疑似重力室と、0.1秒の死線
そこからの1ヶ月は、文字通り血反吐を吐くような地獄だった。
地下の修練場。イヴが魔術で構築した「擬似重力室」の中で、俺はセリアと向かい合っていた。
「設定重力、ランダムで変動させます。死なないように」
イヴがコンソールを叩いた瞬間、俺の身体に「10倍」の重力がのしかかった。
「ガハッ……!」
膝から崩れ落ちそうになる。咄嗟に【1】の権能を発動し、自身の体重を「ゼロ」にして重力を無効化する。
だが、休む暇はない。
「我が剣、容赦はしませんよ!」
セリアの白銀の刀が、俺の首めがけて振り下ろされる。
質量ゼロのままでは、地面を踏み込んで回避する「摩擦」が生まれない。俺は刀が当たる直前で権能を【解除】し、一瞬だけ体重を戻して地面を蹴り、再び【1】で質量をゼロにして重力を躱す。
「遅いッ! 質量の切り替えが0.1秒遅れています!」
「ぐぁぁぁっ!!」
擬似重力に叩き潰され、動きが鈍ったところにセリアの木刀が俺の鳩尾にクリーンヒットする。毎日全身の骨が軋み、籠手で【6】の大盾を展開する練習で魔力枯渇による気絶を繰り返した。
「ハァ……ハァ……。クソッタレ……」
床に這いつくばる俺に、セリアが心配そうに手を差し伸べる。
「統、今日はもう……」
「まだだ。こんなんじゃ、あの金髪野郎の『本当の殺意』は躱せねえ」
諦めるという選択肢はなかった。
目を閉じれば、アルテアの圧倒的な暴力の前に膝を屈し、「アタシが処刑されれば、オマエたちは助かるかもしれない」と泣きながら笑った紅刃の顔が浮かんだ。
あいつは、昨日まで俺の隣の席で弁当の唐揚げを奪っていたクラスメイトだ。
俺の日常で、俺から理不尽に何かを奪おうとする奴は、神様だろうが古参の王様だろうが、全員イカサマでスッテンテンにしてやる。
「……もう一回だ、セリア。俺の『ゼロ・シフト』、今度は絶対に見切らせねえ」
「統……。はい、参ります!」
泥臭く、不格好に。それでも確実に、俺の身体は『神を殺すための最悪のイカサマ』を最適化させていった。
0.1秒の死線を越えるための、極限の集中力と反逆の意志が、俺の細胞一つ一つに刻み込まれていく。




