150年の最適解(バグ)と、狂気のフルベット
「出力500倍。潰れろ」
メキッ、ミシィィィッ!!
アルテアの革靴が俺の背中を踏みつけ、内臓が口から飛び出そうになるほどの重圧が全身をミキサーのようにすり潰していく。
俺の視界は血に染まり、処刑台の十字架に縛られた紅刃の絶叫が遠のいていく。
アルテアは俺から興味を失い、紅刃の神核を抜き取ろうと右手をかざした。
150年の歴史。無数の手札。あらゆる奇策を無力化する重力の絶対防御。
確かに、こいつは「完璧」だ。
(……だから、バグるんだよ。金髪野郎)
「……ア、ハハ……ッ」
血溜まりの中で、俺はゴボッと血の泡を吐き出しながら笑った。
その不気味な笑い声に、アルテアがわずかに眉をひそめて視線を戻す。
「何がおかしい、新米。脳まで潰れたか」
「……アンタ、さっき言ったよな。『事前に俺の戦闘データを解析した』って。……俺の血が重力アンカーになることも、戦車の質量攻撃も、全部『予測』して、完璧な『最適解』でカウンターを合わせた」
俺はギリッと奥歯を噛み締め、アルテアを睨み上げた。
「150年。何千回と神殺しをしてきたアンタの防御は、洗練されすぎてる。……相手の『質量』と『軌道』を瞬時に読み取って、それに合わせた重力を自動的にぶつける。息をするように、な」
アルテアの青い瞳が、初めて微かな「疑念」に揺れた。
「なら……相手の質量が、コンマ一秒ごとに『0』から『数万トン』へデタラメに切り替わり続けたら、アンタの150年の完璧な脳みそ(システム)は、どっちの重力をかければいいか迷って……『処理落ち(フリーズ)』するんじゃねえの?」
俺の言葉が終わるか終わらないかのうちに。
俺は残された全精神力と、右腕の『機巧神の籠手』の魔力補助を全開にして、自身の肉体に【1】の権能を叩き込んだ。
「——権能解放!! 限界反復!!」
ドガガガガガガガッ!!!
俺の背中を踏みつけていたアルテアの足元で、空間が弾け飛ぶような凄まじい「振動」が発生した。
俺は自身の質量を、「ゼロ」にしては「数万トン(逆位置)」へと戻すという操作を、コンマ一秒の世界で狂ったように『連続発動』させたのだ。
物理法則の完全なバグ。
アルテアの展開していた「500倍の重力場」が、質量ゼロで空振りした直後に数万トンの超質量にぶつかり、空間の計算式が完全に破綻して悲鳴を上げる。
「なッ……!? なんだこのデタラメな質量の振動は……ッ!」
完璧に制御されていたアルテアの重力空間が、ガラスが割れるようにひび割れ、制御不能の斥力を撒き散らして爆発した。
その爆発の余波で、俺を踏みつけていたアルテアの身体が大きく体勢を崩し、後方へと弾き飛ばされる。
「今だッ!!」
重力の拘束から抜け出した俺は、血まみれの身体を無理やり持ち上げ、地面を蹴った。
向かう先はアルテアではない。処刑台の『紅刃』だ。
「させないよッ! 事象圧縮……!」
体勢を立て直したアルテアが、俺の周囲の空間を圧縮して止めようとする。
だが、遅い。俺の『質量の乱高下』によって空間の座標計算が狂い、アルテアの重力は俺の数メートル横の地面を空振りして巨大なクレーターを作るだけだった。
「150年の経験値が聞いて呆れるぜ! パソコンのフリーズと同じだ、バカヤロウッ!!」
俺は白銀の籠手を振りかぶり、紅刃を縛り付けていた『重力の鎖』を、全力の打撃と質量のゴリ押しで粉砕した。
ガキィィィンッ!!
鎖が砕け散り、拘束を解かれた紅刃が俺の腕の中に倒れ込んでくる。
「統……オマエ、なんで……ッ。死ぬぞ……」
ボロボロの紅刃が、俺の血まみれの顔を見て泣きじゃくる。
俺は彼女の赤い髪を左手で乱暴に撫で回し、ニィッと笑った。
「言っただろ。俺の日常から、勝手にいなくなるな。……ほら、泣いてねえで立て、ストーカー女」
「……ッ」
俺がアルテアの方へ振り返ると、そこには、いつもの余裕と冷酷さを完全に失い、白スーツを砂埃で汚した『歴150年の王』が立っていた。
彼の顔は、屈辱と激怒で夜叉のように歪んでいた。
「……よくも。僕の、完璧な玉座に……泥を塗ったね、ゴミ屑どもが……ッ!!」
アルテアの周囲の空間が、今までとは比にならない次元の「黒いオーラ(極大重力)」で渦を巻き始める。
本物の、手加減なしの神殺しの威圧感。
だが、俺の隣には、涙を拭って立ち上がった凶悪な狂戦士がいる。
「統。……アタシの命、オマエに預ける。あのクソボスの顔面、アタシの炎とオマエのイカサマで、消し炭にしてやろう」
紅刃の両腕が、マグマのような爆炎を纏った獣の爪へと変貌する。
最弱の王と、組織を抜けた狂戦士。
勝率1%の死線を超えた俺たちの、本当の『反逆』がここから始まる。




