砕け散る奇策と、血に塗れた意地
アルテアの冷酷な青い瞳が、俺の眼球の数センチ先にある。
圧倒的な死の匂い。
だが、俺は最強のイカサマ師だ。盤面がひっくり返されても、最後のチップを握りしめている限り、ゲームは終わらない。
「……傲慢なのは、アンタだろ、金髪野郎……ッ」
俺は血まみれの口元を歪め、アルテアの白スーツに、わざと自身の口から溢れた『血』を吐きかけた。
ベットリと赤い血が付着する。
俺は原初神の腕を吹き飛ばした時と同じ、起死回生のイカサマを起動した。
「——権能解放!! 逆位置!! 俺の血の質量を……」
「——『限界まで重くして、僕を物理的に縫い留める』。だろう?」
俺の言葉を遮り、アルテアが冷たく言い放った。
「なっ……」
アルテアは自身のスーツに付着した俺の血に対し、瞬時に「極小の無重力空間」を展開した。
俺が質量を数万トンに爆増させた『血の錨』は、アルテアの身体に触れることなく、無重力場に隔離されたまま、彼が指で弾くと同時にボトリと床へ落ちた。
ズドォォォォンッ!!
たった数十滴の血が落ちただけで、床のコンクリートが巨大なクレーターのように陥没する。
だが、アルテア自身には傷一つ、重力の乱れ一つ起きていない。
「原初神を退けた君の戦闘データ。それを僕が事前に解析していないとでも思ったか?」
アルテアは、俺の髪を掴んだまま、つまらなそうにため息をついた。
「君は本当に、底の浅い手品師だ。同じタネが二度も王に通じるわけがないだろう」
ドガァッ!!
アルテアが俺の身体を床に叩きつけ、そのまま俺の背中の上に足を乗せた。
「出力500倍。潰れろ」
メキッ、ミシィィィッ!!
「ガッ……アァァァァァァァァッ!!?」
全身の骨が、一斉に断末魔の悲鳴を上げる。
500倍の重力。息を吐くことすらできず、眼球の毛細血管が弾け、視界が真っ赤に染まる。
『機巧神の籠手』が限界を知らせるけたたましいアラート音を鳴らしているが、俺は指一本動かすことができない。
「統ぁぁぁぁぁっ!!」
紅刃の喉が裂けるような悲鳴と、セリアが這いずってこちらへ向かおうとする音が遠く聞こえる。
「さて、処刑の時間だ。新参の王よ、泥の中で這いつくばって、この裏切り者のコアが砕かれるのを特等席で見ているといい」
アルテアは俺を踏みつけたまま、十字架の紅刃へ向けて右手をかざした。
終わった。
奇策も、特訓も、ブラフも、すべてが150年の歴史という巨大な壁の前に粉砕された。
これが、本物の六王の力。
意識が黒い波に飲み込まれそうになる。
——だが。
俺の、血と泥に塗れた眼光は、まだ死んでいなかった。
(……見つけたぜ、アルテア)
俺は、全身の骨が砕ける激痛の中で、ニィッと犬歯を剥き出しにして笑った。
この圧倒的な蹂躙の中で、俺はずっと探していたのだ。
相手が序盤から一切手を抜かず、全手札を容赦なく切ってきたからこそ見えた、アルテアの
『150年の歴史の中で生まれた、たった一つの致命的なバグ』。
勝率1%の、最後の特大ベットの準備が整った。
「……ゲームは、ここからだ」
血まみれの王の意地が、絶望の底で静かに反逆の牙を研いでいた。




