歴150年の最適解と、無慈悲な開幕
「待たせたな、アルテア。アンタの王様のメッキを剥がしに来てやったぜ」
地下要塞『庭』の最下層。
俺の挑発に対し、白スーツのアルテアは表情一つ変えなかった。ただ、彼が指を軽く振った瞬間——俺とセリアの立っていた空間の重力が、唐突に「100倍」へと跳ね上がった。
警告も予備動作もない、純粋な殺意の圧殺。
普通の人間なら一瞬でトマトのように潰れるその重力場の中で、俺はすでにイカサマの準備を終えていた。
「——権能解放!! 【1の目】!!」
俺は自身の質量を極限まで「ゼロ」に近づける『ゼロ・シフト』を発動。質量ゼロの物体に重力は干渉できない。俺は100倍の重力場を無傷ですり抜け、白銀の籠手を構えて一直線にアルテアの懐へと跳躍した。
「もらったァッ!!」
籠手に【6】の魔力を乗せ、打撃の瞬間に質量を爆増させる。特訓で何千回と繰り返した、俺の最強の一撃。
だが、アルテアの青い瞳は、ゼロ・シフトで迫る俺を冷酷に見据えていた。
「……質量を消して重力(僕)を躱す。なるほど、理にかなった見事な『奇策』だ」
アルテアは一歩も退かない。代わりに、彼は俺ではなく『周囲の瓦礫と空気』に対して重力操作を行った。
「だが、質量ゼロということは、吹けば飛ぶ『羽』と同じだぞ、新米」
「なッ……!?」
アルテアの周囲の瓦礫が、重力によって猛烈な竜巻となって巻き起こった。
質量をゼロにしている俺は、踏ん張るための「摩擦」が存在しない。俺の身体は、アルテアが作り出した物理的な暴風と瓦礫の濁流に巻き込まれ、まるで木の葉のように空高く吹き飛ばされた。
「しまッ……権能解除——ゴハァッ!!」
空中で慌てて質量を戻した瞬間、今度は待っていたかのようにアルテアの「超重力」が俺の全身を真下へと叩き落とした。
ドゴォォォォンッ!!
すり鉢状の闘技場の床に深々とめり込み、全身の骨が悲鳴を上げる。
「統ッ!! 我が雷撃、神の理を——!」
セリアが雷速のステップでアルテアの死角から斬り込む。しかし、アルテアは振り返りもせず、指先をピンと弾いた。
「重力偏向」
バチィィィンッ!!
セリアの雷光と刃の軌道が、アルテアの周囲に展開された重力の曲面によって「真上」へと捻じ曲げられ、彼女自身も強力な斥力によって壁際まで吹き飛ばされた。
「ハァ……ハァ……」
俺は血を吐きながら、白銀の籠手を杖にして立ち上がった。
完璧だったはずの奇策が、いともたやすく、息をするような自然さで捌かれた。
「1ヶ月。君なりに知恵を絞って、重力の『抜け道』を特訓してきた努力は褒めてやろう」
アルテアは白スーツの埃を払いながら、冷淡に告げた。
「だがね、御堂統。僕は150年、この玉座に座っている。質量を持たない悪霊や、空間を跳躍する神獣……君のような『重力への対策』を持った天才たちを、何千人もこの手で殺してきたんだ」
アルテアの目が、俺を「取るに足らないゴミ」として見下ろす。
「君の1ヶ月の特訓など、僕の150年の経験値の前では、ただの児戯にすぎない」




