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神殺しのダイス・マキア ~最弱ギャンブラー、命をチップに傲慢な理を物理で粉砕する~  作者: kiro


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淘汰の産声と、原初の灰燼(オールイン・アッシュ)



極寒のシベリア。永久凍土を抉り取ったような巨大なすり鉢状の空白地帯で。


山脈ほどもある漆黒の『一つ目の繭』を前に、極東の狂った家族クランたちは、一切の躊躇なく最初から最大火力のチップをテーブルに叩きつけた。


「オラァッ! 起き抜けにぶった斬られて、永遠に寝てなァッ!!」


先陣を切ったのは、万物両断の剣王レオン。

彼の白銀のクレイモアから放たれた、空間そのものを断ち割る巨大な飛ぶ斬撃が、一直線に漆黒の繭へと直撃する。


「……合わせるぞ、獣の王」


「ガハハハッ! 命令すんじゃねえよ、冷血漢!」


氷王レヴィが空中に無数の絶対零度の氷槍を現出させて一斉掃射し、獣王ガルドが剛毛に覆われた太い腕に大地を砕く魔力を圧縮し、砲弾のように自らの肉体を射出する。


さらに、雅の神速の抜刀術と、翠蓮の流麗なる槍の刺突が、寸分の狂いもなく繭の『急所』と思われる魔力の結節点へと叩き込まれた。


ズガガガガガガガガガッ……!!!


鼓膜を破るような轟音と、巻き上がる雪煙。


王クラスの神殺しを含む、極東の最高戦力による理不尽なまでの同時攻撃フル・ベット。いかなる神の防御結界であろうと、木端微塵に砕け散るはずの一撃だった。


だが。

「……嘘、でしょ」


盾を構えて後方に控えていたセリアが、信じられないものを見たように青ざめた声を漏らした。


雪煙が晴れた後に現れたのは、傷一つついていない漆黒の繭。


いや、違う。防がれたのではない。


「……俺の斬撃が、消えた?」


空中に着地したレオンが、自分の剣の軌跡を見て戦慄した。


レヴィの放った氷槍も、ガルドの獣の魔力も、雅や翠蓮の物理的な一撃すらも。


繭の表面に触れる数センチ手前で、まるで『最初からそこに存在していなかった』かのように、音もなく綺麗に削り取られ、虚空へと消滅していたのだ。


『——警告。繭の内部から、致死レベルの魔力膨張を検知』


イヴの無機質なアラートが、極寒の空気に響き渡る。


『先ほどの攻撃が「刺激」となり、孵化のプロセスが強制的に加速しました……! 来ます!』


ドクンッ、と。


巨大な繭が、悍ましい心臓のように脈打った。


次の瞬間、漆黒の殻がメリメリと音を立てて内側から裂け、中から『それ』が姿を現した。


竜のようでもあり、悍ましい多腕の獣のようでもある、不定形の巨大な泥の塊。這い出た【1柱目の執行者】には、目や口といった明確な器官はない。ただ、圧倒的で原始的な「淘汰の概念」だけが、冷気のように周囲へ垂れ流されていた。


ズォォォォォォ……ッ。


執行者が、ゆっくりとその不定形の『腕』を振り上げた。


ただそれだけの動作。だが、その腕が通った軌跡にある空間の雪も、岩も、光すらもが、音もなく「無へ還って」いく。


「……避けろッ!!」


俺が叫ぶより早く、無の波動を纏った巨大な泥の腕が、最前線にいた雅と翠蓮へ向けて薙ぎ払われた。


「くっ……!」


「雅ちゃん、下がって!」


二人が防御の体勢をとる。だが、武器で受けようとした瞬間、その切っ先から概念ごと「無へ還される」のは明白だった。


「間に合わない——ッ!!」


セリアが白銀のアイギスを構えて二人の前に飛び出そうとするが、距離が遠すぎる。


万事休す。誰もがそう思った、その時。


「……俺の家族(手札)に、勝手に触ってんじゃねえよ」


雅と翠蓮の目の前に、ウロボロスの傷跡が刻まれた背中が割り込んだ。


「すばる様ッ!?」


「すばる君、駄目です! それに触れたら……!」


悲鳴を上げる女たちを背に庇いながら。


俺は、左手のポケットから、光すらも吸い込むような赤黒く脈打つ分厚いカジノチップ——【星のブラックチップ】を引き抜いていた。


「……統、お前ッ!」


後方で、レヴィが顔色を変える。


このチップを盤面に投げるための燃料は、俺自身の『魂の寿命』だ。使う度にお前の命は確実に燃え尽きる——星の底で灰のディーラーが嗤った言葉が、脳裏に蘇る。


だが、迷いはない。俺は自分の命を失うことよりも、こいつらが俺の目の前で消えちまうことの方が、何万倍も恐ろしい。


「……ベット(全賭け)だ」


俺は、迫り来る執行者の『無の腕』のド真ん中へ向けて、その赤黒いチップを力強く弾き飛ばした。


カチンッ、と。


チップが、絶望的な淘汰の空間の中心で、硬質な音を立てて止まる。


その瞬間。


俺の魂の奥底から、ごっそりと、本当に「命の炎」そのものを削り取られるような、目の前が真っ白になるほどの強烈な喪失感と激痛が走った。


「がはっ……!!」


口から鮮血が噴き出す。


だが、俺が払った重すぎる掛けチップは、盤面のルール(理)を完全にひっくり返した。

『——【原初の灰燼オールイン・アッシュ】!!!』


投げ込まれたブラックチップから、星を丸ごと焼き尽くすほどの、途方もない『原初の炎の概念』が爆発的に膨張した。


「ゴォォォォォォォォォッ!!!」


それは、単なる炎ではない。


あらゆる神の理を、強制的に燃やし尽くして「なかったこと」にする究極の暴力。


無へ還す執行者の腕が、原初の炎と激突する。


淘汰の権能が炎を消し去ろうとするが、命を燃料にして燃え盛る原初の概念は、それを上回る速度で執行者の腕を——いや、巨大な泥の身体そのものを、物理的・概念的に『燃やし尽くし』ていった。


ギィィィィィィィィィンッ……!!!


名もなき神の臣下が、断末魔のような金属質の悲鳴を上げる。


数秒の拮抗の末、原初の炎がすり鉢状のクレーター全体を包み込み、そして——。


「……っ」


炎が晴れた後。


永久凍土の大地には、先ほどまで孵化しようとしていた山脈のような巨大な執行者の姿はなく、ただ、真っ白な『灰』だけが、雪のように静かに降り注いでいた。


相手の権能そのものを、灰にして無効化したのだ。


「すばる様……ッ!!」


「統!!」


血を吐いて膝から崩れ落ちそうになった俺を、雅とセリアが両脇から必死に抱きとめる。


翠蓮が血相を変えて俺の胸に回復魔力を注ぎ込むが、削り取られた『寿命』は、通常の回復魔法で完全に癒えるものではなかった。


「……ハァ、ハァ……」


俺は、荒い息を吐きながら、血に染まった口元を拭って不敵に笑い、灰になったクレーターの中心を見据えた。


「……ハッ。どうだ、名もなき胴元よ。……お前の配った一枚目のカードは、俺のイカサマでスッカラカンだぜ」


極東のイカサマ師の、命を削った最強の全賭け。


だが、背筋を這うような悪寒はまだ消えてはいない。世界には、この途方もないスケールの執行者が、あと『4柱』も残っているのだから。


灰の降るシベリアの凍土で、極東陣営は人類史上最悪のサバイバルゲームの「血みどろの第一歩」を、確かな痛みを伴って踏み出すのだった。

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