決戦の刻、箱庭への帰還
そして、約束の1ヶ月後。
西東京市の地下深く、放棄された巨大なジオフロント。
冷たいコンクリートの壁の奥に、過激派組織『オウル』の本拠地にして、孤児たちを蠱毒のように殺し合わせてきた悪趣味な地下要塞——『庭』の巨大な鋼鉄の門がそびえ立っていた。
俺の全身には無数の包帯が巻かれていたが、身体は羽のように軽く、魔力は今までになく研ぎ澄まされていた。右腕の『機巧神の籠手』が、俺の闘志に呼応するように銀色の微光を放っている。
「……ここが、紅刃の育った場所」
セリアが白銀の刀を抜き放ち、静かに息を吐く。
「統くん。準備はいいですね?」
イヴがインカム越しに尋ねてくる。俺は右腕を軽く握り込み、ニヤリと笑った。
「最高だ。今日のために、魔力もイカサマもフルチャージしてある」
鋼鉄の門の前には、オウルの紋章を刻んだ黒服の衛兵(下級の神殺したち)が数十人、重武装で立ち塞がっていた。
「止まれ! 貴様ら、ここを『オウル』のアジトと知って……!」
「セリア、道を開けろ」
「はいッ! 【迅雷・白夜】!!」
セリアの凄まじい雷撃が衛兵たちの陣形を吹き飛ばす。
俺はその隙間を縫うように、超音速のステップで巨大な鋼鉄の門の真正面へと跳躍した。
「開けゴマ、だ」
俺は白銀の籠手に魔力を込め、【6】の権能を起動させた。
『万軍の戦車』の蹂躙の概念を、右腕の打撃のみに一点集中させる。さらに、打撃の瞬間に【1】の逆位置を発動し、右腕の質量を「数万トン」へと爆増させる。
ドゴォォォォォォォォンッ!!
戦車の大砲をゼロ距離で撃ち込まれたように、厚さ数十センチの鋼鉄の門が紙くずのようにひしゃげ、爆音と共に内側へと吹き飛んだ。
砂埃が舞う中、俺たちは『庭』の内部へと足を踏み入れる。
そこは、古代ローマのコロッセオのようにすり鉢状になった広大な地下空間だった。
無数のオウルの構成員たちが、突然の侵入者にどよめいている。
そして、そのすり鉢の最下層。
処刑台の十字架に重力の鎖で縛り付けられた紅刃と、その前に立つ白スーツの男——アルテアが、ゆっくりとこちらを見上げた。
アルテアの顔には、1ヶ月前に見せたような「余裕の笑み」は一切なかった。ただただ、邪魔な虫をすり潰すような、絶対零度の冷酷さだけがそこにあった。
「……遅刻スレスレだぞ、ストーカー女」
俺はすり鉢の最上段から、処刑台の紅刃に向かって不敵に笑いかけた。
「統……ッ! なんで、バカ……逃げろって言ったのに……ッ!!」
紅刃が涙と血にまみれた顔で叫ぶ。
「待たせたな、アルテア。約束通り、アンタの王様のメッキを剥がしに来てやったぜ」
俺の宣戦布告と共に、アルテアの周囲の空間が、凶悪な重力でミシミシと黒く歪み始めた。
ハズレ枠の王と、歴150年の重力の王。
紅刃の命を懸けた、ダイス・マキアの第二ラウンドのゴングが、今、高らかに打ち鳴らされた。




