚勢が完全に剥がれ落ち、ただの一人の少女として、生きていることの温かさに縋るように。 


「アタシ……っ、アタシ……生きてて、いいのか……?」


「当たり前だ。これからは、俺の家でタダ飯食う分、きっちり家事と護衛で働いてもらうからな」


「——統が目覚めましたか!!」


バンッ! と勢いよく医療室のドアが開き、両手に山盛りのリンゴを抱えたセリアが駆け込んできた。


「おお、統! 神々のご加護に感謝を! 私はあなたが冥界へ旅立たないよう、三日三晩、一睡もせずに祈りを捧げて……」


「嘘つけエリート気取り! オマエさっきまで廊下の長椅子でよだれ垂らして爆睡してただろうが!」


涙を拭った紅刃が、即座にセリアに噛み付く。

「なっ……! 私は瞑想による魔力回復を……!」

「よだれ垂らしながら瞑想するか、バカ騎士!」

いつものようにギャーギャーと喧嘩を始める二人。


俺は全身の激痛に耐えながらも、ふと、口角が緩んでしまうのを止められなかった。


俺の愛する、騒がしくてちぐはぐな日常。右腕の激痛と引き換えにしたが、どうやら無事に、この手の中に守り抜くことができたらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ