北米の死地と、紅蓮に刻まれる『六の目』
『——北米大陸、イエローストーン国立公園上空。目標の【2柱目の執行者】の孵化まで、残り180秒』
イヴの凜とした声が響くステルス輸送機の機内で。
俺は、左手の指先で純白のカジノチップ——【白き配当】を弾いてはキャッチし、円陣を組む極東の家族たちを見回した。
「いいか、お前ら。この白チップは、俺が溜め込んだ神殺しの魔力をそっくりそのまま上乗せする『一時的なジャックポット』だ。……だが、強制的に神の領域まで引っ張り上げられる分、反動はエグいぞ」
俺が警告すると、円陣の正面に立っていた紅刃が、愛用の大剣を肩に担いで獰猛に笑った。
「ハッ。誰に口聞いてんだよ、統。……シベリアでテメェが削った寿命の分、今度はアタシがキッチリ回収してやる。……アタシに全部ベットしな」
「よし。なら、ハッチを開くぞ」
ピーーーーーッ!!
ハッチ開放のブザーが鳴り響き、俺たちは猛烈な吹雪が荒れ狂う北米の空へと、一切の躊躇なく飛び降りた。
「……おいおい、シベリアのヤツより、遥かに厄介な気配がしやがるぞ」
上空から落下しながら、獣王ガルドが本能的な悪寒に顔をしかめた。
かつて広大な自然を誇ったカルデラ地帯。だが、大地は巨大なルービックキューブのように『完璧な幾何学模様』に切り取られ、無へ還されていた。
その空白の中心に浮かんでいたのは、巨大な【正八面体のクリスタル】——2柱目の執行者だ。
『——警告。2柱目の執行者、完全に【顕現】しました。……統、気をつけて! この個体、1柱目よりも遥かに強力な『淘汰の波長』を放っています!』
イヴの報告通りだった。名もなき神が放った五つの執行者は、どうやら『後から顕現するものほど、より強大になる』という悪辣な法則を持っているらしい。
しかも。
正八面体の表面から放射された無数の『光の線』は、大地には目もくれず、空中にいる「俺たち(神殺し)」だけを正確にロックオンして襲いかかってきた。
「……なるほどな。神の理を盗んだ咎人を優先して狙う、純粋な『神殺しキラー』ってわけか」
レヴィが氷の防壁を展開するが、執行者の光線はそれに触れた箇所から『存在そのもの』を静かに消滅させていく。
「紅刃! タイミングは合わせるな、お前の好きに暴れろ!!」
「当たり前だ! アタシを誰だと思ってんだ!!」
俺は、手の中の『白のチップ』を、真っ逆さまに特攻していく紅刃の背中へ向けて、全力で弾き飛ばした。
カチンッ……!!
空中で、紅刃の背中に白きチップが吸い込まれた瞬間。
「おおおおおおおオオオォォォッ!!!」
紅刃の全身から、神々しくも暴力的な『白金の炎』が爆発的に吹き上がった。
俺の神殺しの魔力を上乗せされ、一時的に神の領域へと足を踏み入れた紅刃は、迫り来る「存在を消滅させる光線」を、その白金の炎で真正面から叩き割っていく。
「——統の命を削らせた落とし前……キッチリ払ってもらうぜ!!」
紅刃が、全身の白金の炎を大剣の一点に極限圧縮し、正八面体のクリスタルの脳天へ向けて振り下ろした。
ピキ……ッ。パァァァァァァァァンッ……!!!
断末魔の音すらない。
2柱目の執行者は、星の律ごと白金の炎に焼き尽くされ、イエローストーンの上空で美しい光の粉となって爆散した。
「……やった、か」
俺が空中で息を吐いた、その時だった。
執行者が爆散した光の残滓が、俺ではなく——大剣を振り抜いた『紅刃の身体』へと激流のように吸い込まれていったのだ。
「ぐ、ぁぁぁぁぁッ!?」
紅刃が苦痛に顔を歪め、彼女の握る大剣の刀身に、焼印を押されるように『赤熱する六つの星』——サイコロの【6の目】が、深く、鮮明に刻み込まれていく。
「……マジかよ。紅刃に、権能が宿った……!?」
俺は目を見開いた。
白のチップの効力とはいえ、トドメを刺した紅刃というプレイヤー自身が、星の淘汰を喰らい、その身に新たな理を刻み込んだのだ。
俺の権能がサイコロであることに呼応するように顕現した、最高値の目。
『——権能顕現:【第六の目:紅蓮の空白】』
「……はぁ、はぁ……」
空中で意識を失いかけた紅刃の身体を、俺は間一髪で抱きとめた。
「……やったぜ、統……。アタシも、テメェとお揃いの……バケモノの力、貰っちまったみたいだ……」
「……ああ。よくやった、世界一カッコいい特攻隊長だ」
大剣に刻まれた【6の目】。紅刃自身が手に入れた、空間の概念すら斬り裂いて燃やす、彼女専用の強力な『神殺しの炎』だった。
荒野に着陸し、意識を失った紅刃を寝かせた直後。
『——統。残る三つの胎動が、完全に【顕現】しました。……急いでください』
イヴの音声が、かつてなく緊迫していた。
『アフリカ大陸に顕現した【第3の執行者】の座標に、死王ゼインと幻王の同盟軍が接触。……しかし、同盟軍は完全に「蹂躙」されています!』
「……蹂躙、だと?」
俺は耳を疑った。
『はい。第3の執行者は、1柱目や2柱目とは比較にならない絶望的な力を持っています。死王と幻王は逃げ場を失い、一方的に軍勢を消滅させられながら、敗走を続けている模様です……!』
俺は、レヴィと顔を見合わせた。
仮にも六王の2人が、なす術もなく狩られている。
「……ハッ。最高に笑えるジョークだ。気位の高い六王たち
が、尻尾を巻いて逃げ回ってるとはな」
俺は、ウロボロスの傷跡が残る拳を鳴らした。
「行くぞ、お前ら。次のテーブルはアフリカだ。……ビビって逃げ回ってる元・王様どもを踏み台にして、俺たちが3柱目のバケモノをぶった斬ってやる」
次なる絶望の地へ向けて。
第六の権能を手に入れた極東陣営は、血みどろのサバイバルの手綱をさらに強く握りしめるのだった。




